How shall we deal with woodpile? 親友といかにつき合うか
ミズナラの薪が気持ちよく燃えてる。
アンコールのダンパーを閉じて、吸気レバーを絞っても火力が落ちない。
オレンジ色の焔が楽しそうにスイングしている。
暖かすぎて、セーターを着ていられない。
「乾燥した楢の薪はさすがだ!」
この寒い山で薪ストーブを焚きながら、冬を28回も数えたのに……。
今更ながらにそう感心している自分が、なんだか可笑しい。
去年の6月に積み上げたミズナラの薪を焚いてる。そして、こう思っている。
「楢の薪は1年半以上寝かせるべきだ。理想をいえば、2年間だな」と。
言うは易し。されど…。
そうよね。同じ一年は二度となくて、その年の人生も冬に焚く薪も色々。
でもね、たぶんきっと。
フライフィッシングに興じる日数をほんの少し減らして、薪との交友をね。
そうだよ、親友なんだもん。
伐られたばかりの生木は、その重量の50%が水分だ。
その水分量は樹種によって異なる。
トネリコやブナの生木の水分量は、ミズナラの半分以下であるらしい。
ミズナラは水分量が多い樹木なのだ。で、水楢という名前なのかな。
そうであるなら、納得がいく。ミズナラは水辺に生える木でもないからね。
そうだ、薪炭を代表する“楢=オーク”という樹の勉強をしてみよう。
ミズナラは、ブナ科コナラ属コナラ亜属に属する落葉高木。
冷温帯落葉闊葉樹林を代表する樹木の一つ。
目通しの直径が1メートルもの巨木に成長する。英名はホワイトオーク。
優良な家具材であり、ワインやウイスキーの樽材でもある。
また、椎茸栽培の榾木とし利用される。
ミズナラのドングリは野生動物や鳥の貴重なご馳走だ。
コナラとクヌギは同じ属の落葉樹で、温帯に生育する“楢”だ。
楢はコナラ属の樹木を総称する呼び名。
で、どの樹種を楢と呼ぶかは、土地土地により異なる。
我が寒山では、ミズナラを楢と呼ぶ。
樫は常緑のコナラ属の総称として捉えることができる。
樫は、楢に勝る優良な薪炭樹。
非常に堅い木なので、斧や金槌の柄、また鉋台等に利用される。
楢と樫は、同じ属に属する木なので、しばしば混同される。
“楢枯れ”の主犯が、カシノナガキクイ虫と呼ばれるのもそのせいだろう。
コナラ属の樹木は伐られても枯れない。
太い根が生きていて、切り株から若芽を沢山出す。
これをヒコバエ(蘖)と呼ぶ。ヒコバエは孫生えという意味。
蘖はどんどん成長して、一つの切り株から何本かの樹木となる。
このような木を“株立ち”と呼ぶ。
里山で株立ちした楢や樫を、我々は数千年にも渡って活用してきた。
今、物議を醸し出している楢枯れの原因は、
株立ちで育った里山の楢や樫を薪炭として活用しなくなったからだ。
それは、里山からの恵みを忘れた住民が、化石燃料と浮気してきたリアクションとしてある。
待てど暮らせど来ぬきみを怒って、山が荒れているんだ。
楢枯れに対する最も有効な対策法。
それは、里山に人とお金を投入して、楢枯れた里山を薪エネルギー源として再活用することだ。
里山を持つ人たちよ目覚めよ!
“薪ストーブのある暮らし”のよさを学んで、ハッピーな里山リビングを楽しむんだ。
わたしもそうだが、あなた方は恵まれているんだ。
優良な薪エネルギーが潤沢にある土地で暮らしているんだもん。
ごめん。長い寄り道だったね。
そうだ、「薪は十分に乾燥させるべし」と、いう話だ。
木材の水分は、蜂の巣状になった四角い筒の細胞壁のなかの細胞に閉じ込められている。
切口(こぐち)で露出した細胞壁の断面が空気に晒されて、乾きはじめる。
すると、毛細管現象によって細胞壁の中の細胞に閉じ込められていた水分が木材の外に運ばれていく。
細胞壁は乾燥するに従って収縮し、細胞壁と細胞壁の間に隙間ができる。
これが、切口の裂け目だ。
裂け目が出来れば出来るほど空気の流通がよくなる。
その分、細胞内の水分は外に吸い出されていく。
水分の多くは、切口から外気に出て行く。
薪が乾燥するということは、そういうことである。
薪がどこまで乾燥するかは、薪の周囲の空気の相対湿度と時間の係数としてある。
相対湿度とは、特定の温度における空気中の湿度のことだ。
相対湿度が低いほど、薪から蒸発する水分も多くなる。
外気の湿度が一定であるとき、外気温が高いほど相対湿度は低くなる。
細胞壁の水分が蒸発した後の薪の含水量はおよそ30%。
以上のことを分かりやすい言葉で言えば、こういうことだ。
1)薪山は、陽当たりと風通しのいい薪小屋に築くことが理想。
2)薪は、細く割り隙間を多くして積み込んだほうが速く乾燥する。
3)野積みの薪山は、雨に濡れないように屋根囲いをする。
ただし、通気を遮断してしまうビニールシートで覆うのはよくない。
トタン板か棉のキャンパス地がいいだろう。
4)樹種によって異なるのだが、薪は十分に乾燥させてから利用する。
ただし、2年以上の乾燥は無意味だ。虫食いなどの生物学的要因によって、薪はむしろ劣化していく。
隣人がこの秋に見事な薪山を築いたので、写真を撮ってきた。
この薪山は、自分の林野を伐採して、その場に積み上げた物。“山積み”と呼ぶ。
1年間以上そこに置いておいて、乾燥して軽くなった薪を軽トラで庭の薪小屋に持ち込むのだ。頭いいよね。
わたしの薪小屋は今、この小屋の持ち主の財布みたいにスッカラカンだ。
でも、大丈夫。
パーキングロットにこの冬の薪が乾いている。
しかもそれは、1年半物の楢だぜ。
そして、見てよ! 来シーズンのための丸太のこの見事さを。
100%楢だぜ。
この楢の丸太は、もうすぐ薪になる。
来週末に恒例の“薪作りパーティー”が1泊2日で開催される。
西から東から仲間がやって来る。
その時、寒山にチェーンソーの大コーラスが響き渡るんだ。
Quiet living with chainsow.
チェーンソーと共にあるタブチ君の静かなる日々はつづく。
Photoes by Yoshio Tabuchi
Illustrations by Vance Smith(「薪ストーブの本」田渕義雄訳共著、晶文社刊より)