シェルパ斉藤の八ヶ岳スタイル

八ヶ岳の手づくりログハウスを舞台におくる火にまつわる旅人的カントリーライフ

田舎暮らしの最強マシン

東京から八ヶ岳山麓に移住してちょうど20年。
田舎者として一人前になった記念に、田舎暮らしの最強マシン、軽トラを買うことにした。

狙いはホンダ/アクティの中古車だ。
アクティはかつて所有していた軽オープンカー、ホンダ/ビートと同じミッドシップエンジンを搭載していて、走りが期待できそうだし、中古にしたのは予算的な理由だけでなく、前輪が車体の前方にレイアウトされたセミキャブオーバーの軽トラが欲しかったからである。
現在市販されている軽トラは、すべて前輪が座席の下にあるフルキャブオーバーになっている。
ホイールベースが長くて、乗用車感覚の走りが楽しめるセミキャブオーバーを手に入れるとしたら中古車を探すしかないのだ。

ミッションは運転が楽しい5速MT。
雪道や悪路を走ることもあるから4WDも必要条件。
さらにカラーはポピュラーな白ではなく、レアな青色にこだわってネットで探した結果、走行距離約4万km、車検2年付きのアクティが福岡県の中古車屋で見つかった。
僕はその軽トラを九州取材の帰りにピックアップして、一般道を寄り道しながら3日間かけて八ヶ岳の自宅まで持ち帰った(旅の詳細は現在発売中のBE-PAL誌に掲載)。

ブルーの車体はメーカー純正色のはずだが、再塗装が施されていて、見た目は空色に近い。
「空なんだから太陽と雲を描こうよ」と妻が言い出し、左右それぞれのドアにカッティングシートを加工して太陽と雲を貼った。
さらに軽トラの背後には世話になっているアウトドアメーカーのステッカーを何枚か貼ったものだから、かなり目立つ軽トラに仕上がった。
「どこに停めても目立たないのが軽トラの良さなのに、それじゃ目立ちすぎだ」と、地元のおじさんたちは苦言を呈するけれど、僕も妻も空色の軽トラをとても気に入っている。

その軽トラが活躍するときが来た。
薪にする原木や倒木の運搬である。
わが家はこの20年間、一度も薪を買わずに過ごしてきたが、今年もありがたいことに知人から「木を伐ったけどいらんか?」と声がかかったし、伐採現場での交渉も良好に進んだ。
これまでは軽ワンボックスカーで運んできたが、軽トラの積載能力は段違いだ。
荷台から多少はみ出ても運べるし、ラフに積んでも気にならない。それになんてったって積みやすい。
さすがは〝働くクルマ〟である。
1シーズン以上の薪を簡単に自宅へ運び終えたことで、空色の軽トラがますます好きになった。

わが北杜市では、毎年春になると市の広報誌に『伐採木の無料配布』の情報が載る。
釜無川の河川敷一帯に自生した外来種のニセアカシアを毎年伐採しており、河川広場に積み上げた大量の伐採木を「1家庭につき軽トラ2台分まで」「積み込み運搬は自分自身で」の条件で配布しているのだ。

僕も何度か持ち帰った経験があるが、昨年は思わぬ事態が起きた。
配布開始初日に現場に出かけたら、1本も残っていなかったのだ。
何台もの軽トラが集まっていたが、みな茫然と立ち尽くしていた。
不埒な人々がフライングして配布解禁以前にすべて持ち去ってしまったのである。

今後はもう期待できないかも、と思ったが、今年の配布場所は昨年と違って3ヶ所に分かれている。
伐採木の数が多いかもしれない。
せっかく軽トラを手に入れたわけだから、とりえあず行ってみよう。
どんな事態になっているか興味があるし……ということで、僕と妻は軽トラに乗って配布開始時刻に釜無川沿いの現場に出かけた。

