エッセイ集 薪ストーブの里から

宮崎学 フォトエッセイ 森の動物日記

森と里と野生動物たちから教わった自然のメッセージ 信州・駒ヶ根在住の動物写真家宮崎学のフォトエッセイです

まちがいだらけの自然保護

2010/8/27 miyazaki タグ: ,
| カテゴリー: トンボ

オスのハッチョウトンボ
(photo:ハッチョウトンボのオスは、とても美しい赤色をしています)

ハッチョウトンボって、知ってますか?
小さな、ちいさなトンボです。
体長は、28ミリくらい。細くて小さいので爪楊枝を半分にして羽をつけたみたいです。
オスは、全身が真っ赤となり、メスは黄褐色です。

とにかく、小さくて可愛らしいトンボですから、ハッチョウトンボのファンは多いものです。
そのハッチョウトンボが、中央アルプス山麓のある湿地帯に棲んでいました。
そして、このトンボを守ろうと保護会もできていました。
そのハッチョウトンボの棲む湿地へ行って驚きました。
春の産卵期を迎えたヤマアカガエルが、湿地の水溜りに卵を産んであったのですが、そのカエルの卵塊が、土手の上に捨てられていたからです。

カエルの卵ですから、水分を含んだゼラチン質に包まれていますからそんなにすぐ死ぬことはありません。
なので、ボクは卵塊を拾ってもとの水溜りに戻してあげました。
そのあと、2日ほどしてハッチョウトンボの湿地へでかけてみると、カエルの卵はまた陸に捨てられていました。
なので、また、水に戻してきました。
そんな繰りかえしが5回ほどつづきました。
これは、あきらかにヤマアカガエルの卵塊に悪意をもった人間がやっていることとしか思えませんでした。

ハッチョウトンボ
(photo:小さいので見つけるのが難しいです)

ヤマアカガエル
(photo:ヤマアカガエルは山林に普通に見られるカエル)

そんなことがあったので、次には少し時間をずらして早めに出かけてみました。
すると、年配のおじさんがカエルの卵塊を水からすくって捨てているところにちょうど出会いました。

「おじさん、その卵はヤマアカガエルという林や森に棲むカエルの卵塊ですが、どうして捨てるのですか?」
「オレは、ハッチョウトンボを守っとるのだで、カエルのおたまじゃくしがトンボのヤゴを食べちゃうから、邪魔せんようにこうして退治しているんだが…
学校の先生も、そうするように言うとるし…」
「それって、まずいんじゃあないですか?ウシガエルのような外来生物の卵を駆除するのなら意味も分かりますが、ヤマアカガエルは日本を代表する水辺環境の生きものですが…」
おじさんは困ったように抵抗します。
「そうはいっても、あの小さなハッチョウトンボを守らなければならないから、なぁー
この水辺にはシオカラトンボもギンヤンマやオニヤンマもいて、みんなハッチョウトンボをねらっておる…で」
「いや、自然界ではみんなが食いくわれる関係にあるので、小さくて可愛いからといってハッチョウトンボだけを守るのはよくないと思います。
ハッチョウトンボだって、いろんな生物に狙われながら生きのびてはじめて、生態系の一員になっているのですから、やっぱりヤマアカガエルの卵を駆除するのはマズイことです。
野鳥のメジロだって、小さくて可愛らしい野鳥ですが、そのメジロをタカたちが狙って殺して食べてしまいます。そのタカをメジロのために殺すようなものですから、それはやっぱりマズイでしょう?」
「そこまで言われてしまえば、そうだなぁー」
おじさんは解ってくれたようで、ヤマアカガエルの卵塊を水に戻していました。


(photo:ハッチョウトンボはこのような湿原に棲んでいます)

そういえば、この水辺では、背が高くなる植物のショウブの芽も積極的に潰して、オニヤンマなど大型のトンボの羽化を妨害していました。
自然界には、いろんな生きものがいて、それぞれに関係しあって生きているのが生物多様性です。
それなのに、小さくて可愛いからといって、ハッチョウトンボだけを守ろうとすることは生物のバランスをくずしていくことになりますから、それは「まちがい」だと思います。
あらゆる生物には、この地球上に生きる意味をもっているので、その生活現場を理解してから見届けていくことが保護なのではないかと思います。

