シェルパ斉藤の八ヶ岳スタイル

八ヶ岳の手づくりログハウスを舞台におくる火にまつわる旅人的カントリーライフ

焚き火アガーデン

わがカフェ『チームシェルパ』では定期的にイベントを開催している。
ライターやアウトドアズマンによるトークショー、ミュージシャンのライブ、落語家の公演など、イベント内容はゲストによって異なるが、スタイルはいつも同じ。
みんなで焚き火を囲み、酒を酌み交わしつつキャンプを楽しむスローなイベントだ。

参加費は無料。
誰でも参加できるが、人数を把握したいので、事前にメールで申し込む必要がある(といっても飛び入り参加もありだけどね)。
テントを張る場所は2ヶ所あって、バックパッカーや自転車、オートバイなどの単独行は森の中、車の参加者やファミリーキャンパーはドッグランの中というように分けている。

イベント開始は夕方5時くらいからだ。
生ビールサーバーをセットして、最初の一杯を僕が飲み干したら、それが解禁のサインとなる。

飲食のスタイルはセルフサービスである。
自分で飲み物や食材を選び、代金をテーブルの上に置かれた料金箱(廃校になった学校のチョークの木箱を使っている)に入れる。

生ビールは飲み放題が2500円、それ以外は1cc=1円。
といっても正確に計量するわけではない。
各自がサーバーから生ビールを注ぎ、泡と液体の比率を見て「まあ、こんなもんだろう」と判断して適正価格を入れる。
泡だらけだったら、泡が収まってから再び注げばいい。
1cc=1円はだいたいの目安なのだ。

テーブルに並べられる食材は、串刺しのソーセージや野菜、焼き鳥など。
コンセプトは『おとなの駄菓子屋』だ。
1本100円でそれらを買ったら七輪を使ってセルフで焼く。

串焼き以外にも1杯200円のシェラカップカレー、中華ちまきなどもある。
さらにうれしいことに、近所の仲良しグループが毎回イベントに協力してくれるため、彼らが用意した豚汁やイカ焼き、そして手製の杏仁豆腐なども1杯100円で振る舞われる。
雰囲気は、学園祭の模擬店である。

飲食が一段落した午後7時あたりからトークショーがはじまる。
まずはホストである僕が近況を報告したあと、参加申し込み順に全員が簡単に自己紹介をする。

その日のゲストによって顔ぶれは異なるが、常連が4割程度、参加経験者が3割程度、そして初参加が3割程度といった感じだろうか。
1時間近くかかって自己紹介タイムが終わったところで、ゲストの登場となる。
1時間を目安に講演や演奏を披露し、そのあとは焚き火を囲んでフリータイムに入る。

通常はデッキにふたつの焚き火台、それに竪穴式住居の焚き火が一晩中燃やされる。終わりの時間はとくに設定していないが、時計の針が12時をまわるあたりで店の営業は終了。
そのあとは何時まで飲もうがそれぞれの自由だ。
過去には空が明るくなるまで飲んでいた猛者もいたが、大騒ぎしないかぎりは参加者の好きにさせている。

ちなみにゲストへのギャラは投げ銭方式だ。
ステージに空き箱を置いておくので、各自が好きなだけギャラを入れる。
金額を確認することなく、そっくりそのままゲストに渡しているが、交通費+αにはなっていると思う。

イベントは春、夏、秋の年3回ほど開催してきたが、数年前からは春に1回。
それ以外はイベントではなく、焚き火バーをオープンするスタイルに変更した。
つまりカフェ『チームシェルパ』の夜間営業である。
串焼きの焼き鳥やソーセージ、シェラカップカレーなどは用意するが、近所の仲良しグループの出店はない。
『おとなの駄菓子屋』とは少し趣向を変えて、それぞれが飲食したモノを伝票に自ら記入して最後に精算する方式だ。
プログラムはとくに設けず、焚き火を囲んで語らうだけだが、たまにミュージシャンが参加して突発的にライブを行ったりもする。