驚いた。
配布現場の入り口から国道20号線に沿って軽トラや軽ワンボックスカーがずらりと並んでいる。その数は30台以上だ。
こりゃ、今年も無理だな。
そう思い込んだ僕は手前のコンビニの駐車場に軽トラをとめ、コンビニで買い物をしてから(無断駐車はダメだからね)、歩いて現場に向かった。

またしても、驚いた。
すさまじい数の伐採木だ。
大量のニセアカシアが束になって積まれ、広場を埋め尽くしている。
積まれた伐採木の端から端まで100m以上あると思う。
これだけ数があれば、並んでいるすべての人々に配布が行き渡るだろう。
現場の入り口には警備員が配置されていて、積み終えたクルマが出たら次のクルマ、というようにきちんと誘導している。
そして人々もお互いに譲り合って、ニセアカシアを積み込んでいる。
フェアな光景である。

積み込みの現場を写真に収めた僕は、軽トラに乗って列に並んだ。
わが家の薪は十分にあるから持ち帰る必要はない。
でも並んでいるクルマの列に近所のIさんの姿があった。
シングルマザーであるIさんのクルマは軽ワゴン車だ。
軽トラはその3倍以上積むことができる。
彼女の薪ストーブライフをアシストしようと考えたのである。

ニセアカシアを軽トラにたっぷり積んだ僕と妻は、そのままIさんの家に向かった。そして「これ、大学の合格祝い」と、荷台のニセアカシアをごっそり庭に下ろした。
Iさんの息子は数日前に東大に合格したばかりなのである(一般人の感覚なら東大合格はすごいことなんだけど、彼は全国模試トップクラスの頭脳の持ち主なのだ。受かって当然の顔をしていたのが、痛快だった)。
そんな規格外の人間には、常識外れのプレゼントがふさわしいかもしれない。
「それじゃあ、また」
合格祝いの伐採木をプレゼントした僕は、いなせなお兄さんになったつもりで軽トラに乗り込んで、Iさんの家をあとにした。

それから1週間後。
僕は再び現場を訪れた。
あれだけの量のニセアカシアがどうなっているのか興味があったのだ。
1週間前は山のように積まれていたけど、見事になくなっている。
でもすべてなくなったわけではない。
図太いニセアカシアがあちこちに転がっている。
場所が広大だからピンと来ないけど、すべて集めたら軽トラ10台分以上はあるだろう。

とはいえ、これを割るのはきついな……。
そんな思いで眺めていたら、知人が軽トラでやってきた。
フリーで大工仕事をしている新田くんだ。
「まだまだあるじゃないですか!」
そうか、新田くんなら薪にできる。
新田くんはポールさんと同じパワーの強力な薪割り機を持っているのだ。
斧では割れなくても、あの薪割り機があれば簡単に薪にできる。

配布は1家庭につき軽トラ2台まで、となっているが、新田くんが担当の職員に問い合わせたところ、残った伐採木は好きなだけ持っていっていい、残ったら産廃として処分しなくてはならないからむしろ持っていってもらいたい、と言われたそうだ。

薪割り機はすばらしい、とあらためて思った。
処分するしかなくなったゴミを薪という有効資源にしてくれるわけだから。
そういうことなら運んでいこう。
僕と新田くんはチェーンソーで太いニセアカシアを玉切りして、お互いの軽トラに積み込んだ。
そして荷台に積み終えた姿を見て、軽トラを買ってよかったとほくそ笑んだ。

最後にわが北杜市民へ耳寄りな情報を提供しよう。
新田くんは、太い幹でもメリメリと割ってしまうこの薪割り機のレンタルをはじめた。1回1万円で期間は1週間まで。
北杜市内なら運搬サービス込みとのこと。
興味ある方はわがカフェ、チームシェルパへ。
チームシェルパのお客さんに限ってレンタルサービスを受け付けようと思う。
みんなで心豊かな薪ストーブライフを楽しもう。

 

Photo:シェルパ斉藤
Illustration:きつつき華

*隔月連載。次回の更新は7月下旬です。

 



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