田渕義雄・薪ストーブエッセイ きみがいなければ生きていけない

信州の山里に暮らす自然派作家がつむぐ薪ストーブをめぐる物語

長生きの秘訣

冬至は過ぎた。太陽の再生を祝おう。春がはじまった。

クリスマスは、イエス・キリストの誕生日ではない。
彼がいつ生まれたのかはわかっていない。
クリスマスはキリストの生誕を祝う日だ。
その日がどうして12月25日なのか?
それは、多くの民族の間で行われていた冬至の祭りに由来している。
太陽の再生を祝う冬至祭に、キリストの聖誕祭を融合させたんだ。
キリスト教が、アミニスティックな年中行事をパクッタ。

高緯度地方では、夏至と冬至の祭りは今でも大切な行事だ。
ヒンズー教がそうであるように、
アミニズムのそれを融合させながらキリスト教のさまざまな祭日がある。
神道はもとより、仏教のそれもまたそうである。
そうであれば我々は、柚湯に浸かって、カボチャを食べて、メリー・クリスマス。
それで、いいのだ!

 

 

標高1400メートル以上、日本一標高の高い山里の冬は寒く長い。
当然じゃないか!
この十二月は、すでに氷点下17度を記録した。
冬の初めの出し抜けに、この気温は、さすがにおおー、さむー。

December.  深くて暗い12月。
December はラテン語で10番目という意味。
古代ローマでは3月を一年で最初の月、新春とした。
で、12月がDecember になった。

そうであれば、冬はあと二ヶ月。
ローマは北緯41度に位置する都市。
日本では、青森県津軽半島の真ん中あたり。
津軽のみなさん、あと2ヶ月で春ですよ。

 

 

そうなんです!
実をいえば、一年で一番薪を消費する月は12月なんです。
村のみんなも同じ意見だ。
雪深くなるのは1月2月だし、
この山里の最低気温である氷点下20以下を記録するのもこれからだ。
しかし、年が明ければ薪の消費量は日毎に少なくなっていくだろう。

思うに、その理由はこうだ。
12月にはまだ、冬への支度と心構えができていないことがあげられる。
それから12月は、夕暮れが早く、日差しも低いことだ。
我々は、日没が一番早い日は冬至だと思っている。
しかし、実際は冬至よりも、その直前の日々の方が日没は早い。
12月は、深くて暗い月だ。

 

 

冬越しの薪の備えは完璧だ!  というよりは、
それが完璧でなかった年の瀬なんか、この三十数年間一度もなかった。
わたしは、東京の下町のガソリン屋の三男として育った。
この子供は、石油とガソリンの臭いが嫌いだった。
だからこの子は大人になって、薪ストーブを焚くためにこの寒い山に来た。

TIME TO KEEP.
恒例の寒山薪作り祭は11月の第三週末に行われた。
総勢10人余りの年中行事だが、もう十年以上つづいている。
そして、これからもTIME TO KEEP。
みなさん本当に有り難う。
来年も楽しみにしています。

 

 

1年分の薪用の丸太のコストは10万円。
薪作り祭の経費も10万円。
我が家の薪エネルギーの年間コストは20万円。
安い高いで薪ストーブを焚いているわけではない。
しかし、断言することができる。
薪エネルギーのコストは、
電力や化石エネルギーのコストよりも断然リーズナブルだと。

薪エネルギーは、手作りの高貴なエネルギーである。
それと化石エネルギーのコストを比較すること自体が、
もともとナンセンスなのだが、人はとかく安い高いで言ったほうが納得がいく。
我思うに、本当のことを言えば、
全てのエネルギーのコストは同価なのではなかろうか。
エネルギーの利便性が、そのコストを決定する。
電力は化石燃料よりも利便性に優れている。
で、エネルギー換算するに電気代よりもガス代の方が安く、
ガスよりも灯油代の方が安い。
同じ理由で、灯油は薪よりも高価だ。
思うに、この家と木工場の暖房を全て灯油で賄うとすれば、
その年間コストは100万円に及ぶだろう。

 

 

薪エネルギーが灯油よりもそのコストがリーズナブルなのは、
薪焚き人の労働コストが差し引かれているためだ。
また、薪作りと、薪エネルギーの管理と運搬。
そのためのコストと道具のメンテナンス等々。
この寒い山で薪を焚きつづけるための設備投資には
総額100万円以上かかるだろう。
その内訳はこうだ。

大小最低2台のチエンソー。
数丁の斧。樵仕事のためのコスプレ代。
エンジン式の薪割り。薪小屋の建築代。
それから、中古の軽トラック。等々。
総額で言えば大金になるが、
実際は必要に応じて為していけばいい設備投資だから、さほどの負担ではない。
専門店に出向いていって、気に入った道具に1万円札を投資するのは、
道具好きの楽しみでもある。

 

 

それから、一番大切なこと。
それは、“エネルギーの利便性と健康は二律背反する”ということである。
薪エネルギーの暖房ほど体に優しい温かさはない。
また、薪作りほど健康にいい肉体労働はない。
薪焚き人は、おしなべて長寿である。絶対にそうだ。
薪は、何度も何度も人の心身をあたためてくれる。

我が山里の人口は170人。
その内、70歳以上の高齢者が50人。全員が元気。
長野県下でも、一番の健康長寿集落だ。
ほとんどの人が薪ストーブを焚いている。

長生きの秘訣。
それは、寒い山に住んで、薪ストーブを焚きつづけること。
そして、なにがあっても息を止めないことだ。

 

 
Photoes by Yoshio Tabuchi

隔月連載。次回の更新は2018年2月下旬です。

 



このWebマガジンはファイヤーサイドが提供しています。

  • ページの先頭へ

薪ストーブエッセイ・森からの便り 新着案内