ポールキャスナー 薪ストーブのある生活

日本における草分け的存在が贈るカントリーライフの提案。薪ストーブにまつわる様々なストーリーをお届けします。

横山勝也先生、ありがとう。そして、さようなら。

 

私は尺八を習うために日本に来ましたが、冬寒く道路もないような長野県の山奥の古民家に住み着いて、必要に迫られ薪ストーブ生活をしていました。
そして薪ストーブの仕事の魅力がわかり、尺八で生活しないで薪ストーブ屋になりました。
しかし、その尺八がなければ日本の薪ストーブ屋にならなかったので、
今があるのは尺八名人・横山勝也先生のおかげです。今回はその話です。

アメリカの大学生時代、ボストンで小澤征爾氏指揮、武満徹氏の作曲、オーケストラと尺八と琵琶のための「ノヴェンバーステップス」の演奏会に行き、鶴田錦史と横山勝也のソロを聴きました。
そこで初めて尺八の音に出会いました。
横山先生の音は明るい、暗い、強い、弱い、荒い、甘い、怖い、笑い、哀しい、鋭い、、、

横山先生の尺八の音を聞いただけで「これを習いたい!」と決断し、早速楽屋に行って先生の名刺をいただきました。
その時に先生が「日本語を習いなさい、そしたら弟子になってもよい」とおっしゃいました。
その後2年間ブラウン大学で外来生として日本語を勉強しました。
その2年の間、ウェスリアン大学の邦楽部のゲスト教授・岩本由和氏に入門しました。
そして1976年の夏、バックパックだけの財産で来日しました。

来日のとき、先生の弟子で和楽器作曲家の関一郎氏が羽田空港に迎えに来てくれた。
「部屋に案内する前に寄る所があるのでついて来てください。」
飛行機を降りた足で虎ノ門の音楽スタジオに行きました。
そのとき関さんは歌謡曲の尺八録音の仕事でした。日本の一日目でスタジオで生の尺八の音だ!
幸せでした。

尺八の魅力は古典本曲です。古典本曲は尺八の最も古い音楽で、虚無僧が人から人へ伝えた音楽です。
本曲は自然界の営み表現したり、僧侶のお経のようなイメージがあります。
琴古流の古典本曲「鹿の遠音」は2匹の鹿のラブソングのようだ。
尺八2本でやる曲で、雄と雌の鹿が山に渡って鳴き合う感じです。
「一二三鉢返し」という本曲は虚無僧が托鉢でお茶碗にご飯をいただだいた時のお礼の曲です。
「鶴の巣籠り」は子供の巣を作る鶴のイメージ。コロコロした音が鶴の声そのもの。

横山先生は伝統的な琴古流・吾妻流の名人。
琴古流古典本曲がすばらしいが、横山先生の特徴は道曲という本曲です。
道曲は海童道祖(わたずみどうそ)の禅の瞑想の音楽です。

横山先生は上手というよりも天才でした。
彼はどんなジャンルでもすばらしい表現をしていました。
彼の心がすべて尺八の音楽に入っていました。
その後三曲、近代曲、彼の先生福田蘭童の曲、沢井忠夫先生の曲などなど、
青木鈴慕、山本邦山先生と組んで三本会というトリオの近代尺八活動も行いました。

私は横山先生と他の尺八の先生の音をたくさん聞き比べましたが、独特な音色、表現、タイミング、スタイルの幅など、やはり横山先生しかできないその音にほれました。そして入門しました。
アメリカから帰国された岩本先生のもとで2年間基本を稽古し、そして横山先生の東京高円寺の稽古場に通いました。


私と岩本由和先生。1994年、美星町の国際尺八フェスティバルにて

入門してからはお琴、三味線、唄と尺八の三曲の練習。そして本曲。
一つ一つ上手にならないと次の曲は与えてくれない。
最初に習った本曲は明暗流「本調べ」でした。シンプルで難しい。
長年かけてたくさんの曲と技を学び、昭和58年に準師範の免状をいただきました。

横山先生はすばらしい人でした。人に優しい、弟子に厳しい、よく笑う。
たくさんのいい時間を先生の稽古場で過ごしました。
横山先生のおかげで世界中に尺八が広まりました。
横山先生はすべての流派の源流である尺八本曲を中心に、国境を越え、流派を越えて研修の場を作ることが夢でした。私は長野にぜひ作ってほしかったので、廃校などご案内しましたが、残念ながら条件に合う場所がありませんでした。
最終的には岡山県美星町旧県立矢掛美星高校舎を借り、1988年、横山勝也を館長として設立されました。


1977年、高円寺の稽古場です。
先生はおそらく42歳。私23歳。
稽古日はなるべく1日をかけて、朝から晩までいました。
長い時間正座するから脚がいつも痛かった。

(上の写真)左前から;横山先生、増田さん、田島先生、エリオートさん、佐藤さん、2列はリチャードさん、次の二人はごめんね、真玉先生(めがね)など、全員が全員の稽古を聞くから一日尺八の音を浴びることができました。
とても上手な方が多いので、大変勉強になりました。


