宮崎学「森の動物日記」

森と里と野生動物たちから教わった自然のメッセージ 信州・駒ヶ根在住の動物写真家宮崎学のフォトエッセイです

森の水場の60日

中央アルプスの山中に、水場を見つけました。
急斜面の尾根の中腹なので、そんなところに水が湧き出てるとは思いませんでした。
なのに、水は少ないながらもこんこんと湧いていたのです。
小さな水たまりもできていて、その溜はどうも動物たちがつくったように凹んでいました。

「こういうところなら、近所に暮らす野生動物たちの水場をめぐる物語があるにちがいない」

そう思った僕はさっそく、トレイルカメラという市販のカメラを設置して調べてみることにしました。
トレイルカメラはカメラと赤外線自動撮影装置がコンパクトなセットになったもので、最近はこのような便利なカメラが市販されるようになり、ロボット撮影も随分身近になってきました。

このカメラは一応防水仕上げになっていましたが、レンズに雨水が当たると映像にも影響がでるので、板で庇をつくって雨対策もしました。
こうして、二ヶ月近くカメラを放置してみたのです。
そして、その結果は、もう、夢中になるほどに面白いことばかりでした。
私たちが気がつかない時間帯や天候のなかで、野生動物たちがイキイキと活動していたのです。

私たち人間はもちろんそうですが、彼らも「水」は生きていくうえでとても大切なものとして、この場所を使っていたのでした。
あるものは水を飲み、あるものは水を風呂代わりにして、とにかくなくてはならないものとして生活に取り入れています。
イノシシやリス、シカは水を飲みにやってきます。
キジバトやカケスも水飲みや水浴びをしています。
あるときは、森のなかで滅多に出会えないオオコノハズクもやってきました。

こうして考えてみると、山で見る湧き水は水たまり一つにしても、あらゆる生物たちに必要とされていることがわかります。
無人カメラを設置してみて、夜間は赤外線撮影となりフラッシュなどが光らないために動物たちも安心して普段の生活を見せてくれました。
こんなに、知らないことが見えてしまうのですから、これはもう、ずっと観察してみるしかありません。
写真は撮影日時を入れてデータとしてわかりやすくしてみました。
トレイルカメラは夜になるとカラー撮影はできないので、夜の時間帯はモノクロになってしまいますが、2ヶ月間の記録をご覧ください。


(10月9日:水場にカケスがやってきました。カケスはほぼ毎日ここへ水を飲みききたり水浴をして再び森へ出かけていきました。)

(10月9日:夕方の18時34分といえば、秋の山はもう薄暗くなっています。そこへ、オオコノハズクがやってきました。オオコノハズクは夜行性なので、彼らにとっては朝ということになります。)

(10月9日:イノシシが水を飲みにやってきました。時間を見れば夜の11時半ころです。この時間、私たちは何をしているのでしょう…か。)

(10月11日:朝となって、サルたちが水を飲みにきました。朝一番の水で元気をつけているのでしょう。)

(10月12日:キジバトが水飲みにやってきました。倒れたこの枝は野鳥たちには大切な止まり木になっていたのです。)

(10月17日:大きな雄ジカが水飲みにきました。シカは秋が繁殖期なので、水を飲みながら元気をつけているに違いありません。)

(10月17日:リスも山の泉は水飲みに大切な場所です。)

(10月18日:また、オオコノハズクがやってきて水に入っています。午前3時の時間帯はオオコノハズクにとっては「夜シャワー」のつもりなのでしょう。)

(10月20日:大雨のなかカケスが水浴びをしています。雨が降っていてもカケスにとっては水浴びが必要なのでしょう。)

(10月20日:ヤマドリの夫婦がやってきました。雄は1m以上の長い尾羽根をもっていて目立ちますが、雌は地味な姿をしておりどこにいるのかわからないくらいです。)

(10月20日:夕方イノシシが水に浸かってますが、イノシシはこのようなところで小便を平気でしていきますから「水洗トイレ」にもしているのです。)

(10月21日:雄ジカは角があっていい表情をしていますが、中央アルプスには以前いなかったので確実に増えてきています。そして、秋が交尾期なので雄ジカはどんどん子種を蒔いているにちがいありません。)

 

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