手道具で切り拓く
機械道具で効率よく済ませたくない、時もある。
使い込んだアックスには添い寝したいほど愛着があっても
薪割り機をうっとり眺めることはない。
手道具は我が子のようにかわいい。
手作業には言い知れぬほど達成感がある。
この夏、山暮らしの拠点となる原野の開拓が始まった。
そこは中央アルプスの麓。
周りは針葉樹と広葉樹に囲まれ、小川のせせらぎが聞こえる。
焚き火の煙で迷惑をかけるような隣家もない。
薪釜で沸かす露天風呂にも囲いはいらない。
雑草が生い茂っているとはいえ、野遊びに絶好の広場。
この広場の東側には、もう一段低くなった三角地帯があり
小さな沢と東屋がある。
広場からはうっそうとした草木で遮られているため
それらを切り払えば見晴らしが良くなるだろう。
まずは笑えるほど伸びきった雑草を刈らなければ。
効率を考えればエンジン刈払い機か・・・、
一気に絶やすなら除草剤か・・・。
開拓の初陣を飾るには、そのどちらも選択する気になれなかった。
手作業でこの地と向き合いたかったのです。
(いずれはその拘りもなくなるでしょうが・・・。)
うんざりとも思える作業が、道具ひとつで気分はワクワクになる。
この草刈りに向けて取り寄せた新たな道具。
これは山斜面の草や小枝を刈る造林鎌です。
なかなか鋭いでしょ。
鋼入りの美しい刃に、ついスタジオ撮りしてしまいました。
下斜面刈りに向いた鎌ですが、平地でもコツを掴めばサクサク切れる。
「おれは草刈だ」のコマーシャルは実にインパクトがありますが、
充電式草刈り機よりこの造林鎌にして欲しかったな。
次に枝払い。
地上から4mほどの高さまで伸びきったキウイの蔓は雑木と複雑に絡み合い
枯死した杉も蔓で支えられている。
剪定されていない栗の木は、地面まで枝が垂れ下がっている。
それらを少しずつナタとノコギリで切り拓いていく。
伐り落とした枝は、早く乾かすために日向へと運ぶ。
枝木を叩き折るのに便利なウッドチョッパー。
来年には十分すぎるほどの焚き付けになってくれる。
開拓のゴミ(雑木)も、薪焚き人にとっては嬉しい恩恵です。
ついでに大きく実ったキウイをいくつか収穫した。
後で調べたら収穫時期は10月後半から11月だそうな。
植物に無知な写風人もこうして一つ一つ覚えていくのでしょう。
草木に向かっているとなぜか無心になり、時間が過ぎるのを忘れてしまう。
気が付けばとっくに昼を過ぎていた。
焚き火で昼メシを食う
メシなど、どうでもいい気分でしたが、焚き火がしたかったのです。
この地で記念すべき初の火起こし。
スギッパも豊富にある。よく乾いた栗の毬もある。
麻糸をほぐし、ファイヤースターターで着火する。
多少、見晴らしが良くなった木陰を陣取り、ささやかな焚き火で昼メシを食う。
近頃、野外ではタークの出番が多い。
フライパン料理はシンプル且つスピーディだし、
ジューッと焼ける音、香ばしい香り、ほどよい焦げ目がたまらない。
聴覚・嗅覚・視覚が食欲をそそる。
ランチのメニューはSAで買った「鶏ちゃんの鉄板焼き」。
鶏ちゃん(けいちゃん)とは、鶏肉を使った岐阜県の郷土料理で
味噌、醤油味などその店独自の味付けがある。
キャベツを加えて炒めれば、極旨の鉄板料理がすぐに出来上がる。
鶏ちゃんには必ずごはんが欲しくなる。コンビニで買ったおむすびは正解だった。
せっかちタイプなので、食べたらすぐに動き回る。
再び道具を手にして午後の部突入。
薪づくりはいいとしても、草刈りなどは慣れない姿勢で疲れるモノです。
しかも、カメラのリモコンを忘れてしまって
10秒のセルフタイマーで何度走ったことか・・・。
道具とは
もともと「道具」とは仏道修行のための用具である、と聞いたことがあります。
仏の道はよく分かりませんが、
薪づくりの道は修めてみたいものです。
(隔月連載。次回の更新は12月上旬です)
大変な作業ですが、目標があって楽しそうですね。ところで、写真の素晴らしい造林鎌(下刈り鎌)はどちらで手に入れられたでしょうか?道具の1つに欲しくなりました。できましたら、入手先を教えてください。
生まれが山里だったので、夏休みは下刈り鎌を持たされて造林地の下草刈りをさんざんさせられた思い出がよみがえりました。けれども、薪作りに必要な立木の伐採,玉切り,斧で薪割りなども昔の山里の経験が役立っており、今はありがたく思っています。
なかさんへ
山里生まれですと、家族総出で草刈り作業などされるんでしょうね。光景を思い浮かべるだけでほのぼのします。
ご質問の鎌ですが、「造林鎌」で検索すると上位2件が土佐打ち刃物を扱っているお店です。用途によって刃の形が違うようです。見比べてみてご自分にあった鎌を探されたらどうでしょう。