田渕義雄・薪ストーブエッセイ きみがいなければ生きていけない

信州の山里に暮らす自然派作家がつむぐ薪ストーブをめぐる物語

ViVaアンコール!きみは素晴らしい。きみと一緒なら寒山の冬も暖かい


 

1月。過ぎた年を回顧し、やがて巡る新しい1年に思いを巡らせる月。
January はJanus (ジェイナス=ヤヌス)から名付けられた。
ヤヌスは一つの頭に髭の生えた二つの顔が背中合わせになって、それぞれ反対の方向を向いている古代ローマの双面神。
新年おめでとう。
我が家のアンコールとイントレピッド、今年もよろしく。

我が寒山は、中部高地に位置する日本で一番標高の高い山里。
ここの冬は、雪は多くなくて、乾いて凍った風が吹く高地砂漠のよう。
それでも年が明ければ、雪に閉ざされる。乾いた雪が凍った風に舞う。
雪原からブリザード(地吹雪)が吹きつけてくる。
ブリザードには通り道がある。
そこは、まるでスノーガンが雪を吐き出しているよう。
その一つの道が、庭の入り口を通っている。

朝、そこの雪を掻いても、午後にはまた雪が吹き溜まる。
では、どうすればいいか? 
答え。そんな時には、除雪を諦めて雪に閉ざされてしまうことだ。
村道までの道も、すぐに雪に閉ざされるだろう。でも、べつにー。
車を村道まで移動しておいた。
郵便局と宅配便のオフィスに電話して、その車の座席に配達しておいてくれればいいと伝えた。

雪に閉ざせれる冬も素敵だ。
ここは今、雪深いバーモントのグリーンマウンテンのよう…。
居ながらにして我々は今、冬のアウトドア・アクティビティーを毎日楽しむことができる。
不便さと引き替えに我々は今、誰にも煩わされない自由を謳歌している!

「そうは言っても、やっぱり不便でしょっ…」人はそう思っている。
しかし、「全然!」と本人たちは考えている。
バーモントメイドの素敵なスノーシューがある。
スレッド(橇)はメインメイドだもんね。
このくらいの雪は平気さ。望むところだよ。
安く暮らそうとか、リゾート的に暮らそうとか思って、ここに来たわけではない。
この寒い山でなら、四季を通じて好きなアウトドアライフの機会に恵まれるだろうと思ったからここに移動してきた。

 

 

スノーシューを履いて、スレッドに薪を積んで運ぶ。
庭の薪小屋から勝手口までは50メートル余り。
それを何回か繰り返せば、スレッドが滑り始める。
一輪車で運ぶよりも楽に薪を運ぶことができる。
そして、楽しい。
「これだ! これがやりたくてここに来たのだ」とわたしは思う。
そうだ。ここに来たもうひとつの理由、それはこの寒い山でなら、薪ストーブを思いっ切り焚くことができるだろうと考えたからだ。

冬を数えて、人はまた一つ年を重ねていく。
わたしは薪ストーブを焚きながら、この森の片隅で25回目の冬を数えている。
そして、 こう思う。
「人生は思っていたよりも長くて、どんな人生も容易くはない」と。
人生は勝ち負けの競争ではない。
自分らしく、よりよく生きることが大切なのだ。

アンコールとイントレピッドに出会えてよかった。
きみたちがいてくれれば、どんな冬も寂しくはない。
毎年の薪作りは重労働だが、御陰で運動不足も退屈もない。
時代は目まぐるしく変化しつづけていく。
そんな厄介な時代の波に翻弄され易い人生だが、冬の海で波乗りを楽しむサーファーのように、わたしはこの寒い山の冬と戯れている。

Balance is everything.
サーフィンもクライミングも人生もこの宇宙も、バランスが全てだ。
時代がハイテクなものになっていけばいくほど、その意味と輝きを増していくカウンターバランス(均衡勢力)。
それが薪ストーブなのだと信じている。

 

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