カッコウと里親鳥の攻防戦
(Photo:巣立ち間際のカッコウのヒナ)
朝、カッコウの声で目が覚めました。
早朝より、
「カッコウ カッコウ … 」と、しきりに鳴いています。
この声を聞くと、信州の里にもやっと初夏が来たなぁーと毎年思います。
カッコウは、その声の特徴からそのまんまに鳴きますので、
誰でも名前だけは知っている野鳥です。
私たちにはたいへん親しみのある声ですが、
自然界ではカッコウの声をすごく迷惑がっている野鳥も少なくありません。
それは、カッコウは自分で子育てをしないで、
オオヨシキリやモズなどに卵を預けてしまうからです。
このため、里親をさせられるほうはたまったものではありません。
自分の子供ではないと分かっていても、育てあげなければならない不条理にさらされるから、
カッコウのことが嫌いなのです。
だから、「カッコウ」という声を聞けば憎悪が敏感に反応してしまって、
カッコウを追い払いにいきます。
実はこれがカッコウの作戦なのであって、
雄のカッコウが「カッコウ カッコウ」と鳴けば、
近所で巣づくりをしているオオヨシキリやモズが騒ぎ立てます。
この隙に、雌のカッコウが里親となる巣へ飛び込んでいって卵を産んでしまいます。
このとき、里親となる巣の卵の数合わせをするために、
カッコウの雌は相手の卵をひとつ口にくわえて逃げていきます。
こうして、里親たちはまんまとカッコウの作戦にひっかかってしまいます。
こうして産み込まれたカッコウの卵は、
オオヨシキリの卵たちよりも1~2日早く孵化します。
早く生まれて、義兄弟となるオオヨシキリの卵を
カッコウのヒナは背中に背負って全部外へ押し出してしまいます。
兄弟がいると餌を独り占めできないから、
義兄弟となる卵は捨てて殺してしまうのです。
何千年も前から生物の進化としてカッコウが生きてきた姿ですから、
これは自然界での、当たり前に繰り返される生命の試練なのです。
もっとも、カッコウだけが戦略的に優位に立っているとはかぎりません。
育ての親に見破られて、逆にカッコウの卵を捨てられたり、
子育て放棄に遭うことも少なくありません。
そうしたこともあるので、カッコウは乱婚という形でいろんな雄と交尾しながら、
それぞれの雄のカッコウに流れているDNAを広範にばら撒くことを考えているようです。
このため、里親にさせられる呑気な野鳥がいると、
カッコウたちに集中的に狙われて子育てをさせられることもあります。
このようなときには、一時的にカッコウの数が増えますので、
いたるところで「カッコウ カッコウ…」とさかんに声が聞かれる年もあります。
今年は、カッコウの声が一応は聞かれますが、全体的にはかなり少ないものです。
たぶん、ここ2~3年ほど前に、
里親にさせられる野鳥たちが他人の子育てをさせられてはたまらないと、
カッコウの子育て放棄が一斉にあったにちがいありません。
そのうちに、里親たちも世代交代を繰り返していきますから、
その不条理さを時間とともに忘れてしまうものもいて、
再びカッコウのDNA戦略に卵を預けられてしまうことが起きてきます。
そうすれば、カッコウの声も再びにぎやかになると思います。
自然界は、こうして、かなり厳しく生命のバトンタッチが繰り返されていくものです。
それが自然であって、いろんな試練に生命も磨かれていくのです。
そんな自然界の裏側を知っていれば、カッコウの声もまたちがった捉え方ができて楽しいものです。
(Photo:喉をふくらませて鳴くカッコウ)
(Photo:里親にさせられるオオヨシキリ)
(Photo:カッコウは乱婚なので、雌は雄を原則的にすべてうけいれます)
(Photo:オオヨシキリの巣に産み込まれたカッコウの卵(矢印))
(Photo:オオヨシキリは自分より大きくなったカッコウを育てます)
(Photo:一足早く生まれたカッコウのヒナは、オオヨシキリの卵を背負って巣の外へ捨ててしまいます)