シェルパ斉藤の八ヶ岳スタイル

八ヶ岳の手づくりログハウスを舞台におくる火にまつわる旅人的カントリーライフ

犬と猫の散歩

じつは猫が苦手だった。
尻尾を振って懐いてくる犬は大好きだけど、
何を考えているのかわかりにくい気まぐれな猫は敬遠していた。
母親の影響である。
母は猫を怖がって、犬を可愛がっていた。
化け猫や猫の妖怪はいるけど犬の幽霊はいない、が母の持論だ。
その影響をもろに受けて、僕は猫にふれることがない少年時代を過ごして大人になった。

そんな僕が猫を飼うことになったきっかけは、ネズミである。
我が家のグランドフロアにネズミが棲みつき、倉庫の食料や電気コードをかじられたり、フンを撒かれる被害が相次いだ。
ネズミ捕り器を置いても効果がない。
困り果てたところで、猫好きの妻が提案した。
近所で子猫が生まれて里親を探しているからうちで飼おうというのだ。

ネズミに悩まされていたから苦肉の策として妻の要望を受け入れることにした。
ただし条件をつけた。
「猫は家の中にはいれない。犬と仲良くなれなかったらダメ」
当時、うちにはゴールデンレトリーバーのニホとラブラドールレトリーバーのサンポがいて、犬たちはウッドデッキで暮らしていた。
犬と共同生活をさせて、人間とは一定の距離をとることを、猫が苦手な僕は絶対条件に挙げた。

ジッポと名付けた子猫は、最初は犬たちに怯えていたけれど、1週間もしないうちに警戒心を解いた。
ニホもサンポもメスで母性本能が働いたのか、ジッポを優しく受け入れた。
共同生活を続けると猫も犬の行動パターンを真似るようになるのか、ジッポはニホとサンポと一緒に食事をして、散歩についてくる猫になった。
そしてうれしいことに、ジッポはネズミを次々と退治して、グランドフロアのネズミは消滅し、それ以降ネズミが棲みつくことはなくなった。

ジッポが来て10年近く経ったころ、新たな猫ポノが家族に加わった。
僕が長期の旅に出ている時を見計らったような子猫との出会いがあり、僕の許可を待たずに飼いだしたのだが、人懐っこくて甘えてくるポノに僕はメロメロになり、猫を家にいれないというルールを自ら破ってしまった。

ポノは犬ともすぐに仲良しになり(ポノが来た時は、サンポと、サンポの娘のトッポの2頭がいた)、ジッポと同じく、散歩についてくる猫になった。

そしてハチである。(» 子猫ハチがやってきた
ジッポやポノがそうだったように、
ハチもすぐに黒ラブのセンポと柴犬のカイくんに懐いた。
ポノが犬の散歩についてくるから、ハチも一緒についてくる。
その姿が愛らしくてたまらない。

わが家の散歩は、毎朝6時40分と決まっている。
ルーティーンになっている6時30分のNHKラジオの体操を終えてから、
近所の公園へ散歩に出かける。
フィリピン公園と近所で呼ばれている(理由はちょっと書けない‥‥)
その公園までの距離は約500m。
森を抜け、畑の脇を通って、センポが先頭でカイくんが続き、
後ろからポノとハチがついてくる順番で公園をめざす。
でもポノは気まぐれで日当たりのいい草地で休憩して公園までついてこないときもあるし、ハチはハチで木に登ったり、藪に入り込んだりして道草を食う。
そして僕らとの距離が開くと慌てて駆けて来て、一気に先頭に立つ。
犬とは違う、予測不能の行動が僕らを楽しませてくれる。

思えば、犬と暮らしはじめた二十数年前から朝の散歩は欠かさずに続いている。
息子が保育園に通っていた頃は、通園が朝の散歩を兼ねていた。
田舎ではほとんどの家庭が車で園児の送り迎えをするが、
わが家は家族総出で1kmほど先の保育園まで歩いていた。
当時の園長さんがおおらかな人だったからだろう。
わが犬たちは園内に入ることができた。
2頭のレトリーバー、ニホとサンポは園児から見たら巨大な犬だ。
自分と目の高さが同じ動物にタッチすることは子供にとって冒険であり、感動があったに違いない。
ニホとサンポは園児たちにされるがままのふれあいを楽しんでいたが、
もしあのときハチがいたら、ハチはアイドルとして子供達に可愛がられたに違いない。

フィリピン公園に着くと、センポはボール遊びに熱中する。
誰もいないからリードを外し、
僕がノックするボールを追ってセンポは縦横無尽に公園を駆け巡る。
たっぷり運動を楽しんでから帰るのだが、ハチは公園の池にいるカモを追ったり(池に落ちてずぶ濡れになったこともあった)、木に登ったりして、すぐには帰ろうとはしない。必然的に朝の散歩は長引くことになるが、それは満ち足りた幸せな時間でもある。

童謡『雪』で歌われているように、雪が降ると「犬は喜び庭駆け回り、猫はコタツで丸くなる」はずだが、ポノもハチも雪が降っても散歩についてくる。
暖かい室内にいればいいのに、自分から外に出たいと意思表示して犬たちの散歩についてくる。
今シーズンは雪が少なく、わが家の周辺は2回しか積雪がなかったが、初めて目にする雪をハチはどう思ったのだろうか?

そして春が来て、わが家のさくらんぼの花が一斉に咲き出した。
わが家の風物詩になっている花見風呂の季節である。
五右衛門風呂のかまどに廃材や薪を入れて燃やしはじめたら、ハチが「何やってんの?」という顔で近づいて来た。
ハチは家の風呂にも興味津々で僕らが風呂に入ると浴室に現れる。
そろりそろりと湯船に近づいてくる。
僕は入れてないけど、妻はときどきハチを風呂に入れたりする。
多少の抵抗はするけど、風呂を毛嫌いしているわけでもなさそうだ。
びしょ濡れになったハチのフォローをするのが面倒だから五右衛門に入れたりはしないが、僕が花見風呂をしている間、ハチもポノも五右衛門風呂の脇に座ってじっとしていた。

花を愛でながら、猫たちも眺める最高の露天風呂だ。
風呂上りは竪穴式住居のイオで焚き火をはじめたら、ポノもハチも火のそばに寄って来て寝転んだ。
猫もファイヤーサイドが大好きなのだ。
薪ストーブのシーズンが終わるこれからは、外で猫や犬たちとともに焚き火を楽しもうと思う。

Photo:シェルパ斉藤
Illustration:きつつき華

*隔月連載。次回の更新は2019年5月下旬です。

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