宮崎学「森の動物日記」

森と里と野生動物たちから教わった自然のメッセージ 信州・駒ヶ根在住の動物写真家宮崎学のフォトエッセイです

森のくすり屋さんはスギやヒノキ…

もう、9年も前にボクはここに「ムササビの眠る森」という日記を書きました。
あのときは、多くの方から反響がありました。
夜行性のムササビなので、ほとんどの方がムササビの存在を知らずに生活していることもわかりました。
でも、ムササビは東北から九州まで全国的に広くたくさん生息しています。
そのようなムササビですから、ボクは、いまでもいつでもムササビの存在には気づいていますし観察もできるようになっています。
そこで、また、ムササビに関していろいろ不思議に思う観察がありましたのでお伝えします。
それは、ムササビはスギやヒノキの樹皮をマイホームにして、健康管理や室内浄化をしていることに気づいたからです。

(Photo:スギの樹皮を敷き詰めたベッドのなかで眠っているムササビの子供です)

スギやヒノキは針葉樹です。濃い緑の葉っぱを一年中つけています。
このため、自然保護を唱える人たちには森が暗くなりすぎて広葉樹のように歓迎されていません。
でも、ボクは最近になって意識を変えて針葉樹を見直すようになりました。それは、針葉樹にはいろんな殺菌作用成分があって、野生動物たちはこの針葉樹を“薬局”のように利用していることに気づきました。

(Photo:見事に成長したスギの人工林。1960年代、本州では一斉にこのように植林をして、針葉樹を植えていた時期がありました)

とくに、ムササビやリス、モモンガといった齧歯(げっし)類は、巣材にスギやヒノキがとても必要みたいなのです。
巣の外壁にはスギやヒノキの粗皮をそのまま使い、子育てなどの布団になる部分には皮を噛み砕いて細く糸のように柔らかくして利用しているのです。


(Photo:これはスギの樹皮をムササビ類が剥いた痕です。どのスギでもよいというものではなくて、殺菌成分が多く含まれていると思われる特定の木だけを選んで剥いています。)

このように、ムササビをはじめとする齧歯類はスギやヒノキに依存しながら巣をつくり、そこで子育てをしていたのですから、生きるために大切な樹木になっていることは確かです。
もしかしたら、スギやヒノキの皮に含まれる「ヒノキチオール」のような殺菌物質で寄生虫や細菌から体を守り、最大限生活に利用していると考えて良いでしょう。
針葉樹には他にもマツ、モミ、ツガ、カラマツなどがありますが、これらの樹木にも殺菌物質が含まれています。


(Photo:スギの皮をしっかりたくさんくわえて、巣づくりのために運ぶモモンガです。)

他にもスギやヒノキを利用している動物や鳥はたくさんいます。

ワシやタカなどは、生肉を巣の中で食べながら子育てをしますので、針葉樹の小枝を頻繁に巣へ持ち込んで殺菌につかっています。
また、イノシシなどはカラマツやモミなど針葉樹の幹を傷つけ、そこから出る樹液(ヤニ)を体に擦りつけてダニ対策をしています。
さらには、シカやクマなども針葉樹林のなかに頻繁に出入りして休んでいますから、針葉樹の出すフィトンチッドシャワーを浴びて殺菌効果を求めていると思っていいでしょう。

このような観察をしてきていますので、ムササビやリス、モモンガたちがスギやヒノキの皮だけを巣の材料に使うにはそれなりの理由があるとボクは信じたいのです。

(Photo:リスの巣が天敵のテンに落とされていたが、茶色く見えるのはスギ樹皮100パーセントのどっさりでした)

(Photo:スギ樹皮でつくられたムササビの巣。ムササビは木の穴を巣にすることもありますが、このように樹の枝に巣をかけることもあります。樹洞でもこのような外につくる巣でもスギ樹皮をたくさんつかいます。)

(Photo:巣穴で眠るムササビの母子。ムササビは一人前になるまで親子でこうやって一緒に寝ていることが多いですが、寝床にはスギ樹皮がしっかり持ち込まれています。)


(Photo:このモモンガもスギの粗皮を運んでいました。ついでに少しコケもくわえていますが、どちらにも殺菌効果があるのでしょう。それで、布団を作りたいのです。)

(Photo:これがスギの葉です。造り酒屋の軒先でみかける伝統的な「杉玉」はこれを丸くして形を整えたもので、お酒の神様に感謝をささげる象徴だそうですが、昔の人はスギに殺菌効果があることをちゃんと知っていて利用していたのです。)

(Photo:こちらはヒノキの葉です。消臭や殺菌などのハーブとして使われたり、料理の飾りなどにも使われています)



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