田渕義雄・薪ストーブエッセイ きみがいなければ生きていけない

信州の山里に暮らす自然派作家がつむぐ薪ストーブをめぐる物語

薪ストーブと恋をしましょう

みなさん、薪ストーブをもっと愛して下さい。
みなさん、薪ストーブと恋をしましょう。
恋はひとを幸福にします。
恋は自分を好きになることでもあります。

  
みなさん、薪ストーブをもっともっと焚いて幸せになりましょう。
薪ならいくらでもありますから。
みなさん、林野に放置された間伐材を片付けて、薪作って暮らしましょう。
みなさん、軽トラの中古車捜して、ただの薪もらって薪焚いて暮らしましょう。

 

 

みなさん、薪をもっともっと作りましょう。
薪作りは楽しい。
薪作りは最高のアウトドアレジャーです。
古典的な労働倫理に促されてなす肉体労働は素敵だ!
それは、薪焚き人でなければ満喫することのできない贅沢です。

 
みなさん、チェンソーの達人を目指しましょう。
何事を為すにつけ、スタイルから決めていくことも大切です。
イアーマフとスクリーンのフェイスガードを装備したヘルメットを買おう。
チェンソーチャップスで脚を守ろう。
高級なグローブも必要だな。
グレンスフォシュの斧を大中小揃えよう。
それから、ティンバーウルフのエンジン薪割り機も買ってしまおう。

 
みなさん、格好いいウッドシェッドを作りましょう。
薪小屋は素敵なガーデンアクセサリーでもあります。
それは、豊かさと安心のシンボル。
庭に薪小屋がないのは、小鳥や蝶がいない庭のように寂しいですから。

  
みなさん、薪エネルギーをもっともっと信じて下さい。
薪は最高のエネルギーですから。
薪は地産地消のエネルギーです。
薪エネルギーを愛するということは、
郷土を愛し、祖国の林野に限りない愛を注ぐということですから。
薪エネルギーを愛するということは、
ホルムズ海峡を渡ってくる原油に投資する金融資本主義者を笑うということですから。

 

 

みなさん、イワシを食べましょう。
イワシは今が旬ですから。
あなたの薪ストーブのトップローディングドアを開いて、
グリルバスケット(焼き網)をセットして、遠火でイワシを焼きましょう。
わたしは、小振りな目刺しが好き。頭ごと食べることができますから。

 
イワシは美味しい。栄養価も最高ですよ。
イワシは沿岸で沢山捕れますから、マイレージコストも安価。
みなさん、沿岸の青魚を薪ストーブで焼いて、マグロの切り身を笑いましょう。
サンマの薫製も美味しいですよ。

 

 

みなさん、電気仕掛けのコーヒーメーカーでコーヒーを淹れるのをやめましょう。
コーヒーは、エマリアのコーヒーポットに粉を直接入れて、
ストーブトップで沸かしましょう。
それを、紅茶用の茶こしで漉してみれば
本当のコーヒーの香りと味を楽しむことができます。
世界で一番美味しいコーヒーを飲んでいるエチオピアやブラジルのコーヒー生産者は、紙のフィルターなんか使いません。

 
みなさん、台所の洗い物は金網のバスケットに入れて、
ウォーミングシェルフで乾燥させましょう。
みなさん、台所の布巾はミトンラックで完璧に乾かして下さい。
それが、薪焚き人保健衛生局からの伝言です。

 
みなさん、大小のコッパーケトルにいつも湯を滾らしておいて下さい。
ストーブトップの熱コストはタダですから。

 
みなさん、さほど汚れていないバスタオルは
薪ストーブの熱でカラカラに乾燥させて何度か使いましょう。
一度しか体を拭いていないバスタオルを、
そのまま洗濯機に投げ込んでしまうのは、電気と水と洗剤の無駄遣いです。

 

 

みなさん、もうすぐ3月11日です。
この幻想とあの幻滅を忘れないようにしましょう。
放射性物質は今日も元気に世界の空を飛び回っています。
「福島に住んでいなくてよかった」なんて誰も言えないんです。

何かといえば、絆、絆の昨今ですが、
絆という言葉にポジティブな意味はありません。
どんな辞書を繙いてもそうです。

例えば、三省堂の新明解漢和辞典にはこう書いています。
「馬の足をつなぐもの。ホダす。人の行動を縛る。ホダし。
人の行動を束縛するもの」。
絆す(ほだす)とは、「人の行動を束縛する」という意味です。」

 

 

みなさん、私たちは原発や政治的プロパガンダとしての“絆”という束縛から解放されましょう。

 
みなさん、わたしはかねてより”孤立無援”を好んで標榜してきた者です。
人は、そんな自分をネガティブな奴だと思うでしょう。
しかし、「本当の連帯を求めて、孤立無援を恐れない」ということがタブチ君の真意なんです。

 
みなさん、恐れを抱かないようにしましょう。
支配する側が人の自由を束縛する最良の方法、それは今も昔も“恐れ”を植え付けることです。

 
みなさん、薪ストーブをもっともっと愛して下さい。
みなさん、薪ストーブと恋をしましょう。
恋は、人を幸せにしてくれますから。

 

Photoes by Yoshio Tabuchi
 

  • ページの先頭へ

薪ストーブエッセイ・森からの便り 新着案内