宮崎学「森の動物日記」

森と里と野生動物たちから教わった自然のメッセージ 信州・駒ヶ根在住の動物写真家宮崎学のフォトエッセイです

おじいさんとフクロウ


(Photo:フクロウはネズミが主食です。たった1羽のフクロウが年間2500匹ものノネズミを補食します)

いまから30年も前の話ですが、ボクは長野県の南部にある飯田市というところで講演をしました。
そのときの演題は、「フクロウと自然の暮らし」だったと思います。

 「とにかく、フクロウは私たちが思うほど少ない野鳥ではなく、700メートルに1羽くらいの確率で生息している。それなのに、夜行性のために私たちには見えていないだけなのだ。」
というような内容で話したのです。

そうしたら、最後の質疑応答のときに、会場のかぶりつきにいたおじいさんが質問してきました。
 『ウチの庭にある桜の木にフクロウが棲(す)んでおるんだけどなぁ。風呂の煙突の煙が届くところなのに、もう何年も通ってきて子育てしているんだに。見に来ておくれんかなぁ』というのです。

ボクは、「庭の木」「風呂の煙」「人の暮らしのなかに入ってきているフクロウ」・・・
そんなキーワードにそそられ、すぐにおじいさんのお宅を訪ねてしまいました。

そこは天竜川の河岸段丘の上にあり、周囲はリンゴ畑が広がっていました。
このような環境なら、ノネズミもたくさんいるからフクロウも確実に棲めると思いました。
そして、そんな農地の一角にある古い農家がおじいさんのお宅でした。

 
(Photo:この枝が折れて23年目にやっとフクロウが巣作りをしました)

その母屋から6メートルほどしか離れていないところに、樹齢100年ほどの「しだれ桜」がありました。
その桜は、大きく枝を張って屋根の半分ほどを覆っていました。

その桜の木の枝が幹のところから折れて穴があいたのは、1959年の伊勢湾台風がきっかけでした。
台風で枝が折れ、そこから腐りがはじまって樹洞となり、23年後の1982年にはじめてフクロウがやってきて子育てをしたのだそうです。
その後、14年間、春になると毎年フクロウが子育てをつづけていました。

 
(Photo:樹洞の中で生まれた2羽のフクロウのヒナは、真っ白な産毛に包まれていました)

そして、桜の木はさらに成長をつづけて、樹洞を残したまま入り口に表皮が盛り上がってきて穴を小さくふさぎはじめました。
すると、フクロウは出入りできなくなり子育てをあきらめたのが1996年のことです。

 
(Photo:雨の中をネズミをくわえて巣へ向かうフクロウ)

 

このような記録をおじいさんは分厚い日記帳に克明に記録をしていました。
このため、ボクは、フクロウがやってきて子育てをするきっかけから終焉までの時間をしっかりと明確に知ることができました。
このときに、フクロウの巣穴をつくるには台風や大雪が必要なこととして自然界にはプログラムされていることも悟りました。

このような自然現象が枝を折り、折れたところから腐りがはいると、それをよろこぶ「シロアリ」などの仲間が長い年月をかけて掘り進めていって「樹洞」のできることも知りました。
自然界は、ほんとうに巧くできていることをボクは改めてフクロウとおじいさんに教わったのでした。

 
(Photo:フクロウは森の哲学者とも呼ばれます。おじいさんたちの会話も聞きながら子育てをしていたことでしょう)

そのおじいさんとは、95歳で亡くなるまでボクはずっと長いお付き合いをすることになりました。

ある年の正月、ボクはおじいさんから届いた年賀状に、その健康を心配しながら返信しました。
それを息子さんに読めと枕元で命じて、満足顔で聞き入ったといいます。
そして、3日後に息を引き取ったのです。

喪主の息子さんとボクは2歳しか違わないけれど、お爺さんはボクを自分の「息子」のように思っていてくれたことをあとで聞きました。
フクロウがきっかけでボクと知り合えたことを、ほんとうに喜んでいたといいます。

伊那谷では米寿を過ぎての葬式は「お祭り」です。
葬列の前後に「花篭(はなかご)」がつき、そこにはお金がはいっています。それを墓までの沿道でバラまいていくのですが、そのお金を拾うと「長生き」ができるという縁起もかつがれています。
お爺さんを見送るとき、その花篭から落ちた五円玉をボクは拾いました。この五円玉は、ボクの車のキーホルダーにいまでも「お守り」としてついています。


