宮崎学「森の動物日記」

森と里と野生動物たちから教わった自然のメッセージ 信州・駒ヶ根在住の動物写真家宮崎学のフォトエッセイです

脱力系カラスの観察

昨年の夏から、ウチの近所にとんでもなく変な声で鳴くカラスが現れました。

 
(Photo:冬の日。田んぼで餌探しをする変な声のカラス)

『ハアーァァーー↓ ハアーァァーー↓↓ 』…間抜けな声で、聞いているだけでこちらも力が抜けてしまうような声です。

このように鳴くのは1羽だけで、ほかのカラスは標準語なので、このカラスはどこにいてもその声で存在がわかります。

 
(Photo:脱力系カラスはこんな顔をしています。ハシボソガラスという種類です)

ボクは、このカラスを「脱力系カラス」と名付けています。
なんとこのカラスは近所にある携帯電話の中継鉄塔アンテナで生まれました。
カラスはふだんなら数羽の子供が誕生するのですが、この鉄塔一家は「ひとりっ子」でした。そのひとりっ子がやがて無事巣立ち、近所に棲みつきはじめたのです。

 
(Photo:携帯電話のアンテナ基地局で生まれました)

この子が飛翔できるようになってあちこちに行けるようになると、脱力系の声が移動するようになりました。
そして、300mほどは届きますので、どこにいても「あいつ」だということが分かります。

このカラスのふだんの定住エリアは生まれた場所の電波鉄塔付近ですから、遠くで脱力の声でないていても、やがて電波塔付近に帰ってくるので、ボクはその声でたしかに個体識別ができているのです。
そんな脱力系カラスの観察で、ボクもカラスの生態にだいぶ詳しくなりました。

 

カラスといえば、ボクが子供の頃からずっと、近所にはカラスがいました。
しかしその頃は鉄塔すらもなかった時代ですから、カラスはみんな木の上に巣をつくっていました。
それも、子供たちが木登りもできないような山の上の大木に巣をつくっていたのです。
そのカラスが、時代とともにどんどん里の人家付近に巣をつくるようになってきたのは40年ほど前からです。
木登りをするような子供たちが居なくなり、カラスも安心して巣づくりができるようになったから、カラスはこうして人家付近にもやってきたのだな、とボクは思うようになりました。

 
(Photo:カラスの足跡)

やがて、私たちは近代化を迎え、田舎でも都市並のインフラが発達しました。
電信柱は木からコンクリートに変わり、火の見櫓も鉄塔になりました。高層ビルや通信用の鉄塔も随所に見られる現代になると、一部のカラスは鉄塔に巣をつくるものが現れました。

そんな姿を見て、ボクは「やがて田舎にも鉄塔派のカラスがどんどん増えるに違いない」と予想するようになったのです。
それが、ここ2~3年の間に長野県の伊那谷という田舎にも、そんな鉄塔派のカラスが見られるようになってきたのです。

 
(Photo:東海地方で見かけた電柱です。長野県より10年早くこのような看板が出て来ました)

カラスは私たち身近なところにいるけれど、みんな真っ黒で同じように見えてしまいます。
しかし、今回のように「声」に特徴があると、カラスも区別して観察できるようになりました。
この脱力系カラスは一年経ったいまでも生まれた場所でいつも2羽で生活しています。
昨年生まれたハズですから両親が居なければおかしいなぁー、と思っているのですが2羽しかいないのです。

ボクの感じでは、完全立証するまで研究できていませんが、母親か父親のどちらかと一緒なのでは、と思っています。

そう思うと、このカラスたちはどういう家族構成をして次世代につながっていくのかも知ってみたいのですが、そんなことまだ日本では誰も研究していません。

カラスはこんなに身近にいるのに、そのくらい何も分かってないのが実情です。


(Photo:こんな人工物の中で一人っ子で生まれた)

 
(Photo:50年前には、このような人家先にカラスは巣をつくりませんでした)

 

(Photo:近年は人工的な新建材が巣にもつかわれるようになってきました)

 

