宮崎学「森の動物日記」

森と里と野生動物たちから教わった自然のメッセージ 信州・駒ヶ根在住の動物写真家宮崎学のフォトエッセイです

中央アルプスの山越えをする渡り鳥

晩秋の中央アルプスの稜線で、渡り鳥の群れに出会いました。
渡り鳥は、ツグミなのか、アトリなのか、30~50羽ほどの群れとなって、次々にハイマツ帯の尾根を越え伊那谷側 に舞い降りていきました。


(写真:中央アルプス越えをするアトリの群れ。矢印のところに50羽ほどの翼が輝く)

夏の間に北半球の極北地で子育てをしていた野鳥たちが、秋風とともに迫りゆく冬の寒さに追われるように赤道を越え 、南半球へ渡って越冬をする旅に出ます。
これらの野鳥たちには、ハクチョウに代表されるように日本で越冬をするものもいますが、種類によってはオーストラ リアまで渡っていくものも少なくありません。
ハクチョウやカモは水辺の野鳥たちですが、山野を棲みかとする小鳥たちにも渡ってくる野鳥はたくさんいます。


(写真:オナガガモの群れが高空を一直線に南下をしていった)

こうして日本で越冬する野鳥には、シベリアや中国大陸を南下して日本海を渡り、能登半島まで一気に辿りつく野 鳥がたくさんいます。
能登半島からは、近畿地方や西日本に移動するグループと、静岡県などの太平洋側に移動するグループに分かれていき ます。
太平洋側に向かうグループは、富山平野を横断して岐阜の山間地に入り、北アルプス南部をかすめて中央アルプ スを駆け上ります。
このあと、伊那谷の南部や北部に散らばるものから、さらには南アルプスを越えて静岡方面へと向かうものに分散しま す。

そんな渡りのルートが昔から中央アルプスにもあるということは聞いていましたが、今回その飛翔ルートを初めて目撃 することができました。
ボクが目撃した渡り鳥たちは山野や畑などで餌をとりながら越冬するツグミやアトリ、マヒワなどの野鳥たちでした。
これらの野鳥たちは、種類がちがっていても、中央アルプスを越える飛翔コースはみんな同じルートでした。
それは、風の抵抗などを最小限に受けながら飛翔するために、みんな同じコースを辿らざるを得なかったのでしょう。

渡り鳥といえば、冬、双眼鏡を片手に有名な沼地や池などでカモなどを観察する野鳥ファンをよく見かけますが、地球 が冬を迎えると北半球から南半球へダイナミックに季節が移動していることを意外と知らない人は多いと思います。
この季節が移動するときに、気流が大きく動きますから、そのタイミングに野鳥たちも移動しなければならないのです 。
このタイミングをちょっとでも見逃してしまうと、彼らにとっては「死」しかありません。
なので、北極から南極に向かう気流の溝をうまく利用して彼らは渡りをするのです。

こうして、うまく気流の溝に乗っ かれば、けっこう体力的にもラクをして渡っていけるのだと思います。
そして、それぞれの地域で越冬した野鳥たちは、春になると今度は南極から北極へ風が動くので、それらの気流の溝に乗って再び故郷に帰っていけるのです。
こうして、秋と春に地球を股にかけたダイナミックな移動をしているのが「渡り鳥」たちであって、その途中に山脈な どがあれば難所となるから、何羽かの群れとなって越えて行くことになります。


(写真:カシラダカが二番穂で冬の生命をつなぐ)


(写真:ジョウビタキは、冬の使者)


(写真:越冬も後半になると、ツグミは平地の人家付近にもよくやってくる)


(写真:シロハラも、隠れた冬の使者)

晩秋の中央アルプスの稜線は、真冬のように冷たい風が容赦なく吹きつけます。
標高3000m近い山を渡る風は、それはそれは冷たく、手足も凍えてしまいます。
そんななかを渡り鳥たちはさみだれて波状をきりながら、元気よく稜線を越えて行くのです。
群れ全体が鳴くでもなく、静かに全員が無言のまま、気流を読みながら下界から次々と湧き上がってきたかと思えばス ルリと尾根越えをします。
その群れはよくよく注意を払っていないと見つけにくく、その日の気流の状態でコースもど んどん変化していくようでした。
こうして、初めて見る野鳥のアルプス越えには、日本全土で小さな生命をつなぐ最後の羽ばたきかと思うと、見ていて も勇気づけられるし応援もしたくなるものでした。


(写真:夜行性のカモも、昼間はこうして水辺で休んでいる)


(写真:新雪についたカモたちの足跡)

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コメント

  1. 小学生のころ、「ニルスの冒険」を読んでものすごく興奮しました。
    ニルスは卑怯な少年で、彼をとりまく鳥たちの崇高な精神にひどく打たれた記憶が残っています。
    ほんとにあの小さな体で脳みそで、鳥たちはどうして渡りなんてものすごいことをやってのけるのか、
    自然は大きな謎だといつも思うのです。

    東京に住んでいた頃、小さな、それでもカモやウのたくさんやって来る川のほとりに住んでいまして、カモ達が渡りの練習をしているのを見たことがあります。
    感動しました。

  2. 山のなかだけでなく、河原、田んぼや畑のまわりでも渡り鳥たちはひっそり生活しているものも少なくありません。
    そんな彼らも、みんな大陸を越え、海を越えてきたから冬の日本でも見られるのですね。
    人間も含めてあらゆる生命は、みんなスゴイものです。

  3. うちの子、つぐみのツグはお母さんの家でピッチ(ひよどり)たちとの毎日が楽し過ぎて
    140日という約束の日がちょっと過ぎてしまいましたが、とうとう人間の旅人同様にコンパスと地図を持って再びシベリア目指してかえって行きました。ここんとこ天気の悪い日が続いていましたが珍しく晴れた朝のことでした。「カタカタクック、カカカカコツコ」(そろそろ帰るよこの羽と-まれ)。向かい風は低く、送り風は高く気流をしっかり読んで行くんですよ!丹沢から山梨、アルプスを超えて日本海に抜けるのね・・・。

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