高橋みな 火のあるお料理とクックウェア探検

ウッドストーブクッキングアドバイザー高橋みなが楽しい料理と共にクックウェアの可能性に迫る!

火造りの包丁 越後鍛冶に学ぶ(前編)

越後鍛冶に学ぶ火造りの包丁

 

Green  green  green
 

蝉時雨が聞こえるようになって、葡萄の翡翠玉のような実がギザギザした葉陰にみえている。
涼しげで、思わず口に入れたくなってしまうけど、
たぶん、まだまだ酸っぱくておいしくないだろうな・・。

梅雨明けも近いこの時期、今年は特に「焚きつけ」がいっぱいできました。
米袋10袋以上だから、2年分くらいはありそう。
我が家ではこの焚きつけづくりに 「鉈」なたを使っています。
重すぎず、腕が疲れないところがお気に入りなのです。 

先日、三条市八木ヶ鼻キャンプ場で開催されたクラフトフェアの会場で、
この鉈を造っている鍛冶屋さんと知り合いました。
刃物鍛冶の日野浦刃物工房さんです。
三条の鍛冶道場で指導員をされている先生なので様々なことを教えてくれました。

お話を伺ううち、日本の昔ながらの鍛冶屋さんの仕事にふれることで道具のなりたちや、
そのデザインの理由、いろんな秘密がわかるかもしれない・・。

そんなきっかけから鉈鍛冶三代目の日野浦司先生、四代目の睦先生に入門して、
日本のクックウェアの代表ともいえる包丁造りを学ぶことになったのでした。

 

三条の鍛冶の歴史

現在、「金物のまち」、日本を代表する工業都市として発展している三条市。
鍛冶の歴史は古く、江戸時代の代官所奉行「大谷 清兵衛」が水害に苦しむ農民を助けるため、
農家の副業として「和釘」造りを奨励したのが始まりだそうです。

和釘は、1本1本鉄を赤めてげんのうで叩いてつくる釘。
頭の形によって、「巻き頭」「角頭」「階折れ」などの種類があります。
使う場所や目的に合わせ「隠す釘」や「見せる釘」などがあるそうです。

和釘を造る、睦先生。

左のくるっと巻いてるものが「巻き頭」、先端はまだできていません。
そして右が「階折れ」です。
先生の造った階折れ釘は、先端がシャープ、右のほうです。左は私が造ったほう。

鍛冶には大きく、2つの系統があり、
釘、やっとこ、自在かぎ、建築金物といった「刃」のつかない生活道具を造る「なまもの鍛冶」、
鎌、包丁、かんな、のみ、鉈などは「刃物 鍛冶」と呼ばれています。

 

火造りの包丁

今回、鍛冶仕事は初めて、という私には、包丁の材料として、
鉄と鋼があらかじめ合わせられている「複合材」がよいでしょう、と先生が用意してくださいました。

自分で鉄と鋼をくっつけて造るやり方はとても難しいのです。
ちなみにこの複合材、名前を 日立金属白紙2号 といいます。「しらがみ」と呼びます。

なぜ、金属に「かみ」とつけられているかというと、
かつて、できあがった鋼の種類を肉眼で見分けづらかったので、
製品にそれぞれ青紙、白紙、黄紙の色紙をつけた、
そしてそのまま製品名になった、というワケです。

この「白紙2号」がカッコいい、MY包丁になっていく道のりはこんなふうに進んでいきました。

 

コークス炉の前の日野浦司先生。

①  ならし打ち
赤くならない程度に火炉で複合材を温め、裏になるほうをはたく。

②  成形
はたいた複合材は、全体に広がっています。
元の大きさにあわせてグラインダーで削ります。

③  焼きなまし
たたいた金属のストレスをとるため、約750度の温度で赤く熱して除冷(ゆっくりさますこと)。

④  サンドブラストをかける
包丁の表面がきれいになるようにする作業。

⑤  砥の粉塗り
砥石の粉を刷毛で塗る。

⑥  焼き入れ
780度で熱して水で急冷する。最も温度の調整と水に入れるタイミングが大事。
刃物に魂が入る工程。

⑦  焼き戻し
180度に熱して除冷する。
焼き入れの時の刃の硬さでは硬すぎるので、使用目的にあった硬さにあわせていく工程。

⑧  焼き狂いを直す 

⑨  刃おろし
刃をつける。

⑩  研ぎ
粗めの砥石から段階的にきめ細かい砥石で研ぎあげる工程。

最後に「鏨」たがねで名を刻印してもらいました。
たくさんの工程を経て、世の中に一つだけの包丁ができあがりました。
昔と変わらぬ鍛冶の仕事で造られた「火造りの包丁」です。

今日、感じたこと、といえば・・
もっとも重要な工程となる、「焼きいれ」において
私の「急冷」は、失敗ではないけど 成功・・なのかな? といった“微妙なタイミング”だったようです。

780度、という日常生活では目にすることのできない赤く熱せられた灼熱の包丁に動揺し、
匠の欲するタイミングでの「水中ザブッ」とはちょっと違ったみたい・・。
包丁の切っ先を「ちょん」とつけただけで「じゅばじゅばじゅば~」っと水はとびはね、
その有様に仰天し、「ザブッ」のタイミングをはずしてしまった。
しかし、匠は落ち着いて包丁を「ジュッ」と水に沈めたので助かりました・・。

躊躇の時間があと、0.5秒長かったら、と思うと冷や汗がでます。
包丁造りはすべてが「タイミング」、そして「鉄は熱いうちにうて」のとおりでした。
時間と手間がかかったぶん、大切にしたくなるなぁ。 

鉄なので、使い終わった後は油をうっすら塗っておくと錆びずに長持ちするそう。
このあたり、鋳物のダッチオーブンと同じですね。

後編では、この包丁を使って作った、「庭のトマト」のパスタをご紹介します。

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