薪ストーブとメンテナンス
空の色がライトブルーに変わった。
空気が澄み渡ってきた。
白樺と山桜が色付きはじめた。
花々はまだ咲き競っているが、その花あしらいは夏の名残。
寒山の夏は束の間の夢のよう。
去っていく夏の後ろ姿は愛しい。
だが、夢のいた川の流れに未練残しても岩魚釣りは9月で禁漁。
愛しいという言葉は“愛”という字を書く。
愛という漢字は「去っていく愛しい人の後ろ姿」を表した象形文字だと漢和辞典に書いている。
ペリエの空き瓶にルドベキアの花を一輪差して、逝く夏の後ろ姿を見送ろう。
またの秋…。
夏は夏だ。きみも好きだが、山は秋がいい。
鹿が鳴きはじめた。アンコールに火を起こす鹿鳴く夕暮れ…なんて素敵なんだろう!
少し肌寒かった部屋がたちまち暖かくなっていく。
ストーブトップにケトルや鍋が並ぶ。
ストーブシーズンの到来だ。いいな…。
シャワー浴びてTシャツとショーツ姿になって、部屋の中は夏再び。
ViVa 薪ストーブ!
ところで、ストーブのメンテナンスは済んだかな?
まだ? ノー、駄目駄目。
今すぐに煙道の掃除とストーブメンテナンスをこなしておくべきだ。
今なら余裕をもってそれをこなすことができる。
ストーブはローテクな道具ゆえにその性能が十分に発揮されているかどうかが定かには分かりにくい。
本格的なストーブシーズンになってしまえば毎日燃えつづけるので、「自分の薪ストーブはこんなものだ」と思いこんでしまう。
でも、そうじゃないんだ!
実をいえば、現代の薪ストーブはセンシィティブな機械でもある。
ストーブメンテナンスを完璧にこなしてみれば、「わー、こんなに高性能なストーブだったのか!」って、自分の薪ストーブのよさを再認識するだろう。
私のストーブメンテナンスはこうだ。
先ず、煙道(煙突)掃除をする。
クライミングシューズを履いて、クライミングロープで自己確保しながら矩勾配(かねこうばい)の屋根によじ登る(※1)。
チムニートップを外す。妻にブラシをセットしたロッドを手渡してもらう。
ブラシを煙道に突っ込み時計回りにロッドをゆっくり回転させながら(※2)ブラシを押し下げていく。
ブラシがストーブに届いたら(※3)、今度はロッドを引き上げていく。同じことを二度繰り返す。
フラッシュライトで照らしながら煙道を覗き込んで煤やクレオソートが落ちきったことを確認する。
チムニートップの排気口にこびり付いているクレオソートを細い枝木で擦り落としておくことを忘れないように。
注意:煙突掃除をするときには、二次燃焼ダンパーを開放しておくこと。
そうでないと煤やクレオソートがダンパーの奥に溜まってダンパーが開閉しなくなってしまうだろう。
煙道掃除が済んだら、ストーブの炉内を掃除する。
ダンパーの上につもった煤とクレオソートを炉内に落として、灰と一緒に綺麗に掻き出す。
小さな手箒で丁寧に炉内を掃除しておこう。
さあー、これからがメンテナンスの核心であるコンバスターのクリーン作戦。
コンバスターの脱着は機種によって異なるのでマニュアル(保守点検書)に従う。
キャタリティックコンバスターを収納しているセラミックの箱は壊れやすいので細心の注意を持ってそれを取り扱うこと!
コンバスターを取り出して、蜂の巣状の空間に溜まった灰を掃除機で吸い取る(※4)。
セラミックの箱の両サイドに溜まった灰をスプーンと掃除機で綺麗に取り除く。
コンバスターをセラミックの箱に収めてファイヤーバックをセットし直して、二次燃焼システムのメンテナンスを完了する。
コンバスターを簡略化したエヴァーバーンのそれは、セラミック製の二次燃焼室に溜まった灰を掃除機で吸い取ればいいのかな?
警告:電気掃除機で灰を吸い取る際には、48時間以上ストーブを焚かないこと。
まだ生きていた灰の中の熾き火が集塵バックの中で発火するかもしれない。
いずれにしても、ストーブの灰を吸った掃除機は集塵バックをすぐに交換しておくべきである。
ここで、一休みしよう。
ストーブメンテナンスの仕上げは、ガスケット(グラスファイバーロープ)の保守点検。
ガスケットはストーブの気密性を司る大切な消耗部品。
傷んだり寿命がきていたら早めの交換を。
そして最後に、ドアと灰受け皿の締まり具合を備品の六角レンジで調整して全ての任務を終える。
ストーブメンテナンスは厄介な仕事かもしれない。
最初は確かにそうだろう。しかしこれは一年に一度でいい仕事だ。
シーズンを繰り返していくうちに、その段取りや要領が解ってきてそれほどの任務ではなくなってくるものだ。
十年間同じことを繰り返してみれば、自分の道具や機械の保守点検に心を砕くことの大切さが分かってきて、むしろ心楽しくストーブメンテナンスをこなせるようになるだろう。
大切なこと:メンテナンスフリーな道具や機械は短命であり、使い捨て的である。
一方、適切なメンテナンスをその都度必要とするそれは長寿であり、エコロジカリーであり経済的だということだ。
この家のアンコールは1986年版のオリジナルモデルだ。
二十数年間この寒い山で愛用しつづけているが、その性能を保ちつづけていることを報告しておきたい。
Photes by Yoshio Tabuchi
※1 高所作業は危険を伴います。ロープやハーネスを用い、十分な安全対策を行ってから作業に取りかかってください。
手に余る困難な作業だと感じたらストーブメンテナンスの専門業者へ相談することをお薦めします。
※2 ブラシを時計回り回転させながら作業することで、ブラシの脱落を予防します。
※3 セラミックボックスを傷つける恐れがありますのでダンパーの開放をお忘れなく。
※4 家庭用掃除機の場合、灰が目詰まりして故障の原因となることがあります。灰の取り扱いには十分ご注意ください。