シェルパ斉藤の八ヶ岳スタイル

八ヶ岳の手づくりログハウスを舞台におくる火にまつわる旅人的カントリーライフ

ステイホームの日々に

外出自粛要請に応じて外出を控え、ステイホームの日々を過ごしている。
過密な都会で暮らす人々にはもうしわけないけど、わが八ヶ岳生活はひきこもり状態でもストレスや息苦しさを感じない。
3密とは無縁の世界だし、原稿のやりとりもメールやオンラインで済ませられるから、これまでどおりの田舎暮らしを継続していられる。

4月から5月にかけては冬に燃やした薪を補填するシーズンだが、今年もクヌギやコナラなどの良質の樹木を手に入れることができた。
カフェ『チームシェルパ』の常連客だったTさんが自宅をセルフビルドするために近所の土地を買い、敷地の大きな樹木を何本も伐採したものだから、そのおこぼれを譲ってもらえたのである。

近場だから運搬も楽だ。
軽トラに積んで運び、チェーンソーで玉切り、愛用のグレンスフォシュの斧を振り下ろして樹木を割る。
四半世紀近く体験してきたけど、割れる瞬間はスカッとするし、余計なことを考えずに無心になれるのがいい。
目に見えないウイルスに世界中が振り回されているときだから、がんばった成果が形となって現れる薪割りが、いつもの年よりも愛おしく感じられる。

面倒な節があったり、あまりに太くて手に負えない樹木はパワフルな27トンの薪割り機を所有しているNくんの家まで運び、まとめて割ることにした。
薪割り機は樹木を引き裂くように割るから積み上がった薪がエレガントではないけれど、おかげで今年も今シーズンに燃やしたぶん以上の薪ができあがった。

うちには薪のストックがたっぷりあるから、この薪の出番はおそらく3年先になるだろう。
そのときは「3年前は新型コロナウイルスで世の中が大変なことになっていたなあ」と思い出に浸り、薪ストーブのありがたみを実感することになるはずだ。

午前中は庭で薪割りや草刈りなどの肉体労働で汗を流し、午後は仕事場にこもって原稿を書き、原稿に行き詰まると庭で犬と遊んだり、散歩に出かけたり、自転車やオートバイを走らせて気分転換をはかる。

そして夜はファイヤープレイスで焚き火をしたり、リビングに設置した120インチの大型スクリーンとプロジェクターで、アマゾンプライムやWOWOWの映画を観る。
ステイホームの生活を満喫しているぞ、憎っくきコロナなんかに負けてないぞ、と胸を張っていえるが、ひとつだけ不満なことがあった。

じつはサウナが好きなのだ。
サウナーといえるほどの愛好家ではないが、週に1度は町の温泉施設に出かけてサウナを楽しんでいる。
サウナで汗をかくことよりも、水風呂に入って、そのあとボーッと過ごす時間が好きで(その時間をサウナーは「ととのう」というらしいが)、サウナ→水風呂→休憩のサイクルをいつも3回繰り返す。
温泉施設には妻と出かけているが、僕がサウナにたっぷり時間を費やすものだから、あの『神田川』の歌詞のようにいつも妻は待たされる身になったりする。

しかし新型コロナウイルスの感染拡大の影響で市内の温泉施設はすべて閉鎖されてしまった。
緊急事態宣言が解除されて温泉が再開しても、密閉、密集の空間であるサウナは利用できないだろう、当分の間、サウナは無理だなとあきらめていたが、いいアイデアが浮かんだ。
うちの庭には大きなワイン樽を改装した遊び小屋、ワイン樽ハウスがある。
子供たちが絵本を読める小さな図書館として開放しているが、あの中にストーブを持ち込めばサウナとして使えるんじゃないか。

さっそく試してみることにした。
棚に並べた絵本を外に出し、長年愛用しているニッセンのアンティークな灯油ストーブを運び入れる。
丸みを帯びた灯油ストーブは、デザイン的にもサイズ的にもワイン樽ハウスにぴったりだ。
ワイン樽ハウスは天井部が空いているのでそこに専用のフタを被せ、窓と扉を閉めて灯油ストーブを点火。

効果はてきめんだった。
狭い空間だからすぐに室温が上昇する。
酸欠状態になったら大変だけど、ワイン樽ハウスはいい具合に隙間だらけだから、適度に空気が入ってくる。
昼間から入るのは気がひけるので(誰かが来たらやばいし)、夕暮れを待ってパーソナルなサウナを体験することにした。

サウナには水風呂が欠かせないが、うちには露天の五右衛門風呂がある。
湯船に貯める水は八ヶ岳山麓の伏流水が湧く井戸水だから温度はかなり低い。
本場フィンランドではサウナを出た直後に氷が張る冷たい湖に飛び込んだりするわけだから、サウナ的には好ましい水風呂といえる。

灯油ストーブを点火して室内を15分ほど温めてから、ワイン樽ハウスに入った。
ムッとする熱気は、まさしくサウナだ。
温度計がないから正確な温度はわからないけど、入る前に外すのを忘れた左耳の金属製ピアスがかなり熱くなったので、一般的なサウナ並みに高温になっていると思う。

全身に汗がじんわりと浮かび、やがて滴り落ちる。
もう少し耐えて、水風呂に入ろう。
そう思って耐えていたら、外でニャーという声がして、ワイン樽ハウスの扉を爪でガリガリする音が響いた。ポノだ。
もう12歳になるけど、この子は昔から僕らが何かをはじめると「なにやってんの??」という感じで近寄ってくる。好奇心旺盛なネコなのだ。
中に入りたがっているようだが、高温の室内にポノを入れるわけにはいかない(サウナに入るネコがいたらウケるだろうけど)。
ポノを無視してサウナに入り続けた。

汗が滴り落ちはじめたころ外に出て、素っ裸で庭を歩いて水風呂に浸水。
「ウヒョー!」と思わず声が出た。
水風呂は掛け水で汗を流してから入ることがマナーであるけれど、自分専用の水風呂だから、本場フィンランドの湖のようにいきなり水に浸かることができる。
一般のサウナでは体験できない快感だ。

30秒ほど浸かったところで、水風呂から出て「ととのう」時間に入ったが、アウトドアだからいつものサウナ以上に気持ちいい。
まだ蚊もいないし、素っ裸で風薫る5月の空気に包まれて暮れゆく空を見上げるなんて、至福の「ととのう」時間である。

いつものように、サウナ→水風呂→休憩のサイクルを3回繰り返したが、満足感はいつも以上だった。
これなら温泉施設のサウナに入れなくても大丈夫。
次のステップとして、灯油ストーブではなく、水を掛けても支障ないステンレスの薪ストーブでも設置して石を温め、熱した石に水をかける本格的な「おうちサウナ」に挑戦したい。

 
Photo:斉藤政喜
Illustration:きつつき華

*隔月連載。次回の更新は2020年7月下旬です。

 



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