田渕義雄・薪ストーブエッセイ きみがいなければ生きていけない

信州の山里に暮らす自然派作家がつむぐ薪ストーブをめぐる物語

Making a fine job of it. 折り焚く枝木の記

木枯らしが吹き荒れている。
シベリアにいる冬将軍が、おもいっきり凍った息を日本列島に向けて吹きつけているんだ。
その風は日本海の上空で水蒸気をたっぷり吸い込んでから、寒冷な脊梁山脈に衝突する。
で、列島の日本海側に大雪をもたらす。

山脈の西側に水蒸気を吐き出してしまったシベリア高気圧は、
乾いて凍った風になって中部高地を横断していく。
その途中で八ヶ岳山脈に突き当たって、高山に雪を降らせる。
なので、その風はスッカラカンに乾いて我が家の上空を吹き抜けていく。

 

 

八ヶ岳の東側に位置するこの村の冬は、アイシーなハイデザート(高地砂漠)だ。
茫々として風が野面を渡り、寂寂として野に人無し。
寒山の冬は長く寒い。
だが、冬中だいたいは晴れ渡っていて降雪量は少ない。
笑っちゃうほどアッケラカンとした青空と明るい日差しがある。
その分、夜は冷え込む。
氷点下20℃の朝が何日かある。

昼間の日照時間が大切なんだ。
人は、今が冬の入り口だと思っている。
でも、本当はそうじゃない。
冬至は過ぎた。
とうことは、夏がもう始まっているということだ。
昨日より今日のほうが明るくて昼間の時間が長くなっている。
そして、日毎に季節は夏へ。

新年おめでとう。そして、A Happy new  Summer !

冬籠もりの準備は冬至の日までにすべて整えた。
恒例の薪作りパーティは12月の第一週末に終えた。
みんなの願いが天に通じて、この2日間は年内最後の小春日和に恵まれた。

庭の薪小屋を見て!
わたし、綺麗になったでしょ。
昨日まですっぴんだったわたし、ミズナラの薪でセクシーになったでしょ。

 

 

コールドマウンテン・ボーイズのみんな、ありがとう。
今年は高橋みなさんも参加してくれて、有意義な2日でした。
庭の焚き火で作った里芋のけんちん汁が美味しかったね。

煙道の掃除も済ませた。
お小遣いを奮発して、コンバスターを新品に換えた。
冬に備える我が任務は無し。
後は全てをお天道様に委ねるだけだ。

 

 

薪作りパーティーに合わせて、新潟からプロのランバージャッカー(樵さん)をお呼びした。
育ちすぎて自分では伐れなくなってしまった家周りの樹木を7本、彼に倒してもらった。
さすがはプロの仕事!
スパイク付きのブーツと自己確保のロープだけで、お猿さんみたいにするすると高木によじ登る。
そして、チェンソーで太枝と梢を切り落としていくんだ。
それから、短くした幹を伐り倒すんだよ。

わたし、本当にいい仕事を見せてもらいました。
それはもう、うっとりと見ているしかない見事な職人技でした。
あなたの樵技は絶対に世界レベルだ!
ランバージャッカーがその技を競い合う世界大会があればいいのに…と思った。
その折りには、大滝選手のサポーターとして、わたし絶対に同行します。

 

 

樹齢50年以上の家周りの樹木を7本伐るということは、
夥しい量の枝木を始末しなければならないということである。
トラックに積み込んでどこかの空き地に積み上げて、
灯油をかけて焼却してしまうという手もあるにはある。
でも、わたしにそれはできない。

どんなに手間がかかろうと、割り箸ほどの枝木であっても、
きっちりと始末して薪ストーブで有り難く折り焚くことがわたしに科せられた義務だ。
直径2センチ以上の枝木は、片手使いができる小型のチェンソーでストーブサイズに切った。
それよりも細い枝木はハンドアックスで叩き折ることにした。

 

 

もの凄い量の細枝なので、片手斧の選択に迷った。
こういう時には、グレンスフォシュのハンターを使っていた。
ハンターは大好きなハンドアックスだ。
この斧をわたしほどに使い込んだ日本人はいないのではないだろうか? 

でも、ハンターは少し大振りだと感じた。
もう少し小振りで軽い斧が欲しくなった。
そんな折りに、”アウトドア”という小振りのハンドアックス新発売されることを知った。
アウトドアは重量500グラム、全長37センチ。
細い斧身の割りには、ハンドルが長目の斧だ。
斧頭の側面には” LP”の刻印がある。
グレンスフォシュの名工であるレナート・ペッテンションの作だ。

 

 

伊達に28年間、木々と戯れてきたわけじゃない。
“アウトドア”への投資は大成功だった。
この斧で細枝を折り焚いて12月を暮らした。
12月に伐った木は樹脂が乗っていて、生枝でもよく燃え火力も出る。
乾いた薪でストーブの火力を上げておいて、枝木を折り焚いた。
その甲斐あって、12月の薪の消費が通年の半分以下になった。

いつも不思議に思うことなのだが、
実をいえば、一冬を通じて一番薪を消費する月は12月だ。
日照時間が短いことに加えて、厳冬期への身構えがまだできていないからだ。

 

 

薪として積み込めない半端なサイズの切り株や太枝の瘤は、
ストーブトップに置いて2~3時間強制乾燥させてあげればよく燃えることを知った。
トリベットの上にそれを乗せておけば焦がさずに乾燥させることができる。
ストーブトップで生木が乾く時には、その樹木のいい香りが室内に漂う。
また、室内の湿度も高まる。

ストーブトップでのこのような生木の乾燥法は、
自分で原木から薪を作る薪焚き人の特権的アロマセラピーであることを報告しておきたい。

Photoes by Yoshio Tabuchi

 



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