田渕義雄・薪ストーブエッセイ きみがいなければ生きていけない

信州の山里に暮らす自然派作家がつむぐ薪ストーブをめぐる物語

薪小屋の薪と国家財政

紅葉は 過ぎた夏の発火
まだ咲き残っているルドベキアの花は
誰かさんの恋の名残?
愛という漢字は去っていく愛しい人の後ろ姿

 

 

庭に薪小屋の屋根に家の屋根に
ミズナラのドングリが降る
なんとはなしに それを拾って
木皿に置いてみた

 

 

青いドングリは 夏の置き土産
カケスと栗鼠が喜んでいる

春から夏を庭仕事に精を出した者なら
わかってくれるだろう
この季節の豊かなノスタルジアを……

 

 

だが、わたしはたちまち現実に引き戻される。
鹿鳴く夕暮れがもう凍りはじめている。
冬の準備を急がなければならない。
乾いた薪が足りない。
去年の冬に野積みした薪があるにしても、薪小屋のそれが空のままだ。

とはいえ、この夏わたしは遊び暮らしていたわけではない。
結構忙しく仕事をしていたんだ。
で、薪作りが後手に回った。
春には届くはずの丸太が来なかったせいもある。

薪作りが遅れていることの言い訳はどうとでも立つ。
だが、庭の駐車場に野積みした薪山は春までもたない。
丸太の搬入を催促しなければならない。
薪作りのサポート隊を、すぐに結成しなければならない。
足許でふらふらしている一万円札を追いかけている場合ではなくなった。

 

 

 

庭に立てば、空のままの薪小屋が嫌でも目に入る。
それは、どこかの国の財政をおもわせて憂鬱。
国庫の備蓄は人の目には見えないが、薪小屋のそれは一目瞭然。
国や地方自治体の財政は、薪小屋の如く可視的であらねばならない。
  国の借金見えないけれども
  見えない物でもあるんだよ

薪小屋には薪がぎっしり積み込まれていなければならない。
国の金庫には金の延べ棒が所狭しと積み込まれていなければならない。

 

私たちの社会は今、分岐点に立たされている。
森の中で、道が二つに分かれている。
ひとつは踏みならされたそれで、今までの道のつづきだ。
もう一つの道は、古い昔の杣路のよう。
茨が茂っているが、この道の向こうにこそ、美しい草原の輝きがあるんだ。

荒野に踏みいる勇気持て。
森の杣路を突き進む元気持て。
道に迷うこともあるだろう。
でも、疲れたら枯れ枝を集めて焚き火を起こそう。
心と体を暖めよう。そして、みんなで考えるんだ。

 

 

古代エジプトのファラオは、次々とピラミッドを築いた。
ピラミッドの建設はブームとしてあった。
歴史家は、誰がそれを築いたかを研究している。
しかし私にしてみれば、誰があんなものを造らなかったということに興味がある。
何故なら、ピラミッドを造りつづけたことで、古代エジプト文明は滅亡したからである。

20世紀後半の日本人は、原発を造りつづけた。
それは、ピラミッドがそうであったようにブームとしてあった。
原発が何であるのかを考える暇もなしに、我も我もとばかりに原発を造りつづけた。
で、あっという間にこの列島の海辺は原発だらけになった。
そして、数万年経っても無害化しない使用済み核燃料が20万トン、我々の国土に残された。
フクシマの大惨事は、そういうことの延長線上で起こるべくして起こった。

その解釈がどうであれ、ピラミッドはその後エジプト観光の役には立っている。
では、今から五千年後に、廃炉になった原発は観光の役に立つのだろうか?

 原発を推進してきた者達は古代エジプトのファラオ達よりも愚かだ。

 

 

わたしは、この杣路を歩きつづける。
木々を敬い、路傍に咲く草花に話しかけて、薪エネルギーを信じて、この道を行く。

木々や草々の種は、いつだって播かれている。
そうとは思えないかもしれないが、それは驚くべき密度で播かれつづけている。
翼もつ種は風に乗って……。
丸いドングリはころころと転がって……。
種は播かれつづけている。
わたしたちの新しい文明や文化や幸福の種もまた、絶え間なく播かれつづけている。
季節が巡り新しい春が来れば、それらの種は発芽し、すくすくと育っていくだろう。

 
月が移り星が巡って、この10月で、寒い山に引っ越してきて満30年になりました。
だからといって、どうということもないのだが、薪ストーブを焚いて寒山の冬を30回、つつがなく数えたことを報告しておきます。

 
Good News !
みんなで作った「Viva! 薪ストーブクッキング」(GOOD LIFE PRESS刊)が、増刷されました。Viva!

 

 

秋です!
ストーブの灰受け皿で焼き芋を楽しみましょう。
薩摩芋でも馬鈴薯でも里芋でも、焦げずに美味しく焼き上がります。
その秘訣は、グレート(火床)と灰受け皿の灰を除去してから、灰受け皿に芋を置くことです。

 焼き芋食べて、おならして、みんなで笑いましょう。秋です。

 

Photoes by Yoshio Tabuchi

 

 

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