となりのツキノワグマ
ツキノワグマは、森の動物です。
森で生まれ、森で育ち、その森を守りながら生活しています。
そのツキノワグマの住空間である森が「荒廃」していると現代人は言っていますが、そんなことはけっしてありません。
「荒廃」とは林業を経済的視点でみて言っていることであって、いま現在ある日本の山野は、樹木の側から環境を見ていけばけっして荒廃なんてしていません。
山林が間伐や枝打ちの整備をされていないから、樹木が商品にならないだけのことであって、森に暮らす生物にとっては人間が手を入れずに放置してくれていたほうが、餌やかくれ場所が豊富にあるから生活しやすいのはとうぜんのことです。
それが、今の日本の山野であって、そこを生活の場としているツキノワグマにはとても棲みやすくてすばらしい環境になっていると思っていいでしょう。
ですから、国土の三分の二が森林という、自然が豊かな日本にあって、ツキノワグマは減少なんてすることなく、むしろ増加してきているのです。
(photo: ツキノワグマはとても賢く思考をめぐらしながら人間社会の近くを潜行しています。)
ツキノワグマが冬眠穴につかう樹木は数百年以上の大木ですが、それなりの歴史がある深い森にしかそういった大木は存在しません。
そこで、ボクはひとつの実験をしてみました。
森に300年の時間を作りだせないなら、300年を一気に飛び越して「巣穴」ができればツキノワグマも助かるのではないでしょうか。
ボク自身が300年以上も生きられれば、このような疑問には観察という目視で直接答えることはできるのですが、そんな時間はありませんので、巣箱をつくって設置実験をして300年間の時間短縮をしてみようと考えました。
その巣箱に無人撮影カメラを設置して、ツキノワグマがどのような行動をするのかを丁寧に時間をかけて見守ってみたいと思いました。
すると、どうでしょう?
3頭のクマが、ボクの設置した巣箱に興味を示して覗きにきたではありませんか。
いわば、ボクの設置した巣箱を新築建て売り住宅の見覧会のように見立てて、ツキノワグマたちがやってきたのです。
(photo: 巣箱実験には、たいへんな興味を示してくれました。)
このツキノワグマの行動を見て、ボクは森でクマがどのような位置づけにあって生活しているのかを知ることができました。
まだ、この巣箱でツキノワグマは冬眠してくれませんが、やがていつかここで冬眠してくれることをボクは夢見ています。
ツキノワグマと森の歴史は何千年と続いてきましたが、私たちが知っているのはそのうちほんの数十年という短い期間でしかありません。
まだまだわからないことだらけであって、そうしたちょっとした生活史の秘密を知っていくことによって、やがてツキノワグマのすべてを知ってみたいと思っています。
(photo: 樹木の健康状態をみるために、このようによくニオイを嗅いでいます。)
(photo: 背伸びしながらも、木の健康チェックをしているツキノワグマ。)
(photo: 超音波を発しながら行動して、ツキノワグマ間のコミュニケーションを図っていることはたしかです。)
先日、山奥の樹洞と巣箱設置の現場を、ファイヤーサイド社のポール社長さんと山歩きしてきました。
ポール社長はとても好奇心旺盛な方で、なんでも興味を示して考えていくといった姿勢があって、とても面白く、自然を見る目も確かなので、ボクとも話があいます。
たとえば、ツキノワグマの生息地ですから、ボクは見通しの悪い場所では必ずこちらの位置をクマに伝えるためにヨーデルのような声を出します。
その声を聞いただけで、ポール社長はその意味を瞬時に理解して判断してしまうセンスの持ち主なんです。
実は、山歩きではこのような目に見えないことの先まで読んで行動しなければなりません。
そんな野生のカンというものが山歩きには必要だからです。
それを、ポール社長はちゃんと心得ていたのには、逆にボクが勉強させられました。
こうして、とても楽しい山行きになりました。
ポール社長が素晴らしい文章と写真のレポートをしてくれましたので、こちらの記事もご覧下さい。
>>ポール キャスナー・コラム「薪ストーブのある暮らし」
(photo: この樹洞でツキノワグマが眠る日がいつか必ずやってくると信じて、僕は待っています。)
うふっ、か、かわいい?
と、思わず笑ってしまいました。
小学校なんかで小鳥の巣箱かけたりしてるのと同じこと。
そうだよねえ、ただの大きい巣箱だねえ。
同じことなのにだれも思いつかない。
そんなことをしてしまう、さすが学さんです。
となりのツキノワグマなんだけど、そのうち
おうちのツキノワグマにならなきゃいいけど、と思っています。
写真じゃかわいいけど、遭いたくないなあ。
あーるさん、面白いでしょう?
野生動物をはじめ自然を語るのに、机上でやっててはなにも見えてきません。
こうして、フィールドにでて実践あるのみなんです。
クマにかぎらず、野生動物たちは私たちが考えている以上に思考をめぐらして行動していますし、好奇心もありますし、ときには人間を化かしているところもあります。
そこが、オモシロイのですよ。
ほんと、ツキノワグマは「となり」にいますし、油断してたら「おうち」にもやってきますからね。
そのことに気づくことが大切だと思います現代人には。
初めまして、宮崎さん。
今月末にニコンサロンで「となりのツキノワグマ」写真展があるんですね。
ぜひ出かけたいと思います。