The kitchen Garden is beyond all praise. キッチンガーデンとミニハチェット
六月の朝は、苺を食べた。
庭の苺をたっぷりシリアルのボールに乗せて牛乳をかけて苺を食べつづけた。
昼食と夕食はアスパラガスとレタスとラディッシュとコカブを食べつづけた。
そして、七月。
苺の季節が終わろうとしている。ラズベリーが実りはじめた。
七月の朝はラズベリーを食べつづけるだろう。
ラズベリーは我が庭の自慢なんだ。毎年20~30キロ収穫する。
その実を摘むのは妻の仕事だ。
「ラズベリーが実ると憂鬱になる。自分の仕事ができない」と妻が言う。
で、この春はエンジン式の柴刈り機でラズベリーの株を大胆に剪定した。
そうしたら、皮肉なことにラズベリーの花付きが素晴らしくいい。
「ラズベリーの花がいつもより大きい。今年は豊作になるわ。
ジャムにしていけばいい量じゃないわね」
と妻が苦笑いする。
で、二人で佐久平の家電量販店まで出向いて、フリーザーを新調した。
ラズベリーを冷凍保存するためだ。
キッチンガーデン(菜園)の作物をお金に換算したくはないが、
ラズベリーには1キロ1万円の価値がある。
そうであれば、嫌々ながらであっても、
誰かさんは七月の朝をラズベリー畑で過ごすことになるだろう。
“グリンピースの豆ご飯”は誰かさんの好物。
グリーンピーとシュガーピー(絹莢)とスナップビーンの種を播いた。
ピース(peas)の栽培は苦手だった。
トレリス(蔓棚)を作るのが面倒だ。
支柱を立ててネットを張るのに手間がかかる。
季節が過ぎて、トレリスを片づけるのはそれ以上に嫌だ。
胡瓜のトレリスもそうだ! 長い支柱を始末するのも気乗りしない仕事だ。
そこで、去年は枯れ枝をトレリスに見立ててピーを育ててみた。
庭の木立から枝付きのいい枯れ枝を拾ってきて、その畝に突き刺していった。
その生育を見守りながら、その都度適当に枝を差していけばいいので苦にならない。
そこが、枝木によるトレーニング(仕立て)のいいところだ。
また、枝木の仕立ては菜園にラスティック(素朴)な景観をもたらしてくれる。
そしてそして、枝木仕立てのなによりの美徳は、
秋になったらそれをハンドアックス(片手斧)で短く折ってしまえばいいことだ。
それは最高の焚き付けになる。
木立の枯れ枝を祝福せよ!
枝木仕立てのコツは、枝木の木元を鉛筆のように鋭く尖らしてやること。
そうすれば、難なく地中深く枝木を突き刺すことができる。
こんな時に大活躍してくれるのが、ミニハチェットだった。
Eureka (ユーリカ)! 我、発見せり。
全長26センチ300グラムのこの可愛らしい斧は、
“シャープなナイフとしての小さな手斧”なんだ!
枝木を尖らせるときの、ミニハチェットの使い心地のよさといったらないんだ。
同様な意味で、小型の弓鋸も枝木を切るには使い心地のいいものである。
鋸歯が細くて薄いので、軽く鋸が挽ける。
ミニハチェットは、妻が枯れ枝で焚き付けを作るときに愛用している。
また、南瓜を割るときにも。
この愛らしい手斧は彼女専用で、
自分は「バックパッキングの折りでも…」と考えていた。
しかし、その実力を知るにいたって
「小さな物が、時には大きな役に立つんだ!」ということに感心した。
道具好きの木工家でもある自分にしてみれば、
それは、次のような喩えの形而上学的発見でもあった。
“大は小を兼ねる”と言うが、そうじゃないんだ。
「小さな泉の水は、大きな桶では酌めない。
小さな泉の水は、小さな片手桶で酌み取らなければならない」。
我々の幸せは、ちいさな幸せの積み重ねであればそれでいい。
小さな幸せを、小さな手桶で静かに酌み取っていくことが大切なのではなかろうか。
自分の体力に余る大きな重い桶で、大きな泉の水を無理して酌もうとしなくていいんだ。
人生は思っていたよりもずっと長くて…
まだ若いきみやあなたよりも少しは多くを見てきた者として、そう助言することができる。
薄衣のワンピースをまとった豊穣の女神ケレスが、七月の緑麗しい庭にたたずんでいる…。
そして、タブチ君にウィンクしている。
グリンピーの莢が膨らんできた。胡瓜が小さな実を付けている。
トマトと馬鈴薯が順調に生育している。
秋までにトマトは150個、馬鈴薯は1000個収穫できると目論んでいる。
菜園は自分たちのための小さな農園である。
「菜園は、人が持つべき物の中で最良の持ち物だ」と思う。
千冊の書物からよりも、より大切なことをより多く、人は自分の菜園から学ぶだろう。
「菜園をつくりなさい。
鍬でよく耕して、そこに馬鈴薯の種芋を埋めるんだ。
その生育を見守りながら、株元に何回か土寄せをしてやりなさい。
秋になったら掘り出して、ストーブトップで茹でて食べなさい」
キマグレーノ・タブーチ(寒い山の説教師)
Photoes by Yoshio Tabuchi