シェルパ斉藤の八ヶ岳スタイル

八ヶ岳の手づくりログハウスを舞台におくる火にまつわる旅人的カントリーライフ

デッキの改修と還暦花見風呂

カフェ&雑貨の店『チームシェルパ』がオープンして16年になる。
建物の床面積の倍以上ある広々としたウッドデッキが自慢のひとつでもあるが、長年風雨に晒されて経年劣化が進んだ。
これまでもデッキ材の一部を張り替えるなど補修を繰り返してきたが、デッキ材を支える根太がわりの大引が腐食して手に負えなくなったため、全面改修に踏み切った。

施工を依頼したのは前号にも登場した頼れる男、岳(がく)だ。
「基礎をそのまま使えるから、3日もあればできますよ」とのこと。
さすがは数多くの現場を渡り歩いたフリーランスの大工である。

施工は冬眠中の『チームシェルパ』が営業再開する2週間前の2月末にすることになった。
僕は空いている時間を利用して、朽ちたウッドデッキを剥がす作業にとりかかった。
デッキ材はステンレスのビスで留めているので、錆びずにほとんど残っている。
ビスの頭をつぶさないように慎重にインパクトドライバーでビスを抜いたが、作業が進むにつれて16年の歩みを実感した。

大引はところどころ朽ちているし、ウッドデッキの隙間から落ちた駄菓子の袋やゴミが地面のあちこちに散乱している。
駄菓子を買いに来る子供たちが落としたのだろう。
想像どおりコインもいくつか見つかったが、残念ながら総額は200円にも満たなかった。

デッキ改修の要望として、継ぎ目のない一枚板で仕上げることを条件にあげた。
これまで使っていたデッキ材は腐食しにくいウエスタンレッドシダーだったが、木材を効率よく使うために途中の大引で継いでいた。
16年の歳月でダメになった箇所はすべてその継ぎ目である。
継ぎ目に埃や土が入り込み、湿気を含み、デッキ材や大引が腐食して劣化していく。
新たなデッキは一般的なSPF材でいいから、長さ5,4mの一枚板をそのまま使ってほしいと岳に伝えた。

大引は前回と同じく三寸角の木材を使用したが、岳は大引に細かい工夫を凝らした。大引もデッキ材も接する部分が乾燥せずに朽ちていく。
接着面に水気が残りにくくするため、岳は角材の両側をほんの少し削って傾斜をつけた(イラストはわかりやすいように傾斜を強調しているが、実際は断面写真のとおりわずかな傾斜になっている)。
宮大工の施工術だそうで、伝統の技法になるほどと納得した。

デッキ材は張る前に塗装を施した。
塗料は粉を水に溶かして使用するウッドロングエコという商品だ。
自然環境に無害な塗料であり、人体にも害がない。
北欧で昔から使われてきた天然素材の木材防護保持剤であり、塗布すると木の表面が酸化して腐朽菌が入りにくい環境になるという。
雨が降ると木材に成分が浸透して防護効果がさらに高まるらしい。
これまでのウッドデッキが16年使えたのだから、これから16年以上使えることは間違いないだろう。
自分たちの年齢を考えたらそこまで使えたら十分だ。

すべての材を張り終えたウッドデッキは美しかった。
天然素材の人畜無害の塗料だからそのまま寝転がることができる。
土足で上がりたくないその広間で、僕らは完成記念のお茶会を開いた。
早春の風が吹く、緩やかな心地いいひととき。
6年前にウッドデッキが完成したときも、しばらくは土足禁止のオープン座敷として楽しんだことを思い出した。

剥がしたウッドデッキは、補修等に使えそうな材と燃料になる廃材に分類した。
ウエスタンレッドシダーの廃材は焚き火や薪ストーブの焚き付けとして重宝する。
次男の南歩が帰省したので、作業を手伝ってもらうことにした。
軽トラの荷台にスライド丸ノコを置いて、長さ30cm程度に次々とカットする。
カットした廃材は旅人小屋の入り口脇に作った棚に並べて積んだ。

棚の前にはキンドリングクラッカーがセットされている。
カフェに来るゲストや子供たちもここで簡単に焚き付けを作って、焚き火を楽しむことができる。

廃材は焚き付けにする30cmのサイズ以外に60cmくらいにもカットした。
ロングサイズの廃材は五右衛門風呂を沸かす薪として使用するのだ。
2×6材は幅があってそのままでは燃やしにくいので、細かく割る必要がある。
薪を斧で割るときは、薪を立てて縦割りしなくてはならないが、長さ60cmの2×6材を薪割り台の上に立てるのは不可能に近い。

オススメの方法は、材を薪割り台に寝かせた状態で斧を一撃するスタイルだ。
力をそれほど加えなくても斧の刃が木材の繊維に沿って当たれば簡単に割れる。
「おもしろい。バッティングみたい」と南歩は喜び、次々と2×6の廃材を割っていき、五右衛門風呂を沸かすのに最適な燃料が積みあがっていった。

今年は全国的に桜の開花が早い。
わが庭のシンボルツリーでもあるサクランボも例年より2週間ほど早く開花した。
植樹して25年以上になるが、これほど早く開花したことはない。

長男の一歩も次男の南歩も「サクラ咲いたら1年生」の歌詞のとおり、入学式の朝は満開の桜のもとで(正確にはサクランボだけど)、記念写真を撮ることがわが家の恒例行事となっていたが、こんなに早い開花だと入学式が来る頃には桜の花は散ってしまう。
次男の南歩はこの春、大学を卒業して4月から東京で働きはじめるが、わが家が学校と縁のない生活がはじまることを早く咲きすぎた桜の花が示唆しているようにも思う。

でもこの早い開花のおかげで、3月半ばに春の恒例である花見風呂を楽しむことができた。
3月は僕の生まれ月であり、今年で60歳になる。
チームシェルパを支えたウッドデッキの廃材で沸かした五右衛門風呂に浸かって味わう花見風呂は、還暦の門出にふさわしいささやかなぜいたくに思えた。

Photo:斉藤政喜
Illustration:きつつき華

*隔月連載。次回の更新は2021年5月下旬です。

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