ウシガエル
(photo:ウシガエルは食用に輸入されましたが、日本各地で生態系に問題を起こしています)

オオシオカラトンボ
(photo:こんなきれいなオオシオカラトンボだって、天敵のクモにはかないません)

ツミ
(photo:小鳥を襲うタカの一種であるツミ)

ジムグリ
(photo:ジムグリは、こんなに優しい顔をしていますがネズミには天敵です)

コメント

  1. もっち より:
    テレビ番組でも、そのようなこと多いです。
    以前、里山にアイドルグループが掛けた巣箱にアオダイショウがやってきた折、メンバーたちが必死になってアオダイショウを排除していた場面がありました。
    大半の番組視聴者は、「良かった~」「よくやった!」の感想でしょう・・・。
    番組的には、「悪」と「善」の対決は、視聴者には受けが良いのだろうけど、自然に対する見方を思い切り履き違えていて、こういう報道のあり方にも、やはり問題がありますね。
  2. 小坊主 より:
    まさに、一事が万事、そのようの事は、良くあると思います。
    全体のバランスを、十分に理解せず、ひとつの種を、ひたすら保護しようとする結果、他の種を、闇雲に迫害しようとする事になってしまいます。
    人が、「可愛く」見えるものを保護しようとするのは、ある種自然な、感情的な成り行きであって、無理からぬ部分もあるのですが、それだけで物事を判断してしまうと、他の「可愛くない」動物たちは、立つ瀬がありません。
  3. Meiko より:
    こんにちは、はじめまして。
    最近、写真を撮り始め、動物が好きなこともあって
    動物写真家さんのブログを探していてたどりつきました。
    いろんなお話、とてもためになります。
    人間と他の生き物たちとの共存は、永遠のテーマですね。
    わが家には、猫、カメ、メダカがいますが、彼らから教わることはとても多いです。
    素敵なブログ。また、拝見しにきます。
  4. gaku より:
    ■もっち さん
    報道のあり方次第で、ほんとうに自然は正反対になってしまうことが多いものです。
    やはり、きちんと自然をみていくことが大切ですね。
    ■小坊主 さん
    自然に親しんでいる人でないかぎり、やはりキチンと理解することは難しいことかもしれません。
    そのためにも、こうしていろいろと発信していかねければならないのかもしれません。
    ■Meiko さん
    写真をはじめられたのですか?
    写真は奥が深くて面白い世界ですので、どうぞ、どんどん楽しんでください。
    技術はあとでついてきますが、知識はどんどんつけていったほうが楽しいと思います。
  5. 白川哲治 より:
    オオムラサキならオオムラサキだけ、ギフチョウならギフチョウだけ。ひどいところでは、食草に対しての知識も希薄なので、林を切り開いて探勝路を付け、展望台を作り、ベンチを設置し、案内板を設置。そして、いなくなる。
    他所の産地で採集して来たそれらを飼育して放蝶して、美談として取り上げられる。
    自分たちが森や草原を切り開いてスキー場開発やロッジを建てて自然破壊と引き換えに生活しているのに、自然の守り神のような顔をして、わずかばかりの蝶の採集家を犯罪者扱いにする。
    切りがありませんね〜。
    一番くやしくて????だったのは、時々、モリアオガエルやトンボの観察に出かけては、ひょっとしてヒメヒカゲでもいるんじゃないかと楽しみにしていた山の中の小さな湿地がある年の春ブルドーザーが入り、林道工事でつぶされるのかと思って残念がっていたのが、梅雨時に訪れてみれば、なんと2m以上もある木の板のフェンス(イヤ壁です)で囲われて、自然保護の為立ち位置禁止!観察会がいついつあるので...ウンヌン。
    ナニヲカンガエテイルノカサッパリ???
    カエルの卵とりのおじさん素直な人でよかったですね。宮崎さんの説得力ですかね。

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