宮崎学「森の動物日記」

森と里と野生動物たちから教わった自然のメッセージ 信州・駒ヶ根在住の動物写真家宮崎学のフォトエッセイです

南アルプスの「相思鳥」(ソウシチョウ)


(Photo:仲良く二羽でとまっているソウシチョウ。夫婦でしょうか)

秋の南アルプス山麓の小さな村に出かけました。
過疎地で空き家だらけとなった集落の竹藪付近で、ボクは聞きなれない野鳥の声を聞きました。

『ビョッビョッビョッ チョウーホイ チョーホイ チョーホイ … 』

こんな声を聞いて、はて、いまのは何の鳥だろう?
と耳を疑ってしまいました。
野鳥の声はほとんど聞き分けられるボクですが、さすがにすぐには答えのでない鳴き声でした。

なんだろう…?
なんだろう…?
そう思っていると、もしやこの声は「ソシチョウ」ではないか、と思いました。
 


(Photo:ウメモドキの実)

ソウシチョウはインドや中国、ベトナム、ミャンマーなどに自然分布している野鳥です。
それなのに、近年は九州から東北地方にいたる広範囲で野生化が伝えられています。
このため、特定外来生物にも指定され、
日本における侵略的外来種ワースト100に選定もされています。

ソウシチョウは可愛らしい野鳥でもあり、
夫婦仲のいいことから中国では「相思鳥」とも呼ばれ、
日本にも半世紀も前から愛玩用に大量に輸入されてきました。
また、ソウシチョウは大食漢でたくさんの糞をするため、
美肌効果に適するとされるウグイスの糞の代用にもされてきたようです。
このため、日本にも大量にソウシチョウが輸入されてきていましたから、
「籠抜け」して野生化してしまった可能性は充分考えられます。

ソウシチョウの知識のなかにボクはこのくらいのことはわかっていましたから、
声を聞いた瞬間に「ソウシチョウ」ではないかと思ってしまいました。
声のする竹藪を双眼鏡で観察していると、
やがてその声の主たちが20羽ばかりの群れとなって背後の山林に舞っていきました。
そのときの姿は、身体の大きさやメジロのような飛翔から、
ソウシチョウにまちがいないと確信しました。
 


(Photo:ソウシチョウ。まるで、蝋細工のような印象をうけてしまう可愛らしさです。)
 

こうしてボクは、長野県の南アルプス山麓で
ソウシチョウをはじめて目撃することができました。
やはり、長野県でも野生化していたことを、複雑な気持ちで迎えてしまったのです。
こんな経験をしたのが6年ほど前でしたが、
その後、中央アルプス山麓でも3度ソウシチョウに会いました。
どうやら、ソウシチョウは確実に長野県にも定着していたのでした。

ソウシチョウは、いつも20~30羽の群れでいます。
そして、独特な声で鳴き交わしながらひっそりと移動していきます。
あるときは、雑木林だったり、またある時はスズタケやクマザサの竹林だったりします。
あまりオープンなところへは出なくて、
藪のなかをひっそりと潜行移動していることが多いみたいです。
だから、その姿をなかなか見つけにくいのだと思います。
 


(Photo:地上で落ち葉の下からエサをさがしています)

しかし、そんなソウシチョウに出会ってしまうと、
やはり文句なく可愛いからうれしくなってしまいます。
嘴が真っ赤で、目はつぶらな黒、
体はウグイス色で翼には黄色や赤い縞模様があって人をあまり警戒しません。
ときには、3メートルくらいの至近距離でも会えますから、
可愛さだけが印象に残ってしまいます。

あまりにも可愛らしいから、
つい外来生物であることを忘れてしまって許したくなってしまいますが、
目の前から飛び去ってしまうとフクザツな気分になります。
正直いって、日本の自然に野生化してほしくない野鳥ですが、
もはや、このソウシチョウを日本の空から追放することはできないでしょう。
そのくらい日本の自然界に確実に定着して増えて、溶け込んでしまいましたから。
 


(Photo:遠くアジアからやってきて、日本のアルプスの住み心地はどうでしょうか)


(Photo:山はすっかり秋色)
 


(Photo:背中はメジロに似ていますが、翼の派手な色彩はメジロではありません)


(Photo:ちょっと警戒のしぐさです。これでカメラとの距離は2メートル)

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