割って燃やして育って
毎週末『チームシェルパ』に遊びに来る中学1年生のDくんが、シェルパークでキャンプをしたいと言い出した。
お小遣いを貯めてソロテントを買ったばかりなので、ひとりでそのテントに泊まりたいという。
僕らは何も手助けせず、Dくんの好きなようにキャンプをさせた。
うちで焚き火もしょっちゅうしているからDくんは火の扱いも手馴れたものだ。
ところが翌朝、トラブルが起きた。Dくんが足に大火傷を負ったのだ。
ファイヤープレイスの周りには廃材を並べたベンチがあり、その上に板を乗せ、バーナーを置いてお湯を沸かしたらコッヘルがひっくり返って熱湯が足にかかったのだという。
安定しない板の上でなぜバーナーを使うのか、と呆れたが、それが中学1年生のスキルなのだ。
Dくん以外の子にも同じようなトラブルが起きるかもしれない。
「シェルパークにどっしりとしたテーブルやベンチがあればいいと思う。
やっぱり、あのテーブル、運べないかな‥‥」
妻が言った「あのテーブル」とは、甲府のアウトドアショップ『エルク』の駐車場に置いてあったテーブルとベンチだ。
甲府郊外の某公園に放置されていたものを、エルクの社長の柳沢さんが管理者に許可を得てショップに運んだとのこと。
現場にはまだいくつか残っているので「斉藤さんの家にもどう?」と柳沢さんにいわれていたのだ。
しかし風雨に晒されても朽ちそうにないそのテーブルとベンチは重量がかなりあり、柳沢さんは「3人で運んだから大変だった。
4人いれば大丈夫だと思う」と口にしていたため、そのときは食指が動かなかった。
でも常設のテーブルやベンチがあれば、シェルパークの使い勝手がよくなるだろうし、Dくんのようなトラブルもなくせる。
どうにかして運ぼうと、僕と妻はその現場へ下見に出かけた。
テーブルもベンチも歩道脇に転がっていた。
特殊な工法で樹脂を固めて製作されたのだろう。
何年も土に埋もれているはずなのにまったく朽ちていない。
産廃として処理するのも大変なモノだから、引き取ったほうが管理者も助かるはずだ。
放置場所から駐車場までは50mから100mくらいだろうか。
歩道は傾斜があって下り道だから(逆なら大変だ)男性が4人いれば運べると判断した。
そして某日、わがチームシェルパのブレーンH先生と常連客の若者Fくん、それにタイミングよく帰省した息子の一歩と僕というメンバーで、軽トラ2台に分乗して運搬作戦を敢行した。
ある程度の苦戦を予想したものの、拍子抜けするくらい楽に駐車場まで運ぶことができた。
サイズも軽トラの荷台にはぴったりでひっくり返して天板が下になるように乗せたら、ロープで固定する必要がないくらい、安定した。
わが軽トラにテーブルを、H先生の軽トラにはベンチイスを4脚乗せて運び、シェルパークに運び入れた。
「ずっと前からここにありましたよね」とH先生が笑い出すくらい、運び入れたテーブルとベンチはシェルパークに馴染んでいた。
褪せた色合いや、古ぼけた感じがラフなシェルパークに似合っている。
重量もかなりあって脚ががっちりしているから、揺すってもビクともしない。
子供が乗ったとしても(土足で乗るな、と指導するつもりだが)、倒れるようなことはない。
おっちょこちょいのDくんのような失敗はもう起きないだろう、と僕らは一安心した。
Dくんのネタついでに、子供は何をやらかすかわからない話をもう一つ、記しておこう。
シェルパークに限らず、わがカフェには竪穴式住居のイオやデッキのファイヤープレイスなどもあって子供たちでも焚き火ができるようになっている。
焚き火をするときに重宝するのが、当連載でも紹介したキンクラこと、キンドリングクラッカーだ。
子供でも安全かつ確実に楽しく焚き付けを作ることができるので、廃材を収納した棚の前にキンクラを設置して、子供たちには自由に焚き付けづくりをさせている。
キンクラは子供たちに大人気で「やらせて、やらせて」と順番待ちになるほどだ。
ところが先日、子供たちがハンマーの柄の付け根を折ってしまった。
手に入れてまだ半年も経っていないキンクラ専用のハンマーである。
「普通に使っただけだよ」と子供たちは言いわけをしたが、普通に使って丈夫な柄が折れるはずはない。
僕の推測であるが、大人たちはキンクラに置いた木材を叩きつける瞬間、条件反射的に打撃直後のハンマーを止める力を働かせる。
必要以上にハンマーを振り下ろしたりはしない。
しかし手加減ができない子供は、下部まで力まかせにハンマーを振り下ろしているんだと思う。
その結果、振り下ろしたハンマーの柄がキンクラの輪っかのフレームに当たり、それが何度も繰り返されているうちに折れたのではないだろうか。
柄の補修はできないため、新たなハンマーを手に入れたが、再び破損させる可能性がある。
でも子供たちでも使えるのが利点でもあるキンクラを使うな、とは言いたくない。
子供たちはキンクラを使いたくて仕方ないのだ。
そこで子供が使っても柄が折れにくくなるような対策を施すことにした。
ハンマーの柄が当たるであろう輪っかのフレーム部分を衝撃吸収材で保護するのである。
ちょうど110ccの小型バイクのタイヤ交換をしたばかりだったので、古いタイヤとチューブを適当に切って使うことにした。
フレームのサイズに合わせてタイヤをカットしてフレームに置き、それをチューブで巻いていくだけの作業である。
エンド部分はゴム用接着剤で止めて、結束バンドで固定したが、作業にかかった時間はわずか15分程度。
見た目も違和感なく、無骨なフレームに合っているように思う。
チューブを使ったついでに、ハンマーの柄もチューブを巻いて補強を試みた。
もともとゴムが巻かれてあるが、幅も広げて厚みが増すように巻きつけた。
対策を施したハンマーの柄をフレームにぶつけてみたが、クッションが効いてプロテク ト効果は高い。
柄が折れるようなことはもう起きないと思う(そう願いたい)。
それにしても、子供は何をしでかすかわからない。
でもそんなことにはめげずに自由に焚き火をさせるつもりだし、自由にできる環境を大人が構築していくべきだと思う。
それが自分の子に限らず、子供を育てる大人の役目なのだから。
Photo:斉藤政喜
Illustration:きつつき華
*隔月連載。次回の更新は2019年11月下旬です。