シェルパ斉藤の八ヶ岳スタイル

八ヶ岳の手づくりログハウスを舞台におくる火にまつわる旅人的カントリーライフ

薪の確保

「薪はどうやって手に入れてるんですか?」と、人によく聞かれる。
薪ストーブ購入を検討している人にとって薪の確保は重要なテーマに違いない。
僕も薪ストーブを設置したときは、はたして毎シーズン薪を確保できるものかと不安を感じていた。

しかし薪ストーブとつきあって19年。
薪が足りなくて困ったシーズンは一度もない。
足りないどころか、常に数シーズン先の分まで薪が備蓄できている。

上の写真はクルマが2台収容できるガレージを囲むように積んだわが家の薪だが、これがすべてではない。
この倍近い薪がわが家のあちこちに積まれている。
これだけの薪を手に入れるとなれば、それなりの経費がかかっただろうと思うかもしれないが、そうではない。
今シーズンに限らず、この19年間僕は一度もお金を払って薪を買ったことがない。
コナラ、クヌギ、ヤマザクラ、エゴノキ、ケヤキなど、薪の種類はまちまちだけど、すべてもらいものでまかなっている。

では、どうやって薪となる原木をただで手に入れてきたのか。
その実例をいくつか紹介しよう。

 

畑の持ち主を探して

以前にこのエッセイで書いたように、人生初の薪は近所のヤマザクラだった。
そのヤマザクラを手に入れて間もなく、家づくりのリーダーだった本田くんが「大量のクリの木を見つけた」と教えてくれた。

お金をかけない生活を楽しんでいる本田くんは、拾い物やもらい物をセンスよく使いこなす達人である。
わが家のゲストハウスもカフェも本田くんが調達した廃材や古材がもとになっているが、彼は視点が一般人と違う。
普通に道路を走っていても何かしら発見するし、廃材や倒木がありそうなポイントを探しあてるカンも備えている。
道草や寄り道が得意なのかもしれない。
僕も後年、本田くんの好奇心を見習うことで伐採現場や倒木を発見する才能が磨かれたと思うが、まだ薪集めのビギナーだった僕は、本田くんに教えてもらったクリの木の伐採現場に出かけた。

クリの木は他の広葉樹に比べて燃えにくく、薪にはあまり適さないことは知っていたが、とにかく薪を確保したかったし、樹木なんだからしっかり乾燥させれば燃えないわけがないと思い込んでいた。
まだ伐採したばかりなのだろう。クリの木は畑の脇に大量に積まれていた。
幹の太さは20cm程度。枝葉も大量に積まれている。

僕は畑の近くの家を1軒1軒訪ね歩き、畑の持ち主を探しあてた。
「○○○の○○橋の袂で家をつくっている斉藤といいます。
薪ストーブを持っているんですが、
あの畑にあるクリの木を薪としていただけませんか?」
自分がどこの何者であるかをはっきり伝えて交渉したら、地主の女性は「いいですよ。どうぞ」とあっさり了承してくれた。

僕はすぐに行動を開始した。
家づくりに役立つだろうと思って知人から安価で購入した4WDの1トントラックを畑の脇に乗り入れ、何往復かしてすべてのクリの木をわが家に運んだ。
欲しいのは幹の部分だけで、枝葉はいらなかったが、地主の立場を考えて細かい枝も葉もすべて運んで、まっさらの状態にした。

わが家は土地に余裕がある。
枝葉を積み上げておくスペースがあったし、細い枝は乾燥させれば焚きつけになる。
手に負えなくなった残りの枝は、乾燥させてから野焼きをすればいい。
野焼きという楽しいイベントを提供してくれると思えば、枝葉の存在もありがたく思える。

 

クリがリンゴを連れて来た!

そしてクリの木の運搬から数ヶ月後、わが家を訪ねてくる女性がいた。
最初、その女性が誰かわからなかったが、「クリの木の……」と聞いてあの地主さんであることを思い出した。
農家である彼女はリンゴも栽培していたが、リンゴまで手が回らなくなったため、リンゴの木をまとめて伐採したという。そのすべてをもらってほしいとのことだった。
うれしかった。
薪を手に入れた喜び以上に、地元の方から声をかけてもらったことに感動をおぼえた。

僕はクリと同じく、リンゴの細かい枝もすべてわが家に運搬して処分した。
長い年月を経たリンゴの成木は固くて節も多く、薪割りの対象としては面倒だったが、薪としては最高ランクの樹木だった。
直径15cm程度のサイズなら薪割りをする必要もない。
そのまま乾燥させれば1年後には極上の薪になる。
熱量が高くて火持ちもいいし、ほのかな甘い香りも漂う。
就寝前に丸ごと一本薪ストーブに入れて吸気レバーを絞れば、翌朝も熾き火が残っていて、すぐに火が起こせる。
そんなぜいたくな薪ストーブの日々を、リンゴの木は提供してくれたのである。

その後、家が完成して暮らしが落ち着き、地域活動やPTA活動が密接になるにつれ、「木を伐ったけど、いらんか」と声がかかるケースは増えた。
どんな樹木でも、たとえ1本でも、声がかかると僕は現場に出かけて、枝ごと自宅に運搬した。
地主にとっては、倒木の現場をきれいに片づけてくれる人間はありがたいに違いない。

 

薪は巡る

双方が得をする気持ちのいい取引が続き、ときには伐採を頼まれるケースも出てきた。
専門家ではないから、危険が伴う困難な伐採は引き受けられないが、畑の陽当たりがよくないから隣の雑木林のクヌギを1本伐ってほしい、という程度なら率先して引き受けた。

大きな樹木がメリメリッと音を立て、地響きとともに地面に横たわったときは興奮するし、自分の手で巨大な生命体でもある樹木を倒したことに責任も感じる。
肉や魚と同じく、森の生命をいただいて暖をとっていると思うと、慈しみの心も生まれる。
そしてこの慈しみの心と地域貢献の精神を胸に薪とつきあっている限りは、薪に困ることはないはずだ。巡り巡ってくると思い込んでいる。

とまあ、スピリチュアル的な話に及んでしまったが、冒頭で事例をいくつか紹介すると書いておきながら、今回は一部の紹介だけで終わってしまった。
薪の確保は、薪ストーブユーザーや購入を考えている人にとっては興味深いテーマだろうから、次回もこのテーマを続けよう。
(つづく)

 


今シーズンも倒木を処理した。
わが家に運んだ枝葉は秋までじっくり乾燥させて、
焚き火が恋しくなる晩秋に庭で野焼きを楽しもうと思う。

 

photo:シェルパ斉藤
Illustration:きつつき華

*隔月連載。次回の更新は9月下旬です。



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