田渕義雄・薪ストーブエッセイ きみがいなければ生きていけない

信州の山里に暮らす自然派作家がつむぐ薪ストーブをめぐる物語

またの春を待ちながら

みなさん! 如何お過ごしですか?
関東甲信の山家にお暮らしの方々におきましては、
この度の大雪には難渋なさったこととお察し致します。

海洋性の南岸低気圧が豪雪をもたらした。
我が山家においては1メートルを優に超す降雪に。
スノーシューを履いて村道まで出てみようと試みるも、
50メートル進むのに30分かかる有様。

わたし諦めました。
勝手口のベランダから庭の薪小屋まで橇道を作りました。
スノーシュー履いて橇で薪を運びました。

 

 

隣人が重機で農道を除雪しくれたのは5日目の朝。
車は完全に雪国の“かまくら”状態。
で、わたしの右腕は腱鞘炎状態に。
娑婆との接触は一週間途絶えた。
これは、メタフィジカルなそれではなくて、物理的な孤立だ。 

雪の少ない中部高地の高冷地にしてみれば、120年に一度の大雪だった。
豪雪、雪崩、地滑り、地震、津波、暴風、雷、洪水、干魃、火山の噴火、交通災害、それから原発の炉心メルトダウン……等々。
つまり、100年に一度の災害や不幸は、
誰の人生にも数百%かそれ以上の確率で起こりうると言うことです。

 

 

慣れない除雪騒動で疲れた。
でも、なんだか笑えた。
ゴアテックスのレインスーツ、スノーシュー、
クロスカントリー・スキー、橇、それからピッケル等々。
遊び道具が次々と動員されて、
雪山でアウトドアアクティビティーに興じているみたいだった。

この度の大雪騒動で再認識したこと!
それは、食料の十分な備蓄と薪小屋の大切さだった。
みなさん、“買い食い”は慎むべきです。
山深く住み侍りければ、
この家の冬のパントリー(食料貯蔵室)には数ヶ月分の食べ物がある。
米は、秋までのそれが玄米で備蓄してある。
菜園の馬鈴薯も南瓜もまだまだある。
パントリーのキャビネットには、ホームメイドの瓶詰めが沢山。

みなさん、自給自足的田園生活は“伊達”じゃないんです。
シンプルリビングは、貧困とは無縁だ。
“生活の根本原理”を追求することは格好いいことなんです。

 

 

A making of  radical. 
自分がどう生きるかということの原理を構築しよう。
ラジカルといえば、とかく“過激”と捉えられるが、
本来の意味にネガティブなそれはない。

自分はradical students (過激派学生)の一員だったことがあるから言うのだが、
後になってそれを恥じたり後悔している者はいない。
立派な企業を立ち上げて成功している者に、
元過激派学生が少なくないことを報告しておく。
ただし、国家官僚にそこからの転身者は少ない。
排除されたからである。
で、残念ながらロマンチックな官僚は過少だ。
南無阿弥陀仏。アーメン。

 

 

薪小屋(ウッドシェッド)は、ラジカルな建造物としてある。
それは、自給自足的エネルギーの備蓄基地である。
この度の大雪で、野積みの薪山は1メートルの積雪に埋まった。

我が薪小屋を祝福せよ!
このラスティック(素朴)な建物はクールだ。
ウッドシェッドは格好いい!

この家のこの庭に建つウッドシェッドは、タブチの自慢だ。
デザインがいい。
小屋の棟木が南側にせり出ている屋根の形状が機能的だ。
このような屋根をもつ建物を、“ソルトボックス”という。
昔、塩を入れておいた木箱の形に由来している。
南側の屋根が小さい。で、日当たりがいい。
また、雪解け水や雨水の水量が南側では少ない。

 

 

屋根の素材は、クラシカルで贅沢なレッドウッドのウッドシェイク。
小屋の北側の屋根は、下屋のそれへとつづいている。
下屋は、芝刈り機や柴刈り機の収納スペースになっている。

この薪小屋は、タブチが作った物の最高傑作といえる。
ソルトボックスの家や小屋は、高緯度地方や高冷地では、
今も昔もスタンダードな形である。
自分のアパレルも人生も、家も小屋も、スタンダードなものでありたい。
スタンダードが一番格好いい。
なぜなら、永い年月を経てスタンダードのものとして定着したからである。
今を時めくファッションデザイナーとアーキテクチャーを、みんなで笑ってしまおう!

 

 

いつにない深い雪に閉じ込められてみれば、春が待ち遠しい。
今はそこに立つこともできない庭だが、
水仙やチューリップの球根は雪の下でもう目覚めている。
それから、去年の秋に実生でこぼれたレタスの種も。

雪は、真っ白で分厚い布団だ。
ブルーベリーもハスカップも雪布団にくるまってぐっすりと眠っている。
わたしは知ってるんだ。
台所の前の白樺の木に掛けられた巣箱で、ヤマネが冬眠していることを。
去年の春にシジュウカラが子育てした苔のベッドにもぐり込んで、
ヤマネは春を夢見ながら眠っている。
 
早く庭に立ちたい。
マウンテンリサーチのガーデンジャケット着て、早く庭仕事がしたい。
人の欲望には限りがないが、春を待つ欲望ほど健全なものはない。
春への憧れ。
つまりそれは、好きでやってる山暮らしの夢のつづき。

 

 

赤いアンコールのストーブトップで、今夜も湯たんぽの湯がたぎっている。
薪ストーブはロマンチックな道具だが、それは同時にラジカルな物でもある。
ロマンチックであれ!
だが、同時にラジカルであれ!
それが、薪ストーブの教えだ。

幸福とは……
春を待ちながら、湯たんぽの利いた温かい寝床でぐっすりと眠ることである。

 

Photoes by Yoshio Tabuchi
 

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隔月連載。次回の更新は4月下旬です。

     



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