田渕義雄・薪ストーブエッセイ きみがいなければ生きていけない

信州の山里に暮らす自然派作家がつむぐ薪ストーブをめぐる物語

フライフィッシングと薪ストーブ

コールドマウンテン

 

4月は菜園の拡張的整備に心を砕き、筋肉を泣かせた。
去年、「作物生産倍増5カ年計画」を家政的スローガンとして打ち上げたのだ。
この春は立木を10本倒した。
ずっとそのままにしておいた落葉松の太い切り株を取り除いた。
芝生の一部を剥がした。

それから、ガーデンシェッド(道具小屋)を修理補修し、立派な棚板を沢山設えた。
ガーデンツールスが整然と収納できるようになった。
その甲斐あって、庭の道具たちが自分の仕事をテキパキとこなしてくれるようになった。
何事につけインフラの整備は重要だ。
「上部構造は下部構造に規定される」からである。

 

コールドマウンテン

 

2年で菜園の圃場が20坪大きくなった。
畝巾1メートル×長さ15メートルの畝を作って、そこに馬鈴薯の種芋を40個植え付けた。
1個の種芋は10個にはなる。
夏の終わりには400個の大きな馬齢種が。
高冷地の馬鈴薯は美味しい。
ことに、我が庭の馬鈴薯はもの凄く美味しい!
この春、わたしは「5カ年計画」の70%を早くも達成した。

4月を献身的に庭仕事したので、5月は近所の川で毛鉤を振った。
わたしは手練れのフライロッダー(毛鉤釣り師)。
岩魚がわたしのフライに騙されつづけた。
で、6月も釣り暮らした。

レジャー(娯楽)は誰にでも必要だ。
清らかで冷たい流れに向かって毛鉤振る時、釣り人は全てを忘れる。
きみを忘れ、憂しとみし娑婆の喧噪と貯金通帳の数字を忘れて、
流れに向かってフライロッドと呼ばれるタクト(指揮棒)を一人振りつづけた。
愚かな時代のこの愚かな時間を止めてしまうために…。 

 

コールドマウンテン

 

そして7月、我に返った。「薪ができていない!」。
わかってたさ。今から慌てて薪作っても、もう秋までには乾かない。
でも、こういうこともあるんだ!
だから、すぐに焚くことができる出来合いの薪を2トン手配しておいた。
それから、若い薪焚き人に電話して事情を話した。
4人の薪焚き人がチェンソー持って駆けつけてくれた。
自分も含めて5人足による薪作りは凄い!
薪作りパーティーを兼ねた1泊2日の親睦会でもあったのだが、1年分の薪を作り積み上げるこ とができた。
わたしの薪作り的親衛隊でもある“コールドマウンテン・ボーイズ”に感謝!

人は歳を取ることを嘆く。
だが、歳を取ることは悪いことではない。
何故なら、年寄りの我が儘は大目に見てもらえるからである。
“コールドマウンテン・ボーイズ”の善意に支えられて薪の準備は整った。

老人には老人の仕事がある。
菜園の手入れに精を出しながら、わたしは夏の夕暮れを村内の川で釣り暮らすだろう。

 

コールドマウンテン

Photes by  Yoshio Tabuchi

 



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