宮崎学「森の動物日記」

森と里と野生動物たちから教わった自然のメッセージ 信州・駒ヶ根在住の動物写真家宮崎学のフォトエッセイです

シジュウカラの子育て

巣箱にやってきたシジュウカラ

シジュウカラという野鳥をご存じでしょうか。
黒い帽子に白い頬。
都市の住宅街から公園、地方の田園から高原、森、林…、とにかくその気になってちょっと注意してみれば、シジュウカラにはどこでも出会えます。
おいらの財布はいつも「始終から」なんて、駄洒落をいう人もいます。
まあ、それだけシジュウカラは、なんとなくみんなに親しまれている野鳥なのでしょう。

中央アルプス山麓のとある喫茶店の庭先の巣箱に、シジュウカラが毎年入って子育てをします。
喫茶店のオヤジさんはボクと旧知の仲。
「gakuさんやぁ、おらの仕掛けた巣箱に入るのだったら、家賃取らねぇー代わりにさぁー、部屋の中を覗かしてもらいてぇー、だに!」
オヤジさんは巣箱の中をどうしても見て見たいといいます。
そんな相談をされてしまったので、ボクもアイデアを出してあげました。
「子育てを始めてからでは遅いから、来年のために、今から巣箱の天井に小型カメラを仕込んだ新しい巣箱をつくって、それに入るのを待てばいいじゃん!?」
「ほぉー そんなことってgakuさんできるんかねぇー?
だったら、一つおらに作ってくんねぇーか、なぁー」

そういうことで、巣箱に小型カメラを仕込み、内部の様子を部屋の中にあるテレビ画面で見られる装置を作ってあげました。
どこにでもいるシジュウカラですから、このくらいの仕込みをした巣箱でもまったく警戒しないことはボクも知っていたのです。だから、この作戦は絶対に成功すると思っていました。

案の定、春になってシジュウカラは巣箱にすぐに入って巣作りをしはじめました。
その様子を見ていたオヤジさんは、
「シジュウカラっちゅうもんは、住宅難なんだなぁー。こんなにも簡単に巣箱にきてくれるんだから、ほんに人間なんて仲間だと思っているにちげえねぇー、だ!」
そういって、モニターテレビに映し出される映像を食い入るように見つめる日々がつづきました。

獣毛を毛布にするために拾っているシジュウカラ
(獣毛を毛布にするために拾っているシジュウカラ)

「おやおや、コケを持ってきて巣の土台をつくっているぜぇー。
こんどは、犬の毛やら化学繊維の綿をもってきているぜぇー。
純毛でも化繊でも彼らはなんでもいいんだわなぁー?」

「オヤジさん、われわれだってペットボトルからできているシャツ着ているんだから、シジュウカラだってそんなの平気なんだぜぃ」
巣箱の中で巣作り、抱卵、子育てをするシジュウカラを観察しながら、オヤジさんはたくさんの発見があったようです。

シジュウカラの卵
(シジュウカラの卵)

ふ化したばかりのシジュウカラのヒナ
(ふ化したばかりのシジュウカラのヒナ)

子育て中のシジュウカラの両親
(子育て中のシジュウカラの両親)

シジュウカラは、抱卵は、メスだけがします。
そのメスに、オスが餌をもってプレゼントをします。
抱卵中のメスは、とにかくすべての卵にまんべんなく熱を加えるために、巣の中でクルクルと体の向きを変えて回転しています。
そしてヒナが巣立つときは、体を少しでも軽くするために脱糞をしていくのです。
さらには、外敵に襲われないためにも、巣立ちは全員が30分ほどのあいだに巣箱を飛び出していくことまでわかりました。

抱卵しながら体を回転させているメス
(抱卵しながら体を回転させているメス)

巣箱の中のシジュウカラと卵
(夜間に嘴を背中に入れて眠っているのに、やはり体を回転させている)

巣箱の中のシジュウカラと卵
(卵から生まれ、巣立ちしたあとの巣にはヒナの糞が残されて子育てのドラマが終わる)

 とにかく、見ることがすべて発見だらけで、オヤジさんはたいそう喜んでいました。
そしてヒトコト、
「こんなに身近なところにたくさんいるシジュウカラなのに、おらは何にも知らなかった。
自然に生きている生命に、こんなにも感動したことはなかったぜぇー
あーあ、gakuさんに相談してみてよかったぁー
ありがとう、な」

ボクも、そう思いました。
世の中には自然保護という言葉だけが先行しているようですが、シジュウカラの巣作りの秘密ひとつとっても、知っている人は少ないのではないでしょうか。
こうして、見て、観察して、知ることが、自然界の仕組みを少しでも理解できることなのです。
シジュウカラなんて、ほんとどこにでもいる野鳥なのだから、やっぱりこういうところから自然に親しめることってとっても大切なことだと思います。

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コメント

  1. こんにちは。シジュウカラの様子がよくわかってとってもいいですね!!!
    実は、うちにも巣箱がかけてあって、設置2年目にしてシジュウカラが営巣してくれたのです。でもあと1,2日で雛が生まれるというところで卵がなくなってしまいました。。。たぶん蛇なんでしょうね。。あきらめられず、巣はそのままです。毎日巣箱の中をのぞいています。それで、もしよろしかったら巣箱へのCCDカメラの設置の方法を教えてくださらないでしょうか。どのようなものが必要か、どのように設置するかぜひ教えていただけたらとても嬉しいです。なにとぞよろしくお願いします。

  2. あきママさん、コメントが遅くなりました。

    さて、巣箱へのCCDカメラですが、機種によって大きさや性能が違うので一概にはいいきれません。
    とにかくモニターできるようにカメラ+ケーブルでいけますから、巣箱もそのように設計して、あとは防水も考慮すればいいと思います。
    尚、照明は熱をもたないLEDがオススメです。

  3. お礼が遅くなりすみませんでした。
    今年も巣箱を設置しました。
    がんばってカメラも設置したいと思います。
    ありがとうございました!!

  4. 素晴らしいですね。毎年、シジュウカラが巣箱を利用してくれますが、ヘビが入ってしまいます。だから、巣立ちを見たことがありません。

  5. Grace さん

    シジュウカラは、3~8月までにふつう2~3回の子育てをします。
    春一番の早い時期は、蛇の活動も鈍いので、地上ないしは低いところに巣づくりをして「成功」率がたかいものです。
    あとの季節は、蛇のためにほとんど「子育て」をするというのが自然界の本当の意味合いだと思っていいでしょう。
    なので、蛇にやられるのはある意味で仕方のないことなのです。
    でないと、シジュウカラが3回も子育てに成功すれば、世の中シジュウカラばかりになってしまいます。
    その調節を蛇やタカたちがしているのです。

    どうしても子育てを成功させるには、夏は巣箱の位置を地上から5~6mと高いところに設置してみるといいでしょう。
    あとは、鉄ポールの上に巣箱を設置して、蛇の上る地上1mくらいの周囲には工業用のグリスを塗れば蛇も滑ってしまって登れないこともあります。

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