フォトエッセイ「写風人の薪焚き日和」

風のように自由気ままに撮り続けたい…カメラマンの視点から綴る日々の薪ストーブライフ

田渕さんを偲ぶ

突然の訃報でした。
田渕さんのエッセイには沢山の送る言葉が寄せられ、私も皆さんと同じ想いでいっぱいです。
田渕さんへの憧れ、出逢い、そしてある時は取材のカメラマンとして、いくつかの思い出をこの場をお借りして追悼のコラムとさせて頂きます。

私が最も影響を受けた著書があります。
・・・アウトドアライフブームは1990年代中頃にバブル経済の破綻と共に失速していった。本当に良かった。コングラッチュレーション!
これからは目障りな奴らが減るという事だ。場違いな闖入者(ちんにゅうしゃ)もいない。大口あけて喋りまくる奴も巷の喧騒に帰って行った。さぁ、焚き火でも囲んで仲良くやろうぜ・・・。

いかにも小気味よい田渕節で始まるこの著書の題名は「アウトドアライフは終わらない」。
私の一番好きなアウトドアバイブルです。
私は商売柄、人との付き合いを大切にしていますが、本来は人が多く集まる賑やかな場所や宴会などはとても苦手です。
仕事や人付き合いで疲れ果てた時は、よく裏山で焚き火をしていたものです。
その時期、運命的なタイミングでこの著書に出逢いました。

田渕さんが週末森に通っていた頃の一節です。
・・・ここは自分だけのキャンプサイト。一人で森の生活に興じた。孤独だったが淋しさはなかった。そこにはいつも焚き火の煙と自分だけの世界があった。そして私は孤独と友達になった・・・。
この一節が、私の具体的な夢となり、今の森暮らしへと導いてくれたのです。

私にとって田渕義雄さんは雲の上の存在でした。
それが、まさかご本人に出逢えることになるとは夢にも思っていませんでした。

初めてお目にかかったのが、ポールさんと八ヶ岳登山をした帰り道の喫茶店です。

お二人の服装と見比べて頂ければお分かりだと思いますが、Tシャツ1枚でも身体が火照るほど興奮しっぱなしであったことを今でも覚えています。

その年の師走には、ファイヤーサイド松澤さんのお誘いで念願の寒山へ。

もちろん胸の高鳴りは抑えられません。
しかしそれに反して少し不安も・・・。
前述の著書に「不必要にデカいRV車は夏草を踏みにじり、林道をメチャクチャにする。」と叱責されていましたが、私の愛車はいつもそんなRV車ばかり。
当時もパジェロに乗っていたので正直ビクビクしながらの初訪問でした。


田渕さんの家は、これから森暮らしを始める私にとって刺激的なことばかり。


家の様式や扉・窓のデザイン、そして蝶番や金物などもセンスに溢れています。
日頃使っている庭道具の置き方さえも絵になるんですよね。


師走ということもあって正月に向けての薪運びもお手伝いし、結局夕食までご馳走になりました。


丸一日、色んなお話しを聞かせて頂きましたが、幸いデカいRV車の話題はなくホッと一安心。
帰り際にサインもおねだりしました。


翌年の夏には、田渕さんのファイヤープレースでデイキャンプをしながら焚き火料理会。


お土産に持参したコーヒーの生豆をその場でローストして頂いたり、


奥様からは摘みたてのラズベリーのスイーツをご馳走になったり。
田渕さんの森暮らしを少しでも実践したいと、ひとつひとつを目に焼き付けていました。

最後に訪れたのはカラマツの黄葉に覆われた11月。
雑誌の取材でカメラマンとして同行しました。

テーマはウィンザーチェアの原点でもある庭の枝木を拾って作った素朴な椅子づくり。
田渕さんがまだアマチュアであった頃に遡った内容です。
雑誌では扱われなかった写真も含め、記事を要約してご紹介します。

1982年薪ストーブと共に山暮らしを始めた田渕さん。

チェンソーや斧を買いそろえ、薪用の丸太からチェンソーで厚い板を作れることを知り、斧で丸棒も作った。
木の堅さや柔らかさ、肌触りと優しさに魅了され、自分の椅子は自分で作ることにした。

人は倒木や流木を腰掛けとして利用してきた。
椅子の起源はベンチだったに違いない。

厚い板の四隅に穴を穿って(ほじくって)、枝木を差し込んで脚にした。
背もたれがあればもっと楽になるだろうと、誰かが考えた。


座板に丸溝を穿って細枝を差し込み、綺麗に曲がった太枝に細枝を差し込んで背もたれとした。
それが人類初のウィンザーチェアだった。
素朴な木工品は優しくて美しい。
それは作った者の魂や祈りが宿っているから。


このウィンザーベンチは30年前に作った田渕さんの最高傑作。
プロ用の木工機械や道具が揃った今では、もう二度と作れないと言う。

私もジャンルは違えど、写真という作品づくりに携わる身。
いつまでもアマチュアの情熱を持ち続けるプロが、真に素晴らしい仕事を為すのだと教えられました。

ありがとう田渕さん。
天国の両親にも田渕節を聞かせてあげて下さい。


最後に田渕さんから頂いた私の宝物です。

 

(隔月連載。次回の更新は2020年4月下旬です) 

 



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コメント

  1. 私も田淵さんと同じ1944年生まれ
    東京から川上村に移り住んだ頃 憧れの人でした
    影響を受けながら田舎暮らし

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