Fire woods 「人生いろいろ、薪もいろいろ」
薪小屋の薪山が日毎に低くなっていく。やがて一山二山と消えていく。
秋には軒先からはみ出すほどに積み込まれていたのに、
今は軽自動車を収納できるほどのスペースができてしまった。
哀れ薪山の薪。燃えゆきて儚し。
されど、それが汝の定め。
己の務めを夏が来るまで潔く果たしつづけよ。アーメン。
11月、12月、1月の3ヶ月間の間に、
1年分の薪の5分の3が燃え尽きてしまう。
「老後の資金を思っていたよりも早く使い果たそうとしている…」。
薪小屋に薪を取りに行く度に、そんな気がして切ない。
しかし、日差しが日毎に明るくなってきた。
サンルームに光が満ちあふれてきた。
夕暮れが日毎に遅くなってきた。
これからは、日中に消費する薪の量が日毎に少なくなっていくだろう。
1月は逝った。2月は逃げる。3月は去る。
実を言えば、もう春は始まっているのだ。
光の春。
雪がその光をいっそう眩しいものにして、これからは1年中で一 番明るい季節だ!
みんな、よかったじゃん。旧暦にて、迎春のお歓びを申し上げます。
今年も薪作って、薪焚いて、楽しく暮らしましょう。
渓流釣りにはまだ早すぎる2月、3月。
さりとて、一日中インドアに閉じこもっているには日差しが明るすぎる日。
薪作りで、筋肉に活を入れて体を暖めるにいい季節の到来である。
冬中凍り付いていたチェンソーに息吹を吹き込んでやろう。
斧を研いで士気を鼓舞しよう。
この季節に薪を作って、来シーズンに備えるのがスタンダードな薪作りのあり方でもある。
薪エネルギーとしての薪の優劣を問う質問をよく受ける。
自分の考えはこうだ。
薪は地産地消のエネルギーとしてある。
それがどんなに優良な樹種からなる原材であっても、
遠距離から運ばなければならないものはよい薪とはいえない。
なぜなら、運搬費用が薪のコストを大きく規定するからである。
「俺は金持ちだからコストの高さは厭わない」と言う人がいるかもしれない。
しかし、貴重な化石燃料を消費し、タイヤのゴムを磨り減らして、排気ガスと二酸化炭素をまき散らしながら遠くから運ばれてくるそれは、不道徳であり倫理観が欠如した薪だと言わなければならない。
それは、他人の海であるソマリアの海や南太平洋から運ばれてくるマグロのようなものだ。
私が言いたいことはこういうことである。
「一番 いい薪は、一番手に入りやすい身近な薪のことだ」と。
自分のエリアの人工林で除間伐され、木材としての価値のない間伐材。
それが、だだ同然で手に入るものなら、それこそが最高の薪だ。
「木材として価値がない」と判断された間伐材は林野に放置される。
放置された間伐木は林野の健全な生育を妨げ、人がその森に踏み入る障害となる。
進歩的な最新レポートによれば、「人工林の樹木は人に見つめられ愛されることで元気になり、その生育が早まる」という。
林野に放置された間伐木は、酸素を吸収して炭酸ガスを放出しながら緩やかな酸化の課程を経て数十年かかって朽ちていく。
その間伐木を運び出して薪エネルギーとして活用することは、その間伐木の酸化の過程を薪ストーブの炉室で人為的に執り行うこである。
つまりこの場合には、薪焚き人は名実共に炭酸ガスをいっさい排出していないことになる。
そればかりではない。
林野から障害木を運び出したことで、我々は樹木がより多くの酸素を作り出す手助けをすることになるのだ。
薪ストーブの普及と共に、間伐木や障害木が只で供給され始めている。
それは有益な廃棄物として広場や空き地に積まれて、
「ご自由にお持ち帰りください」という看板が添えられる。
行政の側にしてみれば邪魔者を処分するコスト削減になる。
一石二鳥の市民町民村民サービスとしてそれはある。
湘南の海辺に住んで薪ストーブを愛用している友人がいる。
彼のウィークエンドは、そのような薪木を愛車に詰め込んでくることに費やされる。
そのせいで、彼のBMDは、いつも木屑で汚れている。
軽トラ買えばいいのに…と思うのだが、
「このセダンで、薪拾って薪焚いて暮らすから楽しいんだよ」というのが彼の弁だ。
とはいえ、山深く住み侍りけるタブチ君の場合にはそうはいかない。
高冷な我が寒山では、薪ストーブ普及率はたぶん日本一だ。
で、只の薪木はどこにもない。皮肉なものである。
四方を林野で囲まれている山村では、みんなが薪を焚きたがるのでかえって薪木が貴重なのだ。
私は知り合いの林業家から高価な薪木を買っている。
彼とは25年来の友人関係を育みつづけている。
その甲斐あって、この家の薪はいつもスーパーAAAだ。
この冬に焚いている薪は、その90パーセントがミズナラ。
言いたくないけど、ミズナラの薪はカラマツの五倍以上の価値があることを報告しておかなければならない。
薪焚き人の人生もいろいろ。薪もいろいろ。
薪エネルギーのコストにグローバルな相場はない。
薪木の需給は個人的にスマートにやりな!
よい供給人と出会ったら、彼の誕生日に一升瓶かワインを贈るのを忘れないように。
そして、彼のことは薪焚き人仲間には秘密にしておこう。
Photoes by Yoshio Tabuchi & Paul Kastner