静岡県清水市千手寺にてお琴と三味線と練習演奏会。日本に来て一年目。
着物の女性と三曲の練習をする。前列の真ん中は横山先生のご両親。
お父さんの欄歩先生は尺八の作者の名人でした。お母さんはお琴と三味線の先生です。
私は上の列左から3番目です。


先生はあっちこっち全世界へコンサート活動。
僕は彼の荷物を運んだり、お世話しました。
コンサートの手伝いをすると、先生の練習も聞けるので最高です。
先生の手伝いならなんでもしました。
大ファンですよ!
左は同じ南信に住むアメリカの尺八の作者のトム・ディーバーさん。


本番前後に先生のマッサージをする弟子眞玉和司氏と古屋輝夫氏。
先生は長い尺八を吹くので肩がこります。


海童道祖(わたずみどうそ)の講習会。1977~78年ごろ。
私は上の列の一番左。二列目はめがねをかける関さん。全員尺八熱心な仲間。

沢井忠夫先生の弟子と研修会。一日中三曲、近代曲と唄とお琴と三味線の実音の練習を頑張って、そして夜はコンサート。
お客様は大先生たちなので緊張しました。

1998年、長野オリンピック・芸術祭参加伊那文化会館にて邦楽サラダ。
これは私が先生と一緒に演奏した最後のステージです。
横山先生は中央です。私とビルさんは上段の白いワイシャツの左から1番と4番です。大ホールが満席でした。

横山勝也先生は4月21日に亡くなりました。
75歳でした。
先生、さようなら。
そしてありがとうございました。

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コメント

  1. 今あるポールさんの恩人になる方、日本に来られたオリジンですね。
    時の流れは容赦なく、時は出会いと別れをもたらします。また、悲しみをぬぐい去り、喜びだけを残します。心中お察し致します。

  2. 美星の空から・・・

    音楽教室のN先生から 横山先生の訃報を聞きました。
    N先生は、お別れに東京まで行かれたそうです。

    数年前 尺八のコンサートを美星町で聴きました。
    ずーっと 聞いていたいと思える
    心の震えるような演奏を聴きました。

    別れは いつも 突然です。
    横山先生のおうちは 形を変えて今も美星町に残っています。
    心の中に いつまでも存在してくれる方は 貴重です。
    「もう逢えない」「もう言葉を交わせない」ことがとても悲しく 辛く でもそれは 自分の 悲しみ 辛さであって 自分で克服していかなくてはなりません。
    横山先生の人生が 沢山の方々から慕われ悔いのない一生でいられたのなら
    よい人生だったのでは?   と 今 考えています。

    横山先生のご冥福をお祈り申し上げます。

    前を向いて進んで行きます。
    美星の空から・・・ありがとうございました。

  3. 私が横山先生を知ったのは昭和43年頃だったと思います。ラジオで邦楽の録音していた時、幸運にも横山先生の2尺9寸管による「虚空」が録音できました。尺八を習い始めて1年位の時です。それまでは三曲合奏が中心でしたが、「虚空」を聴いたときの衝撃は今でも鮮明に覚えています。誠に残念ながら、横山先生に師事することはありませんでしたが、肖像画を飾り、「虚空」と「産安」は横山先生の録音を聴きながら、もう40年も吹き続けています。ポール キャスナーさんのコラムを拝見して、私を夢中にさせてくれた横山勝也先生は、やさしいく今も心の中に生きているなーと感じました。

  4. 諏佐利光さん、
    コメントありがとうございます。「虚空」の2尺9寸管の録音を聞きたい!まだお持ちでしょうか?横山先生の音はあこがれですが、自分は中々そこまでできません。私が日本にくるきっかけは横山先生でしたので一生感謝しています。かれは私にとって一番すばらしい人間でした。

  5. 録音はとってありますので、ご希望ならばダビングしてお送りします。横山先生のライブ録音の「産安」も素晴らしいです。どちらへお送りしましょうか、メールください。

  6. はじめまして!持田と申します。
    高校で音楽を教えています。

    金環日蝕の時に横山先生と鶴田錦史先生の演奏する「蝕(エクリプス)」を生徒に聴かせました。日常でなかなか尺八の音を聴くことのない生徒も多く、感銘を受けていました。

    私はノベンバーステップスの初演は音楽史上の大事件だと考えています。
    授業で詳しく説明するために昨年出版されたばかりの琵琶奏者鶴田錦史先生の伝記を読み、横山先生が武満徹先生の要求する音を出すために肉体改造までした事、現代曲嫌いのニューヨークフィルのメンバーが演奏がはじまるまで失礼な態度だった事、初めて知ることばかりで驚愕しました。

    もし許可していただければ、キャスナーさんのように横山先生の演奏を聴いて尺八を習い始めた方がいるのだと生徒に紹介したいのですがよろしいでしょうか。

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