シェルパ斉藤の八ヶ岳スタイル

八ヶ岳の手づくりログハウスを舞台におくる火にまつわる旅人的カントリーライフ

子猫ハチがやってきた

子猫が家族に加わった。
名前はハチという。
名前の由来は顔を見れば誰もが納得するはずだ。
額に漢数字の『八』があるのだ。
マジックで眉毛を書いたんじゃないかと思えるくらい立派な八の文字で、
初めてハチの顔を目にする人は必ず笑顔になる。

うちの家族は長男の一歩にはじまり、次男の南歩、犬のニホ、サンポ、トッポ、センポ、猫のジッポ、ポノというようにすべて『歩』の文字を入れて名前をつけてきたが、ハチはその伝統を継承しなかった。
「わたしはハチですよ」と顔が訴えているんだから、名前はハチ以外に考えられない。
正式名称を猫八にしたので、成長したら声帯模写ができるようになるかもしれない。

 

ハチは近所で生まれた雑種のメス猫だ。
民家の庭先で野良猫が6匹の子猫を出産してしまい、
保護した家の住人が里親探しをしている情報が回って、妻が名乗りを上げた。

最初に妻が「子猫を飼ってもいい?」と言い出したとき、僕は乗り気ではなかった。
うちにはポノがいる。
見た目はキュートとは言えないけど、世界で一番かわいい猫だと思っている。
僕の姿を見るといつでも近寄ってきて、ヒョイと肩に乗るし、
雨の日も雪の日も健気に犬の散歩についてくる。
ラブラドール・レトリーバーのセンポと柴犬のカイくん、
そしてポノという家族構成は調和がとれている。
このバランスを乱されたくはない。

しかし、妻が何か提案し、僕が難色を示すんだけど妻の思惑どおりに進んで、最終的に納得するのが我が家のパターンだ。
今回もそうなるんだろうと覚悟しつつ、「ポノと仲良くやっていけたら飼ってもいい。ダメな場合は返すこと」という条件付きでハチを受け入れることにした。

ハチが来た日、
外遊びから帰ったポノはハチの姿を見てギョッとした表情を浮かべた。
無邪気なハチが近寄ると、ポノはフーッ!と威嚇した。
ハチは怯んだが、それでも甘えようとする。
しつこいハチに辟易したポノは外に出てしまった。

ポノはしばらく家の中に入ろうとせず、僕らは不安に駆られた。
しかし、日が経つにつれ、ポノとハチの距離は近くなった。
ポノがハチの存在を認めはじめたのだ。
最初はハチが近づくだけで威嚇していたのに、
ハチに絡みつかれても耐えるようになった。

そしていつしか、2匹はくっついて寝るようになった。
模様は違うものの、ポノもハチも全身を構成している毛の色はほぼ同じだ。
2匹が絡んだまま寝ている姿は、どの足がポノで、どの足がハチか判別が難しい。
その姿を目にするたびに顔がニヤついてしまうし、
「キミたち、どうか(同化)してるぞ!」と言いたくなる。

ワクチンの接種を終えたハチは、外に出て遊ぶ猫になり、一段と活発になった。
動きがポノ以上にすばしっこく、体が軽いものだから木にもヒョイヒョイと登り、
庭を縦横無尽に駆け巡る。

わが家は道路に面しており、交通量が少ないとはいえ車が通るから、
好奇心旺盛で飛び回るハチが交通事故に遭う可能性もある。
そこでこの連載のイラストを描いている華ちゃんにお願いして、
猫飛び出し注意の看板を作ってもらった。

その出来栄えは最高!
インパクトある看板のおかげでうちの前を定期的に通る車は、
ハチがいることを認識したし、ハチも車の怖さを理解したように思う。

保護した住人家族が可愛がっていたため、ハチは人懐っこかった。
子猫が人懐っこいのはあたりまえなんだけど、ハチはとくにその傾向が強い。
警戒心がまったくなく、誰に対してもストレートに向かっていって甘える。
たちまちわがカフェ『チームシェルパ』のアイドルになり、
ゲストに愛される存在になった。
なんせ、この顔である。
笑っちゃう顔の子猫が甘えてくると、ほとんどの人は心を許してしまう。

ポノもアイドル猫として愛されているけど、しつこい子供は苦手で、
子供たちが『チームシェルパ』に来るとさっさと姿を消す。
助けを求めて僕のもとにやってきたりする。
でもハチは違う。
子供たちに寄られても平気などころか、
自分から「ねえ、遊ぼう」と子供たちにアプローチしていく。
ハチに会いたくて訪れる子供たちが増えて、
『チームシェルパ』は一段とにぎやかになった。

庭には子供たちも犬たちも自由に遊べる『シェルパーク』があるが、
子供たちが木に登るとハチも木に登る。
後を追って一緒に遊ぶハチは子供の琴線にも触れるのだろう。
鎌倉から来て何時間も『シェルパーク』でハチと遊び、「家に帰りたくない。
もっとハチと遊びたい」と涙を浮かべる女の子もいた。

そんな場面に接するたびにほのぼのとした気持ちになるのだが、心配事もある。
人間が大好きなハチはカフェの駐車場に車がやってくると出迎えにいくし、
帰るときは車に近寄って見送りをする。
連れて行かれちゃうんじゃないか、と親バカの僕は不安になったりするのだ。

薪ストーブのシーズンに入ると、
薪ストーブの前の特等席はハチとポノに独占されるようになった。
ある程度予想はしていた。
猫は一番心地いい場所を知る動物なのだから。

僕も当然のことながら薪ストーブの前が好きなんだけど、まあ、仕方がない。
薪ストーブの前で猫が気持ちよさそうに寝転んでいる姿は
心を温める精神的な暖房効果がある。
ポノだけでもそうだったが、ハチとポノがくっついて寝ている姿はその効果が倍増だ。
薪ストーブと、薪ストーブの前でくっついて寝る猫たち。
これに勝る暖房はないと僕は思っている。

 

 
Photo:シェルパ斉藤
Illustration:きつつき華

*隔月連載。次回の更新は2019年3月下旬です。

 

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