田渕義雄・薪ストーブエッセイ きみがいなければ生きていけない

信州の山里に暮らす自然派作家がつむぐ薪ストーブをめぐる物語

寒山子 長如是

忘れな草の初夏はいった。
オダマキの花茎に種の莢が目立つようになった。
山椒バラが咲いている。
野辺のアヤメが雨をよろこんでいる。

お天道様に文句は言わないようにしている。
さりとて、この寒い梅雨空はちょっと困るなあ〜。
日照不足でスイカが育っていない。メロンも寒そうにしている。
今朝の最低気温は8℃だった。アンコールに火を入れた。

夏至はすぎた。
庭の野菜は季節とのタイムレースに入った。

 うとましや声高妻も梅雨寒も
          万太郎
 

 

晴耕雨木。
今日からは木工だな。
工房のレゾリュートに火を入れて、インドアライフ。
集塵機とテーブルソーの騒音を聞きながら、“埃高き男”になるんだ。
 
雨の日は、雨の一日を楽しめ。
風吹けば、風の音に音楽を聴こう。

 

 
どんな人生も容易くはない……。
生き長らえて、少しは物思う齢になってみればそう思う。
生きることに飽きてくるんだ。欲しい物がもう何もないんだ。

アンコールが1台、イントレピッドが2台、レゾリュートが1台、
それからハスクバーナのクッキングストーブ。
人の欲望には限りがない。
そういわれているが、そうでもない。
もうこれで十分。当然だよね。
薪ストーブが5台はツーマッチ?
でも、8台の薪ストーブ焚いてる人を知ってる。

♪ いいえ 欲しい物は何もないのよ 
  それより 眩しい夏の光を 
  標高1420メートルの庭に猛暑を

 

 

わたしは物好き男だ。
「物より心が大切です」なんて言う奴には、飛びかかって胸ぐらつかんでやりたい。
なぜなら、物は人の心の鏡としてあるからだ。
無い方がいい物に溢れている時代だが、素晴らしい物もまた少なからずある。
薪ストーブがそうだ。
薪焚きの風呂釜も素晴らしい物だ。

夏は、薪焚きの風呂釜で風呂を沸かしている。
薪で沸かした風呂には、特別な温かさがある。
湯が柔らかくて体の芯まで温まるんだ。
で、湯冷めしない。不思議なことだ。
わたしは温泉場には行かない。
それよりは、家の薪焚き風呂に浸かっていたい。

 

 

「およばざるは過ぎたるに勝る」。
そう言ったのは徳川家康だったかな。
この国の戦国時代は、世界史に例をみないほど長期に渡った悲惨な内乱時代として捉えることができる。
戦国武将のテレビドラマが嫌いだ。頼朝が嫌いだ。
頼朝の猜疑心と陰険さが、戦国時代の扉を開けてしまった。

思うに、明治時代以降太平洋戦争まで戦争に明け暮れたこの国の歴史は、戦国時代の続きとしてあった。
そして、イラクやシリアやアフガニスタンでは、今でも戦国時代に明け暮れている。 

悪い夢のいた場所に未練残す奴を、悪党という。
悪党と愚か者は、往々にして憂国を装う。みんなで、気を付けましょう。

 

 
歳をとって時代劇が好きになった。
プラスチック製品が映ってこないから、安心してみていられる。
山本周五郎さんのそれもいいよな。
テレビドラマ化された“雨あがる”を観た。とてもよかった。
この作品は、人の野心を戒めている。

野望や野心を抱く人がいることが理解できない。
自分は我が儘な人間だが、自分に野心はない。
あるのは、ちょっとした物欲だけだ。
山を下りて街へ行くときには、鏡の前に立って身だしなみを整える。
みっともない格好をして人前に立つのが嫌だからだ。

株だ、ファンドだ、先物だ。
そう言って、金持ちぶる奴に限ってみっともない格好をしている。
格好悪い人生を生きてる奴は、ダサイ格好をしている。

 

 

自分が身に纏うアパレルを蔑ろにするのはよくない。
流行的衣類を着棄てる者は愚かだ。
着古して自分の体に馴染んだ衣服を身に纏う快適さを知ることがないからだ。
そんなきみは、ショーウィンドウのマネキンにすぎない。
自分がどこにもいない。

自分は金持ちではないので、安物は買わない。
安物よりも10倍高価であっても、
心ある商品はそれ以上に安心でロングライフだからだ。

寒山子 かんざんし
長如是 とこしえにかくのごとし
独自居 ひとりおり
不生死 いきもせずしにもせず
 
ガーデニング趣味と木工と薪ストーブと、
それからフライフィッシング趣味のある人生を生きてきてよかった。

 

     

 Photoes by Yoshio Tabuchi

 

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隔月連載。次回の更新は8月下旬です。

 



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