宮崎学「森の動物日記」

森と里と野生動物たちから教わった自然のメッセージ 信州・駒ヶ根在住の動物写真家宮崎学のフォトエッセイです

けもの道


(Photo:冬毛のテン
 

ボクが東京で、「けもの道」というタイトルで写真展を開いたのは1978年のことでした。
中央アルプス山中につづく登山道に無人撮影ロボットカメラを3年間にわたって設置して、そこに出現してくる野生動物たちを撮影したものです。
これまでに、類を見なかった撮影手法でもあっただけに、写真家としてもっとも難関の『銀座ニコンサロン』をはじめ『新宿ニコンサロン』『大阪ニコンサロン』の三つの会場でいっぺんに開催すること異例中の異例でした。

当時の新聞やNHKテレビでもセンセーショナルに紹介されたので、会場は黒山の人だかりにもなりました。
初めての個展で、ボクは華々しくこうしてデビューすることができました。
若干、28歳のときです。


(Photo:二頭のイノシシがタテに重なってあるいてきました。以下今回の写真は1978年当時のものではなく、2006年から中央アルプス山麓にて撮影した写真です)

このとき、会場では何人ものクレーマーに遭いました。

『これは指でシャッターを切ってないので、邪道だ…』
『動物自身にシャッターを切らせるとは、失礼だ…』
『野生動物は人間の臭いのするところには出てこない。それなのに人も写っているからこれはウソ、だ。』
『けもの道なんてのはひっそりとつづいているものであって、このように人の歩く登山道は「けもの道」ではない…』

とまあ、いろいろな意見を静かな会場で罵倒するように大きな声で言われたものです。
なので、ボクは、

「私たち人間も国道やバイパス、市町村道や自宅の玄関だけにつづく道があるように、今回の「けもの道」は人間社会でいうならば「国道」に絞っているのです。野生動物たちにも、私たちと同じようにいろんな道を使い分けているのですよ。そして、食うものも食われるものも等しく同じ道を利用していることを今回は発見しました。」
と、説明したのですが、なかなか納得してもらえませんでした。

もっとも、ボクはこのようなクレームを受けながら、内心はほくそ笑んでいました。
自然界の事実をこれほどまでに知らない人たちが多いことも発見しましたし、これはまだまだボクが写真家としていろんな写真を撮って見せていかなければならないのだ、と多いに自信を得たものでした。
こうして、ボクは「けもの道」で写真家として一枚看板を上げることができたのですが、40年近くたったいまでも「けもの道」のテーマは撮影し続けています。

とにかく、自然界は「黙して語らない世界」なのでこちらがアクションを起こさないかぎり、自然からの声を聞くことはできません。
このため、無人撮影装置を駆使して、少なくも春夏秋冬の季節だけはきっちり追いながら、生物相を探ることをしています。
そして、人の多くやってくるところ、まったく人の来ないところ、天然林、人工林、人家付近、川沿い、丸太橋…などなど、いろんな自然界の場面を比較しながら、そこの動物たちを撮影して行動分析をしているのです。

動物は、人間の臭いなんてまったく警戒していませんし、人工的なガードレールとか電柱、カーブミラー、建物、機械…などなど、まったく無頓着なのです。
しかも、野生動物は世代交代が思いのほか早い事からしても、私たち人間が考えるほど単純ではないこともわかります。
とにかく、いまの時代をどんどん学習して適応しながら野生動物たちはたくましく生きているからです。

それに対して、現代人は実際に体験したことで自然を知るのではなく、巷間いわれているような風聞を信じて、自然を視野狭窄的に見てしまっていることのほうがあまりにも多いと感じます。

とにかく、自然界は私たちが杞憂するほど単純で弱いものではありませんから、無人撮影ロボットカメラにしても何でも利用できるものは使って、まずは現場を「知る」ことからはじめなければならないと感じています。

なので、ボクはこれからもまだまだたくさんの知らない自然を知って、写真という視覚言語に訴えかけていくしかありません。
それが、ボクのこの時代に生まれたメッセンジャーとしての仕事だから、です。

(Photo:ハクビシンが黙々とやってきました。)

(Photo:雨の早朝コジュケイの夫婦がお散歩。)

(Photo:なかなかの面構えの野良ネコもけもの道の利用者。)

(Photo:このタヌキは、立派な毛並みをしています。)

(Photo:ちょっと生活疲れをしたキツネも散歩中。)

(Photo:朝の9時30分に、こんなクマの親子までもが散歩。)

(Photo:ハイカーも爽快な散歩道を楽しく…。)

(Photo:都会から若い女性たちも自然をもとめてハイク…。)

【展覧会 宮崎学 自然の鉛筆】
このたび、久々に大きな展覧会を開くことになりました。
1/13~4/14まで、IZU PHOTO MUSEUM(JR東海道線三島駅下車、無料シャトルバスあり)
第九回土門拳賞を受賞した「フクロウ」を始め「死」「柿の木」「イマドキの野生動物」シリーズなど代表作約130点を展示。
今回のテーマである「けもの道」も、1978年当時の初期の「けもの道」 の作品が展示されます。
イズフォトミュージアムは、クレマチスの丘という所にあり、付近一帯が美しい庭と景色につつまれた素晴らしい所です。興味がある方はお出かけいただければ嬉しいです。

>展覧会リーフレットPDFダウンロード

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コメント

  1. いつも拝見させていただいております。
    「けものみち」とてもいいですね。最後の場面、人間も歩いているところが秀逸だと思います。
    ぜひ東京でも個展を開いていただきたいと思います。

    facebookにシェアさせていただきました。

  2. 宮崎さんの写真、大好きです。
    ほんとうのことが知りたい・・
    展覧会も行ってみたいと思います。

    展覧会のこと、シェアさせてください。

  3. こんにちは。
    ストーブは他のものを使用していますが、年に1回は駒ヶ根のお店に伺っています。このHPも時々拝見しています。FBでシェアさせていただきます。

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