田渕義雄・薪ストーブエッセイ きみがいなければ生きていけない

信州の山里に暮らす自然派作家がつむぐ薪ストーブをめぐる物語

市民的コンスピラシー

 

カリフォルニアの田舎町の消防署で灯りつづけていた現役の電球が、
100年前の製品であることが分かった。
そこで町民が、この電球の生誕100周年を盛大に祝った。

このことから、家電製品への不信感が募った。
1920代に電球の寿命を短くするための国際的協定が、
業界内で秘密裏に取り交わされている事が判明したのだ。

つまり、意図的に電球の老朽化を企てて、
その買い換え時期を早期化しようという陰謀である。
当初は、3000時間内での老朽化が義務付けられた。

 

 

3000時間以上長寿な電球を生産販売した業者には、
莫大な罰則金が科せられて、業界の団結が計られた。
それを実現するためには、多くの研究資金と労力が必要だった。
その後、電球の寿命は1500時間に短縮されてから、
今は1000時間に設定されている。

皆さんは、この話をどう理解しますか?
「今さら驚くには値しないよ。家電製品の意図的老朽化なんて常識だ!
そうやって、自分たちの利益を貪欲に追求しているんだ。
それが、大量生産、大量消費、大量廃棄ということの意味だよ」。
そう思わないでもない。
とはいえ、100年前に100年以上長寿な電球が市販されていた事実に、
心穏やかではいられない。
世界は、消費者を騙し、欺き、裏切る陰謀に充ち満ちている。
この世は、権謀術数渦巻く阿鼻叫喚の生き地獄なのか?

ゾロアスター教の最高神。光明の神。
あらゆる善・秩序の創造神。
悪神アフリマンをやっつける神。
鷲の翼持つアフラマズダーはいずこに……。

 

 

にしても、パソコン用の卓上プリンターには露骨な意図的老朽化が為されいる。
インクのランニングコストが高価すぎる。
加えて、古い機種のカートリッジインクの供給をすぐに打ち切ってしまう。

神様!
プリンターは元気なのにインクの供給を止めて、
新しいプリンターを買わすなんて酷すぎませんか。

尚、“プリンターのインクが無くなったから、交換せよ”という指令がモニターされたときには、そのインクカートリッジにスポイトで水を数滴注入してやる。
そうすれば、プリンターが再稼働することがあります。

 

 

御免!
心ならずもケチなことばかり書いて。
でも、でも、
「電球の供給を止めろ。省エネのためにLED化を促進せよ」という政府の見解が公になった。
冗談でしょ! とんでもない謀略だ。

わたしは、従来からの電球の灯りが好きだ。
この家のすべての照明スイッチには、
30年前からライトコントローラーが装備され、節電に心掛けてきた。

原発行政の大失態を照明の節電にかこつけて、我々を欺き騙す陰謀を企てるな。
家庭の照明をLED化するということは、
この家の照明器具をすべてゴミにしろという意味だ。

ふざけんじゃないよ! 
この家の居間の天井から吊り下がっている
レトロな60ワット3個の照明器具はどうなるんだ。
妻の書斎を照らしつづけてきた、
大理石の大きなランプシェドーを棄てろというのか。

 

 

KARTELL. カルテル。協定、企業連合。
同一業種間で利益を独占するためのカルテルは、独占禁止法で非合法化されている。
では、製品の意図的老朽化のカルテルはどうなんだろうか? 
ここに、Panasonic の“シリカ電球 100形 100ボルト”の電球がある。
このパッケージには、定格寿命1000時間と明記されている。
この意図的老朽化電球は、どうして独禁法に抵触しないのだろうか。
そして今、LED に関するカルテルが国策として謀議されていることだろう。

この家の台所には、10吋半(257㎜)のスキレットがある。
この鋳物のフライパンは独身時代に買った。
だから、40才以上だ。
最初はそうではなかった。
しかし今、このスキレットはこの家の家宝といえる。

40年間使いつづけたことで、
スキレットの底も壁も綺麗に磨かれて黒い鏡になっている。
で、このスキレットは焦げ付かない。
40年間のシーズニングが、このスキレットをスパーな高級品に仕立て上げたんだ。

 

 

スキレットの壁には、焦げ付きがかさぶた状にへばりつく。
この焦げ付きは、大腸ガン誘因物質といわれている。
アンコールの炉温を高温にして、その中に投げ込んでおけばこの焦げ付きは灰になってしまう。
ガスレンジの熱では、1時間熱しつづけても、この焦げ付きは灰にならない。

すべてがハイテク化され、意図的に老朽化された道具に囲まれた現代にあって、敢えてローテクな道具にこだわる消費者に祝福あれ。

なかんずく、薪ストーブの愛好家に栄光あれ。
本人がどこまでそのことを意図したかどうかは、本人にも定かではなかっただろう。
しかしながら、この時代に薪ストーブという超ローテクな道具に辿り着いた者達は賞賛されるべきだ。
何故なら、それはこういうことだからである。

 
CONSPIRACY. コンスピラシー。
共謀、陰謀。陰謀団、同時発生。
大量消費大量廃棄時代の経済構造は、
産業的コンスピラシーの坩堝として捉えることができる。

露骨な権謀術数が、限りある資源の枯渇化を早め、消費者の家計を圧迫する。
そして、格差社会を助長し、社会を不安なものにし、犯罪の温床を育む。
もの凄いゴミの山脈を築き上げていく。

 
コンスピラシー。
人知れず企てられる謀(はかりごと)のことを陰謀という。
我々の家計を危うくし、世界を不安定化するアフリマン的産業と
金融資本主義者の陰謀を打ち砕くための方策はがあるのだろうか?

 

 

「絶対にある!」と考えたい。
それは、我々消費者の“陰謀”だ。
陰謀には陰謀。共謀には共謀。スパイにはスパイ。

「自分たちだけが儲かれば、後は野となれ山となれと考えている
アフリマンたちが市場に送り込んでくる商品には、
意地でも一銭も支払わない」という、消費者の覚悟と勇気。
そして、同時発生的暗黙のコンスピラシー。

ウェブサイトで、情報を共有しようと思うな。
コンスピラシーは密かに企てられなければならない。
市民的抵抗。
誰にも気づかれずに、密かに、暗黙のうちに為されるコンスピラシー。
戦略は、市民、町民、村民の“暗黙的陰謀と共謀”。
戦術は、“短命で、すぐにゴミとなる商品は買わない“という我々消費者の感受性と成熟。

光明の神。鷲の翼持つアフラマズダーは、あなたの財布の中にいつも住んでいます。

 

Photoes & Illustration by Yoshio Tabuchi

 



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