宮崎学「森の動物日記」

森と里と野生動物たちから教わった自然のメッセージ 信州・駒ヶ根在住の動物写真家宮崎学のフォトエッセイです

月の魔力と人工の明かり


 

夜の森は、とても神秘的です。
私たち人間には、真っ暗で恐ろしいところのように感じますが、そんなところではありません。
ボクはこれまでたくさんの夜の森をみてきました。

夜の森は、意外によく見えるものです。
実際に夜の森に入ってみますと、人間の目もすぐになれて、
森の陰影が昼間の世界のように見えてくるから不思議です。
人間の目も、かなり感度がいいんだなぁー、ということにも気づきます。

夜の森を利用するときは、月の明かりに手助けしてもらうといいでしょう。
満月を中心にして、前後1週間くらいは、夜の森を十分に楽しめます。
月明かりが、こんなにも明るく、そしてよく見えることに改めて気づかされます。

そんな夜間には、動物たちに出会うこともできます。
日本の動物たちは、夜間は光を吸収するような毛並みになっているので、
直接姿を見ることは難しいのですが、
月明かりが濃いと動物の「影」がくっきりとシルエットとなって見えます。
ですから、動物本体を探すよりも、影を先に探します。
影は月夜を引きずって動いていきますから、
その影のパララックス(視差)を追えばその先に動物がいるということになります。

こうして、毎月ある満月を楽しみ、月光浴をしながら自然に親しんでいると、
おのずと心は素直になり自然のありがたみがとてもよく感じられるようになってきます。
「月の魔力」が人間に自然界の営みを教えてくれるような気がします。
 

今、日本では人間が作ったエネルギーがどんどん増殖しながら、
自然界にはかりしれない影響を与えはじめています。
電気が満月以上の明るさで、夜の日本を支配しているから、人間は光によるホルモンバランスを崩され、
そこに暮らす生きものたちや人間のすべてが心を狂わされていっているように思えてなりません。
 


(Photo:東京・新宿にはドバトが深夜に活動していた)

都心などに暮らすドバトも夜間活動に移行するものが増えてきました。
ドバトは昼間活動して夜間は眠らなければならない鳥なのに、
すっかり夜行性になったものも少なくありません。

また、人口密集地にいけば街路灯や自動販売機などが蔓延し、
光の周波数に反応する昆虫たちが次々に集まっています。
こうして明かりに集められた虫たちは正常な場所での産卵もできず、
その場で死んでしまうものが少なくありません。
このため、種類によっては昆虫が激減しているものもあります。

さらには、アマガエルのように自動販売機に住み着くことで、
集まってくる虫を餌にしながら電気エネルギーを歓迎しているような生物もいます。
そして、薄暮系のキツネやタヌキのような日本古来の野生動物も
人工光を巧みに利用して活動しているものも少なくありません。
 


(Photo:自動販売機の照明を求めて虫があつまり、
それを食べるためにアマガエルもレストランと考えているようだ)

「月の魔力」は地球上のすべての生物には大なり小なり関係していることでしょう。
しかし、人工光の功罪はもっと大きくなっていくと思います。
人間によってつくりあげられた明かりは、生物にとっては、本来寝ている時間に餌を捕ったり、
本来いない場所に餌がやってくるなどの、間接的な「餌付け」を生み出すことにもなります。

そのようなことは、自然界ではやはりあってはならないことですが、
それに加担している私たち人間は、いまここで電気エネルギーの利用を真剣に考え直さなければいけないのではないでしょうか。
毎月やってくる「満月」と相談しながら夜を考えていけば答えもでてくるのではないかと思います。
 


(Photo:国道の信号機付近で眠るハクセキレイたち)

 
(Photo:深夜のため池で、アオサギがさかんに餌とりをしていた)


(Photo:街の灯りをうけて樹上にシラサギたちが眠る) 


(Photo:都心の夜景は、あまりにも無機質に感じてならなかった)

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