シェルパ斉藤の八ヶ岳スタイル

八ヶ岳の手づくりログハウスを舞台におくる火にまつわる旅人的カントリーライフ

助っ人スズメバチバスターズ

スズメバチに刺された経験がある。
最初の愛犬、ゴールデン・レトリーバーのニホが病死する3日前のことだった。
衰弱して歩みが遅いニホに合わせていつもの道をゆっくり歩いていたら、突然右肩の後ろにガツンと衝撃が走った。
誰だ、石を投げつけてきたのは!
その場にしゃがみこんで振り向いたが、誰もいない。
周囲を見回して状況が理解できた。

スズメバチが頭上を飛び回っている。
僕は姿勢を低くした状態で足腰が弱ったニホを引っぱり、どうにか家に帰った。
妻にリムーバーで毒素を吸ってもらい、水で洗い流してすぐに病院へ出かけたおかげで事なきを得たが、スズメバチに刺されるとハンマーで叩かれたような打撲の痛みもあることを知った。

刺された散歩道は小学校の通学路でもある。
教職員が調査したら茂みに大きなスズメバチの巣があり、専門業者によって巣を撤去して一件落着となったが(3日後にニホが亡くなったため、情報が錯乱して近所の住民はニホはスズメバチに刺されて死んだと思ったようだ)、それ以降はスズメバチが巣をつくる前に駆除するようにつとめている。
駆除のツールとして愛用しているのは、ホームセンターで売られているトラップ型の捕獲器だ。

誘引液でスズメバチをおびき寄せ、容器に入ったら出られなくなる仕組みだ。
スズメバチが活発に動き出す春から秋にかけて、家の周囲の樹木に捕獲器をいくつか吊るしているが、付属の誘引液ではなく、自分で酒をブレンドしたオリジナル誘引液を使っている。
人間と同じく、スズメバチも酒の誘惑には勝てないのか、酒を使ったほうが効果が高いのである。

作り方は日本酒ベースの場合は日本酒8、酢2でブレンドしてスプーン2杯の砂糖を加えて混ぜる。
ワインベースの場合はワインに手作りジャムと砂糖と酢を適量入れてブレンドする。
日本酒とワインを使い分ける意味はない。
友人がうちに来たときに飲んだ酒の飲み残しによって、どちらを使うかが決まるのだ。
ただし、焼酎やウイスキーは使わない。
蒸留酒だと効果がなく、醸造酒でないとスズメバチは誘引されないのである。

捕獲器に入ったスズメバチはやがて力尽きて誘引酒で溺死するが、中から脱け出そうともがき続けるスズメバチを見るのは気分がいいものではない。

特製の誘引酒を使った捕獲器の威力は抜群で、たくさんのスズメバチを定期的に捕獲できるのだが、思わぬ事態が起きた。
家から少し離れた場所、カフェの駐車場として借りている土地の電柱にスズメバチが巣を作っていたのである。

カフェに来たお客さんが襲われる可能性もある。
早く除去しなくては、と自分の手で駆除作業に乗り出そうとしたところ、タイミングよくHリーが現れた。
笹ハウスの回で紹介したが、茅葺き職人のHリーは焚き火さえあれば満足できる自由人で、サバイバル術にも長けている。
事情を説明すると「手伝いますよ」とHリーが助っ人を買って出てくれた。

さらに人が人を呼ぶとでもいおうか、あるいは飛んで火に入る夏の虫とでもいおうか、何軒もの山小屋を渡り歩いた筋金入りの山オンナ、花ちゃんもふらりと現れた。
がっしりとした花ちゃんだけど、このときばかりは女神に思えた。
「花ちゃん。お願いがあるんだけど、僕のかわりに働いてくれない?」と声をかけると、明るいポジティブシンキングの花ちゃんは「私がやります」と名乗り出てくれた。
Hリーと花ちゃん。最強のふたり、といいたくなるコンビである。

ふたりに作戦を話したあと、僕が以前スズメバチの巣を駆除したときの装備を花ちゃんに着せた。
冬用のオートバイのウエアやグローブを装着し、ヘルメットの上から虫除けネットも被った完全防備のスタイルである。

スズメバチに刺される心配はないが、暑さも半端ない。
「花ちゃん、ごめんね。僕はスズメバチに刺されているからさ」と、アナフィラキシーの恐れを理由に挙げたが、サウナのような暑さを体験したくないからである。
でも人を疑わない花ちゃんは「大丈夫です。斉藤さんは遠くで見ててください」と殊勝な言葉を口にした。
またしても花ちゃんが女神に思えた。

花ちゃんがスズメバチの巣に駆除用の煙幕を突っ込み、煙でスズメバチを追い払ったらHリーが鎌で巣を切り落とし、殺虫剤をかけてビニール袋に閉じ込める、という作戦だ。
電柱にできた巣までの高さは5m以上あるので、隣の竹やぶから切り出した2本の竹竿に煙幕と鎌をくくりつけた。
さあ、準備完了。
防護服に身を包んだ花ちゃんの煙幕を点火して、作戦決行となった。

煙幕を突っ込むとスズメバチは一斉に飛び出て巣のまわりをブンブンと飛びはじめた。
巣の下に立つ花ちゃんに攻撃してくるスズメバチもいる。
防護しているから刺されないとはいえ、針を突き出して体当たりしてくるスズメバチはかなり不気味だ。
僕もかつて経験しているが、スズメバチがヘルメットのシールドにあたるカツン、カツンという音が恐怖心をあおる。

健気な花ちゃんはその場を動かずに煙幕で巣を燻し続けた。
30秒ほどで燃え尽きたのですぐに2本目を装着して再度突入。
すると花ちゃんが声を張り上げた。
「燃えてます! 燃えてます!」
 煙幕の炎が巣に移って燃え出したのである。
「いや、いいよ、いいよ。このほうがいい。このまま燃やしちゃおう」

家の軒下に作った巣だとやばいけど、電柱の巣なら火事の心配もない。
僕とHリーは急いで別の竹を用意し、先端に茅の束をくくりつけて松明をつくった。
そしてそこに火をつけて花ちゃんに渡し、巣を炙らせた。

スズメバチの巣から炎が上がる。
ハニカム構造で空気の通りがいいのか、蜂の巣はこんなに燃えやすいんだと感心して、炎上する巣を眺めた。
数多くの焚き火を経験してきたが、頭上5mの高さで燃える焚き火は初めてかもしれない。

火が落ち着いたところでHリーが鎌で巣を切り落とした。
念のため殺虫剤をふりかけたが、燃え尽きた巣に近寄るスズメバチはあまりいない。
写真を撮ったあと、蜂の子が詰まった巣をビニール袋に入れて完了。
汗だくの花ちゃんにシャワーを浴びてもらい、冷えたビールで乾杯した。

お疲れさん、花ちゃんとHリー。
これからは庭に設置する捕獲器の範囲を広めなくっちゃね。

Photo:斉藤政喜
Illustration:きつつき華

*隔月連載。次回の更新は2020年9月下旬です。

 



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