(Photo:巣立った2羽のヒナはやがて近所の森で、次なる命を育んでいくことでしょう)



このWebマガジンはファイヤーサイドが提供しています。

  • ページの先頭へ

コメント

  1. 素晴しい話を聞かせてもらいました。 この話を親しい友人や孫達にしたいと思っています。

  2. 大変素晴らしい話を知ることができました。有難うございます。

    これを読むまでは、宮崎さんの写真のこれまでの野鳥のスマートさに、ちょっと誤解していたことを知りました。

    今後とも、ご活躍されることをお祈り申し上げます。

  3. おじいさんの鳥を見守る優しさを感じました。自然界の出来事が『みぃんな』つながっているんですねぇ…6年生の理科を担当していますが、いいポケットが増えました。ありがとうございました

  4. 6年の理科を担当していますが、フクロウ1匹、自然の出来事を使って上手に生きているんですね。

  5. いいお話、綺麗な写真ありがとうございます。まうすぐ米寿の私、凄く勉強になりました、自然の営みに何一つ無駄はありませんね、山口正一先生のお話とともに、大切に勉強させて頂きます。

  6. いつもながら感動させられます。うちの庭は狭いし、田舎といっても平地、森の中とかではないのですが、それでも色々な鳥たちがやってきます。
    その鳥たちが、糞をして色々な植物が芽生えてきます。庭は知らないうちに小さな小さな森になっています。
    近くの公園にケヤキの木が沢山あり、その中の一つに大きな洞が空いているものがあります。なにも住んでいる気配はないのですが、ひょっとしたらこんなところにも夜光性の鳥たちが遊びに来ているのかもしれませんね!
    宮崎先生飲みすぎ食べすぎに注意して、これからも素敵な写真をお願いいたします。

  7. 感動しました。(少し、嫉妬もしてますが(笑))
    自然界のリズム(クロック)と人類のそれとの差が、どうしょうもない所まできていることの一つの証、と思えるエピソードですね。
    行政の側にスピードを求めるのではなく、3世代後の家族や、地域の人々に喜ばれるような、仕組みや、インフラを提案できないかなぁ・・・なんてコトを真剣に考えています。

  8. 災害と思えることもすべて必要不可欠な自然の営みですね。目の前のものを守ることだけ考えていると、見失うものもある。時々読み返したいお話です。。。

  9. 宮崎さんの心がそのまま書かれている 温かな文がとても好きです。
    私は 子供さんを対象に 当別町(北海道)の奥地でガイド手伝いをしております。
    フクロウの声を時々 楽しんでおりましたが、一昨年秋以後 声を聴けなくなり 寂しく思っていました。
    昨年10月22日に録音されておりました 3羽の雌と1羽の雄の鳴き交わしに、驚くと共に ホッとしました。
    頭数の根拠は、鳴き交わしの音頭取り役の雌のドラ声が録音機と至近距離であり、
    他の雌の声が やや離れた所から 初めのドラ声に不規則に呼応すること から、
    雌が合計3羽 と考えました。雄の声は、離れた所から 最後に一言だけでした。
    鳴き交わしの時刻は、午前3時50分から4時30分までです。
    一連の鳴き交わしは、同一個体により 突然始まり、突然終わりました。

    家族構成なのですが、この場合 子の数は 雌が2羽で宜しいのでしょうか。
    また、最後の雄声は父親なのか、子の声なのでしょうか。厚かましいのですが御指導御願いして申し上げます。

  10. いつもコメントし損なっていますが、毎回、楽しみに拝見させて頂いています。

    おじいさんとのエピソードに感動し、思わず涙が溢れてしまいました。
    お礼を言いたくて、やっとコメントさせて頂きました。
    素敵なお話を、ありがとうございました。

    見たくてもなかなか見ることのできない、
    野生の生き物たちのリアルな姿をとらえた写真に、毎回目が釘付けで
    それに伴うお話とともに感動しています。

    こちらを拝見するようになって..
    自然界の生き物たちから学ぶことは多いと、つくづく感じるようになり
    野鳥や昆虫など、庭で出会える生き物たちにも関心が高まって、
    よく観察するようになりました。(たまには写真も撮ったりなど..)

    ほんとうに素敵な写真とお話、いつもありがとうございます。
    これからも楽しみにしています。

薪ストーブエッセイ・森からの便り 新着案内