宮崎学「森の動物日記」

森と里と野生動物たちから教わった自然のメッセージ 信州・駒ヶ根在住の動物写真家宮崎学のフォトエッセイです

ニホンリスの棲む森は・・・

(Photo:中央アルプス山麓のニホンリスが棲む森)

山野を散策していて、リスに出会うとなんだかとっても心がなごみます。
その愛らしい姿には特別に森から生命のプレゼントを受けたようで、癒し効果抜群です。
もっともリスはその愛らしい姿にずいぶん「得」をしていますが、森の生態的には地上から樹上までの森林空間を利用するドブネズミのような存在です。
こう言ってしまえば夢も壊れてしまいそうですが、尻尾にフサフサの毛が生えているだけで見たところがいいから得をしているのです。
フサフサの尻尾の毛は樹上を素速く移動するのに体のバランスを保たなければならないので、発達してきたものです。なので、それを除けばネズミの行動や食性とさほど変わりはありません。

そんなリスですが、今後将来的には大きな不安材料を抱えていることはたしかです。
それは、近縁の「タイワンリス」が国内で野生化をして徐々に分布域を拡大してきているからです。
タイワンリスはその名前のとおり台湾や中国南部などに生息しているリスです。
別名を「クリハラリス=栗腹栗鼠」とも呼び、お腹がクリ色をしているのが特徴です。


(Photo:ニホンリスのお腹は真っ白です)

(Photo:タイワンリスのお腹は茶色です。クリハラリスとも言われます)

このタイワンリスは、外観や仕草がニホンリスによく似ているので、動物園などで見せるために移入され飼育されてきました。
そのリスが野外に逃げ出して、いまでは関東や東海、九州などで野生化してきています。
そうすると、いつかやがてニホンリスとタイワンリスとの生息環境バトルがはじまるものと思われます。
そうなると、タイワンリスのほうがニホンリスより若干身体が大きいのでニホンリスが駆逐されてしまう可能性があります。

(Photo:南アルプスより南にある静岡県浜松市の公園。タイワンリスが普通に遊んでいます)

たとえば、浜松市などの公園ではタイワンリスが大量に野生化しています。
そのリスたちに餌づけなども行われていますが、これらのリスが少しずつ分布拡大をはじめてもいます。
電線や街路樹などを利用して新天地開拓をしているので、いつかやがて南アルプス山麓にたどり着く可能性は充分に考えられます。
そうすれば、南アルプス山麓は広大な自然環境が連続的に展開されているからタイワンリスは爆発的に増えることでしょう。
広大な自然環境に潜り込んでしまえば、もう人間の手の施しようがなく、拡大路線をたどるにちがいありません。
その広大な自然環境には昔から日本の野生動物として生きてきた「ニホンリス」がいますから、今後どうなってしまうのかボクは心配でたまりません。

(Photo:塩味のついたピーナッツはハトもリスも大好きのようです)

餌づけが行われている現場では、『タイワンリスは東名自動車道を越えることはないから大丈夫…』といった安易な答えが返ってきました。
しかし、そこは動物たちのやることですから、私たち現代人の認知を超えた能力を発揮するのも野生動物たちです。
今後、50年、100年後にはニホンリスの棲む自然環境はどのように変化していくでしょうか?
なんだか楽しみでもありますが、不安要素もなくはありません。
そんな100年後を見てみたいものですが、ボクにはそれは叶いませんのでこうして言葉の示唆で残しておくしかありません。

(Photo:地上を歩くタイワンリス。ふさふさのしっぽもついていてかわいいのですが・・・)


(Photo:木の幹を逆さまに下ってくるニホンリス)


(Photo:タイワンリスもニホンリスと同じように逆さまに幹を下ることができます)

(Photo:好奇心の強いニホンリス)


(Photo:ニホンリスを守るために道路標識で注意喚起を呼びかけている地域もあります)

 

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