シェルパ斉藤の八ヶ岳スタイル

八ヶ岳の手づくりログハウスを舞台におくる火にまつわる旅人的カントリーライフ

バックパックサウナと水風呂カヌー

中央アルプス宝剣岳の山小屋を取材した帰りに、駒ヶ根のファイヤーサイドに立ち寄った。約3年ぶりになるだろうか。
ショールームにはバーモントキャスティングス社の年代物の薪ストーブなどが並び、博物館的なおもしろさが加味されていた。
実物を目にするのが初めての製品もあって興味深く見て回ったが、とくに気になったのは併設されたズクショップの庭に張られていたサウナテントだ。

ポールさんの連載でも紹介されていたから知っていたが、実物は想像以上にがっしりしていた。
生地は丈夫そうだし、設置されているステンレスの薪ストーブも精巧に作られている。
バックパッカーの僕としては、バックパックサウナという名前にも条件反射的に惹かれてしまう。

感心して細部を観察していたら、ポールさんが「興味ある? いつでも貸してあげるよ」と声をかけてくれた。ナイスタイミングだ。
じつは週末に八ヶ岳で野外フェスがあり、それに参加するためアウトドアメーカーに勤務する息子が職場の仲間を連れてうちに来る。

夜は焚き火を囲んでバーベキューをして、わが家の露天風呂にも入る予定だが、そこにサウナが加わったら最強だ。
アウトドアが大好きな彼らにとっては最高のプレゼントになるだろう。
コンパクトに収納されたバックパックサウナを車に積んで、八ヶ岳の自宅へと帰った。

コロナ禍で多くのイベントが中止になったが、絶景音楽フェスの「ハイライフ八ヶ岳」は2ヶ月遅れで開催された。
何を隠そう、僕は「ハイライフ八ヶ岳」の副実行委員長であり、今年も準備段階から関わってきた。

どのようなイベントだったかは、サイトを参照してもらいたい。
この状況下でどうすべきかをそれぞれが考え、みんなでルールを守って作り上げた素晴らしいフェスだった。
僕はこのフェスに参加できたこと、運営に携わったことをこれまで以上に誇りに感じた。
その思いはフェスの会場にいたすべての人々が共有したはずだ。
フェスはその場に集まったみんなが一体となって育てるものなんだと、あらためて思った。
来年ももちろん開催するので、興味を持った人は八ヶ岳の絶景と音楽の融合を体感してもらいたい。

充実したフェスの1日目を終えて家に帰ると、一足先にフェスから帰った息子が庭の五右衛門風呂を沸かしていた。
20年以上愛用しているドイツ製のインフレータブルカヌーも準備されている。
インフレータブルカヌーは空気で膨らますゴムボート式のカヌーで、内側に水を貯めると簡単な水風呂になる。

その脇にバックパックサウナを設営すれば、バックパックサウナで火照った体をインフレータブルカヌーの水風呂でクールダウンし、さらに適温の五右衛門風呂で温まるという3段階のシステムが完成する。
そのすべてが屋内ではなく、野外であることがアウトドア好きにはたまらないはずだ。

日が暮れると大阪からやってきた息子の同僚たちがフェスから帰ってきた。
全員が日本を代表するアウトドアメーカー、モンベルの社員である。
アウトドア用具の扱いはお手のものだろうから、バックパックサウナの取扱説明書を手渡して、設営をまかせることにした。

彼らは完成品がどのような状態か知らないし、明るいLEDのヘッドランプで照らす取扱説明書は反射して見にくい。
テントの構造はすぐに理解してすばやく設営したが、自社のラインナップにない薪ストーブの組み立てには手間取った。
「この部品なんだろう?」と、首をかしげたりしながらも、15分程度でバックパックサウナは設営が完了した。

細かめに割った廃材を焚き付けにして着火すると、薪ストーブの炉は簡単に燃え上がった。
扉部分の吸気口のサイズと煙突のバランスがよく、燃焼効率はかなりいい。
テント内部はすぐに高温になった。
「準備オーケーだよ。入りたい人!」と声をかけると、元気な若い男性陣が一斉に手を挙げた。
水着は持ってきてないのでトランクス一枚になって、男たちがバックパックサウナへ入りこんだ。

サウナ内部にはベンチシートを設置しておいた。
3人が座れるはず、と思っていたが、サウナには4人もの男たちが入り込んだ。
テントには透明のビニールの窓がついているので外からのぞくと、男の熱気も加わって内部はムンムンとしていた。
ひとりが「うちわを持ってきてもらえますか」とリクエストをした。
上部と足元では温度に差があるので、うちわで扇いで内部の温度を均一にしたいとのこと。
うちわを渡すと「オーッ、キクーッ!」という声が聞こえ、しばらくして男たちが外に出てきた。

全身から湯気が立ち上っている。
その勇姿を撮影したあと、男たちはカヌーの水風呂にダイブ。
「ウヒャーッ!」「最高!」の歓声があがる。
水風呂から出て外の空気を全身に浴びて休憩し、そのあとは五右衛門風呂に浸かって温まる。そしてまたサウナに入る。

そんな楽しいことを繰り返したものだから、女性たちが黙っていなかった。
「私たちも入る!」と、男性たちが出たあと、Tシャツと短パン姿になってバックパックサウナに入った。
中から「ヤバイ、ヤバイ!」の声が聞こえる。
笑い声が絶えないにぎやかなサウナである。
出たり、入ったりを繰り返すサウナパーティーが延々と続いた。

その夜、僕はバックパックサウナには入らなかった。
サウナはトランクスやTシャツ姿で入るものではない。
すべてに解放された素っ裸の状態で入りたい。
庭でそんな贅沢を味わえるのが田舎暮らしの醍醐味でもある。

息子たちが帰った数日後、僕はバックパックサウナの薪ストーブを着火した。
10分ほど経ってから素っ裸になり、サウナに入る。
さすがは薪ストーブだ。
うちにはワイン樽ハウスに灯油ストーブを入れたサウナがあるけど、内部の温度の上昇する速さは薪ストーブにかなわない。
水蒸気が出る仕組みなので熱さの質も違う。
熱気が体にまとわりつくこの感覚こそサウナだ、と思う。

汗が滴り落ちたところで、外に出てカヌーの水風呂に素っ裸でダイブ。
そしてカヌーから出て素っ裸で空気を浴びる。
それを3回繰り返し、最後は素っ裸のまま、カヌーの縁に腰掛けて冷えたビールを飲んだ。

なんという開放感!
他人にのぞかれない田舎暮らしは最高だと思ったが、誰からも見られなかったわけではない。
僕がサウナに入っている間、ポノとハチが「何やってんの?」と、下の排気口からじっとのぞいていたのである。
サウナから出たいまは、裸でビールを飲んでいる僕をキョトンとした表情で見つめている。
「気持ちいいんだよ」と猫たちに声をかけると、「ニャー」と返事をした。
エサをくれ、と言ったんだろうけど、鳴き声のタイミングがよかったから同意してくれたように思えた。

バックパックサウナを欲しくなったが、自分が買うとなれば1点だけカスタムしようと思う。
煙突のトップが筒抜け状態なので、雨が降ると炉に水が入り込んでしまう。
煙突のT字型トップを装着すれば、内部に水が入らず、雨の日でもサウナが楽しめる。
サウナから出たあと、素っ裸で雨のシャワーに打たれてクールダウンするアウトドアスタイルもいいんじゃないかな。

Photo:斉藤政喜
Illustration:きつつき華

*隔月連載。次回の更新は2020年11月下旬です。

 



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