田渕義雄・薪ストーブエッセイ きみがいなければ生きていけない

信州の山里に暮らす自然派作家がつむぐ薪ストーブをめぐる物語

人生に寄り添う道具たち

この山の苫屋には、古い道具がある。
この苫屋の老夫婦に似て、この家にある道具は古くさい物ばかりだ。
まだ若い来訪者は、この家の道具を見て興味を示す。
その多くは、アウトドアアクティビティーに由来する道具だ。

それは、MARKILLやLE GRAND TETRASの水筒や燃料容器だ。
また、古びたシェラカップに目を見張る。
そして、LA FONTAINE ETAIN PARISのオイルランプを見て溜息をつく。

レトロな雑貨が若者に人気なのは面白いことだ。
なぜならそれは、発展的な社会化状況として捉えることができるからである。
人がレトロな物に興味を示し欲しがることを、
後ろ向きなこととして捉える者もいよう。
が、大量生産、大量物流、大量廃棄、レトロな物に人の心が動くのは、
あからさまな使い捨て的文明にみんながうんざりしはじめたからだ。

 

雷鳥印のル・グラン・テトラの赤い水筒は可愛い。
ペットボトルの水ではなくて、
冷たい湧き水をこの水筒に詰めてハイキングを楽しみたい。
登りつめた岩山のてっぺんで飲む水は
キュートな赤い水筒に詰められていなければならない。
きみが、レトロなこの赤い水筒を1万円でウェブサイト・ショッピングしたとしても、誰も笑わない。
今から40年前、この水筒は2千円はしただろう。
その後の物価指数を思えば1万円のインベストメント(投資)は妥当だ。

 

この春、30年間庭で愛用していたシース・ナイフを失った。
それは、知り合いのカスタム・ナイフメカーが作ってくれた美しいナイフだった。
愛用していたナイフを失った喪失感には呆然自失としたものがある。
それは、深い悲しみとしてある。何度も何度も庭を見回った。
 
村のスーパーマーケットであるNANA’Sの駐車場に“Calafate”が出店した。
クライマーとアウトドアーのためのショップだ。
我が集落の村外れには、小川山の岩峰群がそびえ立つ。
日本で一番人気のあるフリークライミングとボルダリングのメッカだ。
わたしは、クライミングとフライフィッシングを満喫したくてここに来た。

ナナーズで買い物してカラファテに立ち寄った。
そこで、シース・ナイフを見つけた。
フィンランドの遊牧民であるラップランダーの工芸品をプロダクツした商品だろう。
一目で気に入った。7千円だった。良心的な値段だ。
このような気の利いた雑貨を輸入する業者にありがとう。
この新しいナイフが来て、失ったナイフの喪失感は日毎に癒えている。
このような商品はアウトドアー・ショップでしか見かけない時代になった。
だから、カラファテは雑貨店としても頑張れ。

 

POCKET MONEY CONSPIRACY。
ポケットマネーによる共謀。
我々は自分のポケットマネーで世界を変えることができる。
感受性に磨きをかけて、注意深く買い物をすることで、我々は今ある流通の流れを糺(ただ)すことができる。

欲望の資本主義。
何が何でもマネー、マネー、マネー……。
金のためなら何でもやる。
大気汚染、海洋汚染。
世界は、ゴミ、ゴミ、ゴミ、ゴミ、ゴミ……。
地球はゴミの惑星になった。
そのくせ、彼らは金の意味を問わない。
彼らは哀れな拝金主義者だ。
そのマネーに抗することができるのは、我々のポケットマネーだ。
心ない金の流れを、心あるお金で堰き止めることができる。
蟻が象の足に噛みついて、その進路を変えることができるように。
暗黙の共謀として、ポケットマネー・コンスピラシーが世界を席巻していく。

 

カラファテで買ったナイフがそうであるように、マウンテンリサーチの“アナルコカップ”は、ポケットマネーを投資するに値するプロダクツである。
「いくらヘラ絞りだとはいえ、直径97ミリのこんな小さなカップが6千円は不当だ」。そう感じる人もいよう。
しかし、台所に置いてみれば、このカップが一日中活躍する。
この小ささがこのカップの真骨頂だ。
大は小を兼ねない! 小さな泉の水を、大きな桶で汲むことはできない。
アナルコカップは、使い勝手のいい美しいミニカップだ。
50年アウトドアで台所で使いつづけても、その輝きを失わないだろう。

 

ファイヤーサイド社の“グランマーコッパーケトル”は、
いかにもレトロな美しいケトルだ。
しかし、このケトルの底力には計り知れないものがある。
これは、1世期ほど昔に一世を風靡したケトルの生まれ変わりとしてある。
薪ストーブのストーブトップや石油ストーブで湯を沸かすために商品開発された。
ストーブに火がある限り、この家では湯がたぎっている。
料理に、洗い物に、大重宝!
大小のケトルを25年間使いつづけたことで、
プロパンガスのガス代金をどれほどセーブしただろうか?
これは、エコロジカルな社会的発展としての、
薪ストーブの未来を占うプロダクツだといえる。  
このケトルはインドで作られていたが、品質向上のために新潟で作られるようになった。
「神はその細部に宿る」。
長岡市と燕市のアルチザンにエール!
3,3リットルのケトルが¥18,000。(※)
絶対に高くない。

 

薪焚き人にとって、斧は不思議な存在感を発揮しつづける道具だ。
自分が今、何振りの斧を持っているのかは数えたくない。
きっと、15本はある。
それぞれに個性があり、一つとして手放せない。
よくない斧という物はない。

グレンスフォシュ・ブルークの斧は、
時代を過去に遡ってリプロダクションされた物としてある。
スウェーデンは、かつて世界最大規模の林業用斧の輸出国だった。
しかし林業の機械化により、斧が積極的に使われることはなくなった。
そこでグレンスフォシュは、ホームユースな製品開発にシフトした。
それはプロの道具ではなく、アマチュア・ランバージャッカーを喜ばしてくれる手作りの斧としてある。
この会社は、過去にその活路を見いだした先見性に富む斧屋だ。
わたしのお薦めは、ミニ・ハチェットとカービング。
ハンドアックスの21世紀的傑作といえる。

 

ホームセンターで、あなたが今手にして買おうかどうか迷っている商品が、どんな素材で、どのように作られ、その製造過程で何が廃棄され、プロダクツの寿命が尽きた時に、それは環境にどう影響するのかを考えてみよう。
エコロジーは、自然を顧みない体制に対する反体制的哲学としてある。

「そうじゃないんだ! と言い給え。
そうすればきみは哲学者の一員になるだろう」。
  Thoreau’s Journal

 Photoes by Yoshio Tabuchi

(※)2019年7月現在の価格
隔月連載。次回の更新は2019年9月下旬です。

 



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