山の落とし物
仕事として借りている山林の地主さん夫妻の家を訪ねたときに、そこの奥さんが携帯電話のカメラで撮影した「動物の糞」を特定してほしいと画像を見せてくれました。
その「糞」は、色はかぼちゃのように黄色く、形は太短くて感嘆符のようでした。
それはどうみても人間のものであり、野生動物の糞ではありませんでした。
奥さんは、まさか人間のものとは知らずに、ボクに確認してもらおうと大切に携帯電話に保存していたのです。
その画像をみてなんだか気の毒になってしまったので、すぐに答えを教えてしまっていいものかとボクは言葉につまってしまいました。
撮影時の状況を聞けば、畑の脇にある小屋の陰だったそうです。
奥さんは、「こんな小屋のそばにどうして動物がやってきたのか不思議だった」そうです。
今はみんな水洗トイレになってしまって「野糞」などは意識のなかにもなくなってしまったような時代です。
ですから、人間のをまともに見ることができなくなってしまって、動物との区別もつかなくなっているのでしょう。
しかし奥さんの携帯にいつまでも人間の糞が入っていては気の毒なのでボクはここで意を決して伝えました。
「これはどうみても人間のだに。その携帯電話が臭ってくるかも知れないから早く消したほうがいいですよ」
奥さんは「たしかに小屋の陰だから人間が身を隠すにはいいかもしれんねぇ」と、大笑いをして画像を消去していました。
(photo:キツネは鼻と耳をよく使って、ひそかに人家近くを徘徊しています。)
山野で野生の生き物に出会いたいと思っても、彼らは人間の能力を超えて聴力・嗅覚などを持っていますから、私たちが気づく前に先に気がついて身を隠してしまいます。
なので日本には野生動物は少ないと思い込んでいる人も多いようです。
しかし、動物がいたという痕跡はかなりありますから、それらを見つけることで動物観察のアプローチはできます。
(photo:ニホンジカの耳は比率でいけばアフリカゾウよりも大きいので、とても感度がいいことを物語っています。)
中でも、動物の糞はかなり目立ちますし、種類によっては特徴がはっきりしていますから姿は見えずとも息吹を感じることはできます。
ここで大切なことは、フィールドで動物の糞を発見した場合は、まず人間を思い出すことなのです。
人間と、どこがどう違うのかといった視点で、考えられる動物をどんどん消去法にしていけばいいからです。
なので、フィールドワークもやはり人間がすべて基本となっていることを忘れてはなりません。
とくに、大きさの特定ができるようにスケールを当てて写真撮影をしておけば、糞のエキスパートに相談するときにも答えが正確に引き出されることでしょう。
自然界では、糞ひとつがときには雄弁に語りかけてくれることもあります。
尾篭(びろう)な話と片付けるのではなくて、「自然界の糞」は自然を研究するとてもいい天然素材なのです。
(photo:ニホンカモシカの糞は、細長くて黒いピーナッツのようです。)
(photo:ノウサギの糞は球形です。)
(photo:キツネの糞は、季節や食べ物によって形も変わります。)
(photo:ツキノワグマの糞は、とにかく太くて大きいです。)
(photo:イノシシの糞は、塊粒のつながりが特徴です。)
(photo:ニホンザルの糞は繊維質を食べるとこのようにつながっていることが多いです。)
(photo:オーチャードグラスを食べているサルですが、この繊維が糞をつなげているのでしょう。)
(photo:テンは、林道などの石の上によく目立つようにします。)
(photo:ニホンジカは、カモシカに似てますが糞粒がカモシカより細長くありません。)
(photo:タケノコを食べて下痢をしたイノシシの糞です。)
(photo:タヌキはタメ糞をしますので、ときには60cmもある糞塊ができます。)
(photo:イタチがイヌビワを食べた糞です。)
(photo:イノシシは、このような開けたところにもよく糞をします。)
コメントではなく、質問です。
糞は尻から出ますが、人間が口から出す吐瀉物はコンクリートの上に吐かれると水で洗った位では、跡が残ります。私は山手線の駅の近くにある駐輪場で朝5時半から働いていますが、2度吐瀉物の清掃をしました。朝、場内を点検して吐瀉物があると、最初にその清掃にかかります。水で洗い流しデッキブラシでこするのです。それで、きれいになったと思っていると、必ず吐瀉されていた跡が残ります。また、跡は1ヶ月近く消えません。清掃までの間、最低2~3時間は経過していると思われます。何故、コンクリートにそのような跡が残るのか、お分かりでしたら教えていただけませんか。
