祈りとしての薪ストーブ
「薪ストーブと出会うことがなかったら、どんな人生を生きたんだろうか……?」。そう思うことがある。
そういうことはなかったんだから、そんなことを思うことには何の意味もない。
出会いは、いつだって運命的だ。
では、「どうしてこんなに深く薪ストーブが好きになったんだろうか?」
という質問には意味があるだろうか……。
薪ストーブがある暮らし……。薪ストーブと共にある暮らし……。
薪ストーブへのわたしの想いは、それ以上だ。
齢を重ねる毎に益々そう感じる。
そして、こう考えることがある。
「薪ストーブへのこの想いは、もしかしたら信仰だったんじゃないだろうか?」と。
信仰とは、特定の対象を絶対的なものと信じて疑わないことだ。
もしもそうなら、薪ストーブへのわたしの思いは信仰そのものに違いない。
では、この信仰心はどこから湧いてくるんだろうか?
それは、樹木への信仰からに違いない。
薪ストーブは、四十年以上連れ添ってきた古女房のようだ。
薪ストーブは、気が置けない旧友のようだ。
薪ストーブは、生きるためのビジョンだ。
茫洋としてあてど無い夢を暮らしていたひとりの男に、指し示されたビジョン。
それが、薪ストーブだった。
薪ストーブには、御天道様の有り難さがある。
薪ストーブには、娑婆の疲れをときほぐしてくれる暖かさがある。
薪ストーブの美徳は、おしなべて樹木からくる。
薪を作った。
総勢8人で一泊二日の“薪作り大会”。
勤労感謝の日は、あいにく全国的な雨模様。
でも、我が寒山は夕暮れ近くになっての雨だった。
翌日は、みんなの思いが通じて快晴。
雪を抱いた山脈から渡ってくる風は冷たいが、
古典的な肉体労働をなす者達には微風と取れた。
材木は、目方ではなく容積で取引される。
6トントラック山積みで大体10リューべ。
1立方メートルの容積にして、それが10杯ということだ。
“雑木の混じり”で、1リューベ¥8,000位。
太いミズナラだけの高級品なら¥10,000超。
この度の丸太はアカシアが主体の混じり。
で、¥70,000というコストだった。
チップをはずんでキャッシュ&デリバリー。
有り難う、“川上林友会”の淳さん。来シーズンもよろしく。
アカシアは、直径1尺ほどの立派な丸太だ。
イタヤカエデ。山桜。ズミ。白樺。
そして、ミズナラといったところかな。この度の丸太は。
ここは、冷温帯落葉闊葉樹林帯。目の前の山々は亜高山針葉樹林帯だ。
アカシアは、優良な薪材。質量に優れ、熱カロリーも楢材に匹敵する。
アカシア、ニセアカシア、和名;針槐(ハリエンジュ)。
マメ科の落葉高木。北アメリカ原産。街路樹と養蜂の蜜源として輸入された帰化植物。
アカシアは、河川敷や水位の高い土地を好んで繁殖する。
アカシアの成長は速い。
伐採されても、地中に残った根から新芽をふいて世代を更新していく。
荒れ地を好んで繁茂するアカシアは、最も有望な薪材としてあるように思う。
薪材としてのアカシアをどう管理造林していくかが、
我ら薪ストーブ愛好産業にとって、早晩議論されるようになるだろう。
その時には、養蜂家も議論の輪に加わってもらいましょう。
美味しい紅茶をいただきながら、アカシアの蜂蜜をなめながら、
我々は、薪エネルギーの未来を語り合いましょう。
薪ストーブへの信仰は、樹木への信仰に由来する。
で、わたしは仏教やキリスト教よりも“神道”に心動く。
神道の教義は、仏教伝来に抗して作られたものだろう。
神道は、この列島に普遍的だった自然信仰的アニミズムとして、その根を持つ。
古来から今に至るまで、我々は豊かな森林列島に暮らす“樹木民”としてある。
この国の仏教は、奈良時代に導入された国家仏教として捉えることができる。
仏教伝来とその布教に伴って、様々な歴史の影があっただろう。
それと同じようにして、神道にも暗く悲しい影が、近年になって宿った。
それは、“国家神道”の台頭としたあった。
戦争は、信仰と信仰、意地と意地の衝突としてある。
この度の太平洋戦争に我々を駆り立てた信仰があるなら、それは“国家神道”だった。
神道の教義は曖昧だ。
それは、茫洋としてつかみ所がない。
神道は、まだ宗教に成りきっていない。
しかし、そうであるが故に、神道は宗教を超えているとも言える。
神道は、エコロジカリーな哲学をより深化していくポジティブな宗教として進化していくことを望む。
宗教って何なんだろう?
信仰と宗教はどう同じでどう違うんだろうか?
アジアの民の一員だからだろうか?
偶像崇拝のある宗教や信仰には馴染めない。
わたしは、八百万の神に有り難うを……。
信仰は祈りとしてある。
だったら、わたしの薪ストーブへの信仰は祈りだ。
それは、祖国の山河や海や、そしてこの列島の林野と共に
美しいハーモニーを奏でながら暮らしていこうと願う者達に送る、
エールとしての祈りだ。
この家の薪作りをサポートしてくれる“コールドマウンテン・ボーイ”に、
心からの謝意を!
みんなは、わたしの宝です。
みんなの友情が、わたしの祈りの証なんです。
来年も、宜しくお願いいたします。
Photoes by Yoshio Tabuchi