シェルパ斉藤の八ヶ岳スタイル

八ヶ岳の手づくりログハウスを舞台におくる火にまつわる旅人的カントリーライフ

薪の確保 伐採現場で交渉編

わが家はこれまで一度も業者に頼ることなく薪を確保してきたが、その実例としてもっとも多いパターンは、伐採現場での直接交渉だ。
造成や道路工事など、諸事情により広範囲で樹木を伐採している現場が八ヶ岳南麓には少なからずある。

僕は自転車や50ccのスーパーカブで南麓一帯をのんびりと走り回ることが多いから発見しやすいかもしれないが、運良く伐採現場に遭遇したら作業員に声をかけて交渉している。

ただし、声をかけるタイミングには気を遣う。
チェーンソーで伐採しているときや重機を操縦しているときなどはNG。
彼らの作業を中断させてはならない。
その場でじっくり待ち、作業が一段落したときに「こんにちは。○○の斉藤といいますが、家で薪ストーブを使っているので、少し分けてもらえますか」と自らを名乗って笑顔でお願いする。

「いや。これはもう行き先が決まっている」と断られるケースが多いけど、すぐには退き下がらない。
「少しでいいんです。1本だけでも」と恥ずかしがらずに交渉すれば「じゃあ、隅に積んであるのでよければ」と結果的に軽トラ半分くらいの薪を分けてもらえたりする場合もあるし、「来月は別の現場で伐採するから、そのときは声をかけてやるよ」と情報を提供してもらえることだってある。
ダメもとでいいから、現場の人間とコミュニケーションをとることが大事なのだ。

また、伐採現場に作業員がいない場合は、段ボールの切れ端に伐採した木を燃料用に少しわけてもらいたい旨と連絡先を書いて置き手紙をしたこともある。
連絡が来るケースは少ないけど、種をまかないことには何も実らない。
アクションを起こすことで、歯車が動き出す。
それは薪集めに限ったことではないけれど。

搬出が終わった現場も見逃してはならない。
積み残した倒木が若干残っていたりするのだ。
持ち主を探し出し、「積み残しをもらってもいいですか」と交渉すれば、たいていは「少しならいいよ」と譲ってもらえる。

一度に1シーズン分をまかなおうと欲張らず、地道に薪集めを積み重ねていく。
そうやって集めた薪は、冬にいっそうの温かさを実感できるはずだ。


(Photo:搬出が終わった近所の伐採現場に残っていた樹木。
持ち主を探し出して交渉してみたが、すでに譲渡先が決まっていた。)

 

 ニセアカシアの配布当日…

樹木伐採の情報は自ら探し出さなくても、人づてに教えてもらう場合もあるし、行政が告知することもある。
ここ数年、わが北杜市では年が明けると広報誌に「伐採した木と枝を無料で差し上げます!」という情報が掲載される。
生命力が強い外来種のニセアカシアが釜無川流域に繁殖しており、生物多様性の低下と河川の流れを阻害するおそれがあることから、県が毎年大量のニセアカシアを伐採しているのだ。
「1家庭につき軽トラ2台分まで」「積み込み運搬は自分自身で」が配布の条件。
市民でなくても、河川広場に積まれたニセアカシアの倒木を自由に持っていくことができる。

ニセアカシアの伐採がはじまった年に僕は知人から軽トラを借りて広場に向かったが、その量に圧倒された。
軽トラ何百台分になるのだろう。
山ほどのニセアカシアの倒木が広場に積まれていた。
作業をしている人間たちも「いいよ。好きなだけ持っていきな」と気前がいいものだから、僕は薪ストーブ愛好家の知人たちとともに何度も往復して2シーズン分くらいのニセアカシアの薪を入手した。

それから数年はニセアカシアのお世話になることもなかったが、今年の春は再びニセアカシアを入手しようと思い立った。
わが家の薪は数シーズン分は確保されているけれど、余裕がない知人たちもいる。
とくにシングルマザーの薪ストーブユーザーは今シーズンぶんの在庫がないかもしれない、と不安がっている。
彼女たちに分けてあげたい思いから軽トラを借りて、配布開始初日の朝に現場へ向かった。

しかし、どうも様子がおかしい。
配布場所に向かう道中で現場にから帰ってきたと思える軽トラ数台とすれ違ったが、荷台に何も積まれていない。
ひょっとして……という思いは現場に着いて決定的になってしまった。
ニセアカシアが積んであるはずの広場には1本の樹木も残っていない。
軽トラが10台ほど広場に止まっていて、運転して来た人々が苦笑いを浮かべて談笑している。
どうやら、不埒な人々がフライングして配布解禁以前にすべて持ち去ってしまったようだ。


(Photo:ニセアカシア配布当日の朝、あるはずのニセアカシアは広場に1本も残っていなかった。軽トラで乗りつけた薪ストーブユーザーたちは苦笑いするしかなかった。)

配布期日をきちんと守った僕らがバカを見る腹立たしい結末になったが、数年前は配布期間が過ぎても大量に残っていたニセアカシアだったのに、ずる賢い方法で手に入れる輩が現われたり、配布当日の朝に集結した軽トラの数に現実を思い知った。

 

樹種にこだわらず臨機応変に

八ヶ岳山麓一帯の薪ストーブユーザーは急増している。
薪の入手は業者に頼らざるをえなくなるかもしれない。
でも、僕は薪に対する危機感は持っていない。
樹種にこだわらなければ、薪はいくらでもただで手に入る。
たとえばスギやヒノキの間伐材やマツクイムシの駆除が終わった倒木のマツ、建築廃材など、処分に困っている樹木や木材はいくらでもある。

たしかに針葉樹は広葉樹に比べて火持ちが劣るし、ヤニが出るマツは火力が強すぎて炉に悪影響を与える場合もある。
さらにクレオソートが出て煙突が詰まりやすいともいわれる。
しかし工夫すればどうにでもなる。
太めに薪割りをして、しっかり乾燥させてバランスよく燃焼させれば、針葉樹の弱点は克服できる。
煙突が詰まりやすいなら煙突掃除の回数を増やせばいいだけの話だ。

僕が業者から薪を買おうとしないのは、お金を払いたくないからだけでなく、倒された樹木を無駄にしたくない思いもあるからだ。
薪ストーブは自然資源を有効活用できる道具でもある、と僕は思っている。

針葉樹だっていい。
自然の恵みをありがたく使わせてもらって暖をとろう。
そう自分に言い聞かせているのだが、不思議なものでスギやマツでもいいと開き直ってからは、これまで以上に良質の広葉樹が簡単に手に入るようになった。

すぐ近所で隣の家に迷惑がかかるだろうからと巨木のコナラを切り倒したし、畑に覆い被さって困るからと、近隣の農家がヤマザクラを伐採した。
どちらもすぐ近くだから運搬もラクだ。
シングルマザーたちにも分けたけど、今年手に入れた薪は19年間の薪ストーブライフで、最大量になるかもしれない。


(Photo:薪の在庫はこれまでで最も多いかもしれない。
今シーズンも豊かな冬を迎えられる。)

ちなみに、北杜市では来年の春もニセアカシアの伐採と配布が行なわれるが、今年の反省から来年以降は抽選となり、当選した10組限定で配布する、とのことだ。
運だめしで、応募してみようかな。
いや、薪を欲している人々のために、応募は見送ることにしよう。

 

Photo:シェルパ斉藤
Illustration:きつつき華

*隔月連載。次回の更新は11月下旬です。



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