6月中旬にも焚き火バーをオープンしたが、キューバ帰りの僕が旅の報告をすると告知しておいたし、ミュージシャンのOJIくんとマーヤがライブ演奏をすると告知したものだから、予想以上に来店者があって、春のイベントと変わらないほどのにぎわいとなった。

そして今年の夏は、新たなプログラムにとりかかった。
ビアガーデンである。
昼間は暑いからカフェを閉めて夕方以降にカフェをオープンさせよう、夏休みの土曜日くらいは生ビールが楽しめるオープンカフェにしよう、というコンセプトで思いついたプログラムだ。
自分が生ビールを飲みたいだけでしょ、という声も聞かれるが、まあ、当たってなくもない。僕にとって、生ビールは特別な存在なのである。

ちょうど20年前の夏になる。
八ヶ岳山麓に移住してログハウスの建築にとりかかった僕らの初めの一歩が、ビールサーバーの購入だったのである。
「家づくりを手伝ってくれたら生ビール飲み放題だよ」と宣言したところ、たくさんの仲間が集まり、わが家は毎晩酒宴を楽しんだ。
汗を流して大工仕事をしたあとに気が置けない仲間と飲む生ビールは最高においしくて、1ヶ月のビール代は15万円を超えたほどだ。

その後も生ビールのある生活を楽しみ、ビールサーバーを買い換えたほどだが、2台目のビールサーバーは昨年の秋に電気関係のトラブルで冷却機能が働かなくなってダウン。
どうすべきか悩んだ僕は、いいアイデアを思いついた。

じつはビールサーバーの構造は、それほど複雑ではない。
樽に入ったビールを炭酸ガスで押し出し、冷えた金属のコイルを通過させて冷却する仕組みだ。
一般的なビールサーバーは金属のコイルを冷蔵庫のように電気で冷却しているが、要は金属のコイルを冷やせばいいだけの話である。
つまり氷で冷やせば済むのだ。

僕は近所に住むクラフト作家、高妻さんにアンプラグド・ビールサーバーの製作を依頼した。
コイルやコックなど、必要な部品を壊れたビールサーバーから取り出し、氷水を入れたクーラーボックスで冷やすシステムに改造するのである。

木工を得意とする高妻さんはクーラーボックスを木枠と板で囲み、側面の板には「麦」マークを、コックの取付部分の金属プレートには「Team Sherpa」のロゴも入れてくれた。
さらに移動しやすいようにフロントにはタイヤも装着し、世界に1台だけのTeam Sherpaオリジナル・ビールサーバーが完成した。

Team Sherpaオリジナル・ビールサーバーの性能は期待以上だった。
コイルが隠れるくらいの水と板氷を入れて冷やせば、これまでどおりの冷たい生ビールが出てくる。
電気のない場所でも使えるし、冷却用のコンプレッサーの音がしないのもいい。
アウトドア派のビール好きには最高のビールサーバーである。

そして7月25日夕方。
わがカフェ初の試みであるビアガーデンはオープンを迎えた。
とれたての枝豆やトウモロコシを茹でたり、特製ラタトゥイユも用意した。
焚き火バーのときと同じく焼き鳥やソーセージもそろえた。
さらに当連載のイラストを担当している華ちゃんは、オリジナルちょうちんやメニュー表までつくってくれた。

準備万端、暑さも和らいで心地よい涼風が吹き、最高に気持ちいいビアガーデンがオープン……だったのだが、残念ながらお客さんはほとんど来なかった。
仲間うちで盛り上がってビールを飲んだだけである。

それはそれで楽しかったんだけど、夏休みなんだからもっとたくさんの人と生ビールで盛り上がりたい。
今後も8月8日、22日、29日にビアガーデンをオープンさせるので、興味のある人は、ぜひチームシェルパへ。
僕もホストとして、みなさんの来店をお待ちしてます。
夜はテント泊も可能です。
みんなで八ヶ岳山麓の涼しい夏の夜を楽しみましょう。

 

Photo:シェルパ斉藤
Illustration:きつつき華

*隔月連載。次回の更新は9月下旬です。

 

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