宮崎学「森の動物日記」

森と里と野生動物たちから教わった自然のメッセージ 信州・駒ヶ根在住の動物写真家宮崎学のフォトエッセイです

森と大地とノネズミ、そしてフクロウ

 

中央アルプス山麓の高原、真夏の深夜。

月明かりに照らされて、フクロウが音もなく飛来してきたかと思うと、枯れた杭にふわりと止まりました。
杭の上でしばらく地上を見つめていたと思ったら、
これまた音もなく舞い降りてノネズミを一瞬のうちに捕まえてしまいました。
そして、フクロウは悠然と森に帰っていきました。
 
この杭は、どうやらフクロウの狩り場となる止まり木のようです。
ならば、フクロウがまたやってくるにちがいないと思い、
高感度の双眼鏡を三脚につけてそっと隠れて見守ってみました。
すると、30分もしないうちに、フクロウがやってきました。
さきほどと同じように杭の上から地上を見つめ、再び舞い降りてネズミを捕まえていきました。
 
 

(Photo:ノネズミを捕まえて、巣に戻るフクロウ)

 
フクロウは、ネズミが主食の猛禽類です。
1羽のフクロウが、一年間におよそ最低でも2500匹ほどのネズミを捕まえて生活しています。
ネズミはこんなにフクロウに捕まえられては絶滅してしまうと思われそうですが、
ネズミの繁殖力はすごいものがありますから心配いりません。
とにかく、ノネズミは妊娠期間が21日ですから、次々に新しい世代がうまれてくるからです。
しかも、親ネズミの平均寿命なんて1年くらいしかありません。

こうして、ネズミは10メートルおきに1匹いる計算になるくらい、日本の山野にはたくさん生息しています。

こんなにたくさんいるネズミですが、フクロウだけでなくタカやヘビなどにも絶えず狙われています。
海のイワシと同じような立場にあるのが陸の「ネズミ」と思っていいでしょう。
 
 

(Photo:巣穴から顔を出したアカネズミ)

 
大地にネズミがこんなにたくさん生息しているのには、意味があります。
それは、ネズミは大地の表土の浅いところにトンネルを掘って生活していますので、
土中のバクテリアたちに酸素を送るという役目を担っています。
 
土中には何億匹といった小さなバクテリアたちがいて、彼らは土を柔らかくする仕事をしています。
こうしてバクテリアが活発になれば、植物などの根もどんどん延びていけますから、
山野が元気になっていきます。
 
草原や農耕地、林、森林と、それぞれ生活に適したネズミたちが生活しているので、
ノネズミたちの活動が日本の豊かな緑を作ることになっているのです。
そして、植物や樹木が元気だと、ネズミたちの餌となる種子などがたくさんできますから、
ネズミたちも元気に活発になれるというわけです。
 
 

(Photo:アカネズミ。倒木をバイパス道路のようにして、すごく早く走っていきます)

 
こうして、ネズミたちも増えていけば、
フクロウなどのネズミを餌とする生き物もどんどんネズミを食べて元気に繁殖します。
フクロウが巣を作る豊かな森では、秋になると葉が落ちて、
それが土を作る元になり、木の実はネズミを育てます。
これが、まさに食物連鎖であって、
こうしたフードチェーンを知るだけでも、大地がいかに大切なものかが分かります。
 
その大地を、私たち人間は放射能で汚染してしまいました。
ノネズミにはその影響が一番先に現れてくると思いますが、
それを食べるフクロウたちにも連鎖していくのではないかと心配しています。
これからは、放射能という未知の分野も視野にいれた目で、
自然環境を観察していく必要が出来てしまいました。
 
 

(Photo:これは顔の丸いスミスネズミ。落ち葉は大地にとって必要な栄養分)

 
 

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