宮崎学「森の動物日記」

森と里と野生動物たちから教わった自然のメッセージ 信州・駒ヶ根在住の動物写真家宮崎学のフォトエッセイです

意地悪なヒヨドリと素敵なヒヨドリ

中央アルプス山麓にある、ボクの仕事場にはヒヨドリが1羽居ついています。
リスが遊びにくるテーブルがあり、そこにリンゴを出しておくと、ヒヨドリがつつきにくるのです。
リスもリンゴをかじりますが、ヒヨドリはそのリンゴを自分のものだと思っています。
ほかには、ヤマガラも数羽遊びにきますが、ヒヨドリはこのヤマガラがくると苛立って追い払っています。
リスがくれば、ヒヨドリは何もしません。
ヒヨドリは、どうやら野鳥だけに反応して意地悪をしているようなのです。

冬のナナカマドの実を食べにきたヒヨドリ
(photo:冬のナナカマドの実を食べにきたヒヨドリ。)

森のなかを軽やかに飛ぶ
(photo:森のなかを軽やかに飛ぶ。)

ヒヨドリがヤマガラを追う行動をみていると、あまり気分のいいものではありません。
そんなに執拗にほかの野鳥をいじめなくてもいいのではないのか、と思ってしまいます。
そんなヒヨドリですから、野鳥ファンにはほとんど人気がありません。
むしろ、嫌われているくらい、です。
ボクももちろん、ヒヨドリはあまり好きではありません。

しかし、意地悪だけどヒヨドリのことを少し知ると、そんなに嫌う野鳥ではないことがわかってきました。
それは、ヒヨドリにもいろんなタイプがあって、それぞれにこの地球上に生きて生命を張っているからです。
北海道に生息するヒヨドリの一部には本州など南部に渡るものもいますが、本州や四国、九州に生息するヒヨドリは一年中同じ地域に棲んでいるようです。
沖縄や八重山諸島にもヒヨドリは棲んでいますが、一年中を同じ地域に暮らしています。

沖縄など南方に棲むヒヨドリは、お腹の模様が茶色がかっている
(photo:沖縄など南方に棲むヒヨドリは、
お腹の模様が茶色がかっています。)

南方のヒヨドリでも、背中側はみんな同じような色をしている
(photo:南方のヒヨドリでも、背中側は
みんな同じような色をしています。)

ところが、ヒヨドリでも北半球から南半球まで、数千キロをダイナミックに渡っているものもいます。これらのヒヨドリたちは、春と秋の渡りには、日本列島を大群で移動しますので、なかなかに壮観です。
この渡りをするヒヨドリの姿は、日本のヒヨドリとまったく同じなのですが、夏にはシベリアなど極北の地方にまで行って、そこで繁殖活動をします。
そして、秋になると、繁殖地を離れて、日本列島を南下しながら海を渡り、東南アジア方面の国々で越冬をする、いわば日本を旅する渡り鳥です。
そんな壮大な渡りを毎年繰り返しているヒヨドリたちもいることに気づいてから、ボクはヒヨドリを見る目が変わりました。
それは50~60羽の単位のものもありますが、なかには数百羽もの群れとなることも少なくありません。
それらが、秋には愛知県の伊良湖岬から三河湾を横断して三重県の鳥羽市付近に上陸して、さらに南下していくことは有名ですが、このときは、数千羽もの大群になることもあり、それはそれは壮観なのです。

灯台から海に向かっていくヒヨドリの群れ
(photo:灯台から海に向かっていくヒヨドリの群れ。)

そんなヒヨドリの観察に、毎年秋になるとボクは伊良湖岬まで出かけていますが、この渡り風景を見ると心がすっかり晴ればれし、ヒヨドリのファンになってしまいます。
とにかく、シベリアから東南アジアを目指すには、三河湾なんてまだまだ小さな湾です。それなのに、ヒヨドリたちは慎重に風を読み、命がけで海に飛び出していく真剣な姿が見られますから、見ているボク自信が勇気付けられます。
そして、海上に出ると、波間すれすれのところまで下がって、必死で羽ばたいて対岸の鳥羽市をめざします。
上空からは天敵のハヤブサも出現して、ときにはヒヨドリが捕まって食べられてしまうことも少なくありませんが、それでも全員がなお渡りの終着点を求めつづける姿がすばらしいのです。
このさき九州から東シナ海を超えて大陸に渡るコースではまさに生命がけの試練が続くハズですから、全員が無事に越冬地にたどり着けることを願わずにはいられません。

同じヒヨドリなのに・・・・ボクの仕事場の庭にやってくるヒヨドリはとても軟弱に見えてしまい、なんだか気の毒にもなってしまいました。
ヤマガラなどに対するいじめも、渡ることをしないエネルギーの発散をしているのではないのかと思うと、なんだかそんな心理を観察してみたくなります。
同じ野鳥でも、好きとか嫌いといった感覚で見るのではなく、森に生きている意味というものを見つけ出す観察が大切なことなのかもしれません。