場違いな質問をしてすいません。
穂高稜治 様
すばらしい質問をありがとうございました。
こうした発見はとても貴重なことなのです。
まず、吐瀉物ですが、胃内で消化に必要な「胃酸」を受けているハズです。
食物は、胃酸で消化されながら、小腸、大腸と移動していく課程でさらに消化吸収酵素をうけながら有機質が無機質化=(少しおかしな表現ですが)されていき、糞になって排出されます。
この糞が大地に落ちれば、すなわち大地にはいろんな条件がありますがコーヒースプーン一杯の土に1億匹のバクテリアがいるといわれ、それらのバクテリアが一斉に分解活動にはいります。そして、短時間のうちに糞は大地に取り込まれていきます。
これが、コンクリートですと、バクテリアの出番がありません。
なので、どんなに洗っても、消化酵素が残りますから、コンクリートに痕が残るのです。
こういう視点でコンクリートを見ていきますと、動物の交通事故現場には脂肪痕やこうした酵素が残りますから、場合によっては1ヶ月以上も消えることはありません。
こうしたことも、自然界を知っていく上でとても大切なヒントですので、穂高さんの質問は少しも間違っていません。
とてもすばらしい自然環境観察をされていると思います。
まさに、現場からの発見と発信だと思い感謝しています。
自分のフィールドにも人のものと思われるものがありました。近くに風で飛ばされた紙があったので間違いありません。しかし、驚くことに数日後行ったときには、きれいに無くなっていました。人のものを持ち去るものがいます。
■なぐさん
>驚くことに数日後行ったときには、きれいに無くなっていました。
人糞でも、健康な土に10cmの深さで埋まっていれば、5月~10月までならほぼ24時間で消滅してしまいます。
これは、土中バクテリアが食べてしまうからです。
海や川のなかでも、エビ、カニ、小魚、水生昆虫類などに食べられて一瞬に消滅してしまいます。
自然界はほんとうに無駄がなく、人間を含めて見事に共生していることが「糞」からでも知ることができて、オモシロイですね。
http://nogusophia.com/
↑ 糞から人間や自然を語るボクの知人のHPです。彼の著書も実に面白いです。
gakuさんへ
数日後と書いたけれど、二日後の間違えでした。
自分の少ない観察からすると、たぶんイノシシに食べられたと思っています。
確証は無いけれど、記憶の隅に入れておいてください。 なぐ
初めてお便りを差し上げます。いつも山の中を歩き回っている初老の男です。
実は先週奈良県の高見山から大台ケ原へ続く台高山脈を縦走していたときに、始めてみた動物の糞をいろいろ調べているうちに、宮崎様のウエブサイトに出会いました。
コメントではなく、質問をさせていただいてもいいでしようか。
その糞はきれいなグリーンで、抹茶色でした。太さは6センチくらいでした。しかも縦走路に沿って、100mおきに5,6箇所も落ちていました。
そのときの写真をブログに載せています。
「台高山脈を歩く」http://yochanh.blog.ocn.ne.jp/taikou/
もしよろしかったら何の糞なのか御教授願えませんでしょうか。大きな糞でしたので、葉っぱをたくさん食べた熊かと思い、びくびくしながら、原生林を一人で歩いていました。よろしくお願いします。
家の裏側に少々奥まった1平米ほどのスペースがあり,玉砂利を敷いていました。そこへ
糞がしてあって,気づかないうちに当たり一面糞だらけで,すごい匂いがしていました。
黒っぽいタール便です。犬猫よけのスプレーをしても効き目がありません。ネットをくぐり
抜けた跡があることから,結構小さい動物のようです。近所に野良犬は見かけませんし,
猫でもないようです。いったいどんな動物でしょうか?そして,どうやったら被害を防げるでしょうか。近所にたんぼはありますが,幹線道路にも近い密集した住宅地という環境です。
よろしくお願いします。
■なぐさ さん
人糞をイノシシやタヌキもよく食べますから、そのへんも視野にいれておく必要がありますね。
■長谷川 さん
ツキノワグマが春芽を食べた糞でいいと思います。
■りえちゃん さん
写真がないと、なんともいえません。
黒いタール便だと、イタチが思い浮かびますが、小さな身体ですから量も知れてますし…。
こんにちは。週刊いいだで記事を拝見しておりまして、宮崎さんならきっとおわかりだろうと思い、質問させていただきます。
うちの山ん中をブルドーザーのごとく荒らしているイノシシですが、台風などの悪天候時は彼らはいったいどうしているのでしょうか?