宮崎学「森の動物日記」

森と里と野生動物たちから教わった自然のメッセージ 信州・駒ヶ根在住の動物写真家宮崎学のフォトエッセイです

物まね上手な初夏の野鳥、キビタキ

(Photo:囀るキビタキのオス)

今夏、中央アルプス山麓に渡ってきたキビタキの一部に囀(さえず)りの変化がおきています。

それは、囀りのイントロに「アオジ」の声を必ず入れているからです。

これまで、キビタキにはこのような変化はありませんでした。

(Photo: アオジはキビタキとはかなり遠縁の間柄です)

アオジは本州から北海道にかけて子育てをするスズメくらいの小さな野鳥ですが、主に灌木があって開けたところが大好きです。
開けた雑木林や平原などで「ピッチュン ジン ジュリーン」といった透き通るような声が森に響きます。
しかし、中央アルプス山麓にそのような地形がなく森林が多いので、これまでアオジの繁殖はほとんど見てきませんでした。


(Photo: キビタキはなかなかに派手で美しい小鳥です)

キビタキはアオジと同じくらいの野鳥で、夏日本にやってきて子育てをする渡り鳥です。冬は東南アジア方面へ渡って越冬します。
のどが鮮やかな黄色で、森林に「ピッコロロ、ピッコロロ」としたかわいい声が響き渡ります。
このキビタキは、普段からコジュケイやクロツグミなど、いくつかの野鳥の声を真似ながら自分の囀りのなかに編曲することがよくあります。

でも、今年聞いたキビタキの声があまりにも「アオジ」そのもので、こちらが騙されてしまうほどでした。
「ピッチュン ジン ジュリーン」…っと、まさにアオジのトーンで鳴いてから、キビタキのメロディーに入っていくのです。
両者の声を聞き分けできるボクも、騙されたと分かるまでに少しの時間がかかってしまいました。

原野が好きなアオジと、森林にすむキビタキ。生息する場所がちがうのに、キビタキはアオジの声をいつ覚えたのだろうか、と不思議に思っています。
たぶんアオジという師匠さんとの出会いがどこかにあり、モノマネをしたキビタキがいて、それがほかのキビタキにもうつっていったのではないかと思っています。

たぶんいろんなキビタキ同士が教え合ったりするので、3年くらいで、また別のイントロメロディーに変化していくと思います。
ということは、キビタキ自身がそれくらいの寿命枠で世代交代をしているからです。この囀り伝承がいつまで続くのかに興味があります。

このように、森に棲む野鳥たちも声だけを聞いているだけで、森の生命の変化が見えてくるから面白いのです。
探鳥会をして姿ばかりを追うのも良いですが、声のリスニングから森の深みを耳で知り、さらに何年間かの時間軸で毎年やってくる初夏という季節を楽しむのも良いと思います。


(Photo:こちらはキビタキのメス。このような色をしています)

(Photo:ナワバリ意識の強いキビタキ。ステンレスの屋根に写る自分の姿に攻撃しています。)


(Photo:きれいな色なのに、森で囀っていても姿を見つけるまでに時間のかかることが多いキビタキです。)

(Photo:このように、若葉のなかでは保護色になってしまうこともあります。)

 

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