海上では海面ちかくを飛翔していく
(photo:海上では、海面ちかくを飛翔していきます。)

大群のヒヨドリたちの全員の目標は一緒
(photo:大群のヒヨドリたちの全員の目標は一緒です。)

一年中ボクの庭にやってきているヒヨドリ
(photo:一年中ボクの庭にやってきているヒヨドリ)



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コメント

  1. 東京は武蔵野の中高等学校に通っていた頃から、
    いつもいつもヒヨドリの声を聞いていました。
    伊那谷の標高900メートルばかりの地に引っ越してきて、
    ヒヨドリと縁が切れた、と思っていましたが、
    数年前から声が聞こえだし、年々増えてきています。
    あの声を聞くと、一気に武蔵野気分に戻るのです。
    標高がぐんと下がるのです。
    不思議なこと。
    そのヒヨドリが海をわたるとは知りませんでした。
    マンションのベランダにもリンゴ置いておけば食べにくるような、
    カラスの子分みたいな奴、ってイメージだったんですけど。
    ヒヨドリ、ほんとに色々なんですね。

  2. 寒くなって来たら、ヒヨドリの声聞こえなくなりました。いつからだろう。
    手伝いに行く高森のリンゴ畑では12月もずっとヒヨドリがいて、リンゴを食べに来ます。
    標高による違いをちゃんと調べてみたい、と思いました。

  3. あーる さん
    ヒヨドリは、山野の木の実などを食べ歩いていますから、それらを食べつくすと里のリンゴ園などにやってきます。
    これが、西日本とか暖地へいけば、キャベツなどを食害するとんでもなく悪い野鳥になります。

    まあ、生物は時と場合によって、悪くも良くもなるのですが、渡りをする姿だけは素晴らしいと思います。
    ボクの、仕事場にもとうとう1羽のヒヨドリが居つきましたが、可愛くないけれども一冬付き合っていくつもりでいます。
    そんなヒヨドリにも、必ず面白い発見もあると思いますので、そちらでもどうぞ醒めた目で見つめてあげてみてください。

  4. 昨秋、台風にたくさんのリンゴを落とされまして、以後リンゴ園のご主人は
    「どんな鳥だってあんなひどいことはしないぞ」
    と、鳥に甘くなりました。
    昨日、リンゴ畑でクマの食害痕を見ましたが、
    これだって台風に比べればかわいいもんだと思いました。

  5. こんばんは。寒くなってきましたが、お元気ですか?
    先日、何の番組か忘れてしまいましたが、宮崎先生を拝見しました。すぐに出かけなくてはいけなかったので
    チラッとお姿を拝見しただけになって残念でした、、、
    ヒヨドリが、あまり好かれていないとは知りませんでした。私には、頭がホワホワのカワイイ小鳥にしか思えませんが、、、農業にたずさわっていないからですかね。
    この前、アキアカネの写真を撮ってアップしたところ、見た方から初めて褒めたコメントをもらえ、とても嬉しかったです。少しでもいいコメントをもらうと写真、また頑張ろうって思えますね。
    そうそう、「フクロウ」の写真集、凄かったです。あれはすべて、フィルム写真ですか?
    ちょっと思ったんですが、デジカメは失敗は削除すればいいという手軽さは良くも悪くもですね。フィルム写真は、この一押しを大事に大事にするような気がします。「よし!」っていう迫力を、写真集から感じました。
    宮崎先生はきっと、デジカメでも同じようにできるのかもしれないですが、私は、消せることにちょっと甘えてるかなって思いました。

  6. Meiko  さん

    >「フクロウ」の写真集、凄かったです。あれはすべて、フィルム写真ですか?

    はい、すべてフィルムですよ。
    ISO感度は、100です。
    一枚に入魂ですから、それはそれは気合をいれて撮っています。

    >私は、消せることにちょっと甘えてるかなって思いました。

    写真を覚えるには、捨てるカットを勉強することです。
    「何故すてるのか?」を考えて、その逆を知ることですね。

  7. 先日、丁度、スタッフが、
    ヒヨドリの写真を撮って来ましたので、
    Facebookに掲載しようと思い、
    ヒヨドリのお話、記事の参考にさせて頂きました。
    ヒヨドリは本当に意地悪だなと思いますが、
    その写真では、
    誇らしげなヒヨドリが、なんともいい感じでした。

  8. 今年初めてひよどりが庭に巣をつくりました。4個卵を産み今子育て中です。
    毎日楽しく観察しています。あと1週間ぐらいで巣立ちそうです

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