田渕義雄・薪ストーブエッセイ きみがいなければ生きていけない

信州の山里に暮らす自然派作家がつむぐ薪ストーブをめぐる物語

Spring has come, love your-self

4月になると彼女はやって来る
川がよみがえり 雨で水かさを増すとき 

五月 彼女はずっといる
ぼくの腕の中でまたくつろぎながら
 

 
春になると口ずさみたくなる歌がある。
ポール・サイモンの April come She will です。
アート・ガーファンクルが歌うこのラブソングは素敵だ!
歌詞を紹介しましょう。

April, come she will
When streams are ripe and swelled with rain

May ,she will stay
Resting in my arms again

June, she will change her tune
in restless walks she ‘ll  prowl the night

July, she will fly
And give no warniing of her flight

August ,die she must
The autumn winds blow chilly and cold

September. I’ll remember
A love once new has now grown old

月々の語尾と、その行の最後の単語語尾が韻を踏んでる。
ソネット調の綺麗な詩だ。
でも、この詩の彼女の行動は変だ!  
実をいえば、この詩は春に咲く球根を歌ったものだ。
思うに、それは水仙である。

 

 

水仙の原産地は、地中海沿岸。
そのファミリーネーム(属名)は narcisssus (ナルシス)。
ナルシッサスはギリシャ神話中の美青年。
エコー(木霊のニンフ)を失恋させた後、泉の水に映る自分の姿に恋をして水仙になってしまった……。

ちなみに、April はラテン語のaprilis から。
“花開く月”という意味。
4月になるとやって来る水仙の花をラブソングに仕立ててみせたポール・サイモンは詩人だ。

まだ緑少ない庭に、水仙の綺麗な黄色い花が咲いた。
水仙の球根は、三年毎に秋に掘り出す。
株分けしてから霜が降る前に植え替える。
そうしてやれば、水仙はどんどんその数を増やしていく。

 

 

そして、April come she will.
ムスカリも瑠璃色の花房を立ち上げている。
ムスカリの英語名はワイルドヒヤシンス。
 
ああ、いいな。せいせいするな。春なんだな。
成虫で越冬したスジボソヤマキチョウも飛び回っている。
ヒマラヤン・プリムラのピンクの花穂に、ビロードツリアブが来ている。

カラマツが芽吹き始めた。
まだ冬枯れている谷を渡って……
淡いエメラルドの靄が山々の山腹に棚引いていく……。
今朝、ネクタリンの花が咲き始めた。

シジュウカラが、木立の林床から苔をくわえてきては巣箱に運んでいる。
二人で、愛の巣を築いているんだ。
夜は、苔のベットで二人仲良く眠っているんだろうな。可愛いな。

 

 

みなさん、恋をしましょう。
春は再生の季節。
森や野原の女神も髪を梳っている。
わたしは、木花咲耶姫に恋心。

Come visit to my garden as soon as you can. Let us be  lovers.
寒い山の我が庭では、 梅とリンゴとサクランボの花はまだです。
でも、She will soon.
 
みなさん! 自分は自分のものです。
誰かに恋をするということは、自分に自分で恋をすることでもあります。
「朝日に輝くきみは、なんて綺麗なんだろう!」。
水仙の花にそう話しかけるとき、きみは自分を自分で祝福しているんだ。

Spring has come , love your-self.

 

 

Photoes by Yoshio Tabuchi

隔月連載。次回の更新は6月下旬です。

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