分かっているのは、樹木からコンクリート電柱や鉄塔などの人工物に巣をつくるカラスが増えてきたということです。

そして、このような電波塔生まれの現代カラスは親から子供へと受け継がれていきますから、次に子育てする時も、樹の上ではなく人間の出したゴミの巣材や、人工物に巣をつくる可能性が大きいと思います。

昔よりずっと観察しやすくなったカラスなのに、昔のように木登りをしてカラスにいたずらしたり、観察したりする子どもはいなくなってしまいました。
でも脱力系のカラスが登場してきたことで、カラス観察のヒントがボクにまた一つうまれました。


(Photo:カエルや虫などの餌を探すカラス。田植えのあとの田んぼは、カラスにとってはまさにバイキングレストラン)


(Photo:脱力系カラスはハシボソガラスですが、これはハシブトガラスです。クチバシの太さがちがうので区別ができます)

  • ページの先頭へ

コメント

  1. 脱力系カラスわかります。私は裏磐梯に住んで36年になります。道路際に住んでいるのと少し集中して人家があるのでカラスは多いのと、今はすくなくなりましたが生ごみを土に活けるおうちがあるのでカラスにとっては毎日見回りに来る場所です。近くのカラマツ林に巣があります。犬を飼っていて毎日朝の散歩に行く前に帰ってきて食べさせるパンを窓のところに置いていくとカラスに取られるようになりました。どんなに隠してもだめなので置くのをやめて持っていき、途中で道端に座って犬に食べさせるようにしました。ついてくるのです。そしてあ↑ああー↓と鳴きます。パンを犬に投げてキャッチするついでに別の方角に投げるとカラスが飛んでキャッチします。面白いのでつい・・野生に餌をやるのはまずいですのでほどほど。それから何年かして、鳴き方の遅くまずい子がいるようでそのこには母親と思われるカラスがずっとついていました。その子はあーにもならずのっどの奥でうがいをするような音しかだせませんでした。洗濯物を干していると白樺の木に留まってごにょごにょいいます。「いるのかい かーこ!」というと母親らしきが「かあー」と鳴きます。これにはつい犬のパンをおすそ分けしてしまいます。見た目が同じ漆黒なのですが鳴き方で個性を感じます。つい長々失礼しました。これからも記事を楽しみにしております。

  2. 伊那市在住です。羽広に畑を借りて好き放題の百姓をしてますが、家庭残飯をコーンポースト?に入れてたのですが壊れて以来冬場畑へ直接まき散らして居たら 野良猫 狸 キツネが来るようでした。何時の間に隣の植木屋さんの畑からカラスが来る様になり、私の軽トラも認識して寄って来る様になり着かず離れずの距離でもう10年以上になります。ほとんどが手仕事の私は仕事そっちのけで彼らと遊びます。久しぶりに畑へ出るのに忘れて行くと 仕事をする鼻先まで来て「?」と言う仕草をします。家族も減り残飯も少なくなったある日即席麺をゆでて持って行きました時は傑作でした、多分初めての体験だったのでしょう、嘴で引くと伸びるのに驚き飛びあっがていました。 今年は3羽の子育てです、麺も割高なので食パンを刻んで持って行く事が多いです。家族は復活しましたが、以前の様に 残滓の多い食事が少なくなりました。骨付きの魚 肉等よりコンパクトな食生活になった事を カラスと一緒に嘆いて居ます。 電線での宙返りとか 餌に寄ってくるトビでも許容する個体と拒否する個体が有ります。面白いです(学さんには足元にも及びませんが!) 最近こちらを知りました 楽しみに覗きに来ます 

  3. 真野さん
    小笠原さん

    カラスに限らずすべての生物は人間とは逆の立場になってみると、相手がいかに「人間」を観察しているかがよく分かります。
    しかも、人を確実に個体識別しているという能力にも気づきます。
    そんな「気づき」が誰にでもできれば、この世の中もっともっと楽しく奥の深い生き方ができるのではないかと思っています。

薪ストーブエッセイ・森からの便り 新着案内