シェルパ斉藤の八ヶ岳スタイル

八ヶ岳の手づくりログハウスを舞台におくる火にまつわる旅人的カントリーライフ

野田さんと焚き火を囲む会

秋になるとカヌーイストの野田知佑さんが、わが家にやってくる。
毎年行なわれている千曲川のカヌーイベントの帰りに、野田さんは八ヶ岳山麓のわが家へ立ち寄ってくれるのだ。

四国で暮らす野田さんがはるばる来るのだから、みんなで野田さんと焚き火を囲みたい。そんな思いから、僕は気が置けない仲間に声をかけて『野田さんと焚き火を囲む会』、通称『野田会』をわがチームシェルパで毎年開催している。

メンバーは野田さんも僕も長年連載しているアウトドア雑誌、BE-PALの執筆陣や編集者たちだ。BE-PALスタッフの懇親会といってもいいかもしれない。
料理を担当するのはBE-PALでもおなじみの長野修平さんと蜂須賀公之さん。
アウトドア・クッキング名人のツートップが腕を奮って料理を振る舞う、ぜいたくな焚き火会なのである。

そして今年もまた野田会の季節がやってきた。
僕は2日前から準備をはじめた。
十台以上の車がやってくるから、その分の駐車スペースを確保しなくてはならない。
ゲストたちがテントを張りやすいようにドッグランや森も整地しなくてはならない。
丹念に草刈りをして、余分な枝も切り払い、枯れ枝を集めたりして敷地内をきれいに片づけた。

いつもならその程度でおしまいだが、今回はもう一仕事待っていた。
隣の森にヤマザクラの巨木がそびえているのだが、一本の大きな枝が上部で折れて引っかかっている。
落ちそうで落ちない状態が何日も続いているのだ。
駐車するゲストの車の上に落ちてくる可能性がなくもないから、樹木を半分ほど伐採することにした。

二段ハシゴを延ばして伐採する大掛かりの作業となったし、伐採した樹木の片づけで汗だくとなったが、流れる汗と疲労感が心地いい。
年に一度の待ちわびた会のために体を動かして働くことが単純に楽しいのだ。
それは祭りの準備に追われているときのワクワクした高揚感に近いかもしれない。

カフェのウッドデッキに人数分のイスを並べ、焚き火用の薪もたくさん運び、生ビールの樽を20リットル購入。
到着する順番と帰る時間を考慮して、誰の車をどこに駐車させるかレイアウトを考えて、準備完了。
あとはゲストの到着を待つのみだ。

一番乗りはカメラマンの福島章公だった。
福島とのつきあいは30年近くになる。
かつて僕はパキスタンの山岳地帯カラコルム・ハイウエイを自転車で旅したことがあり、そこで出会った日本人旅行者が、中国からポルトガルまでユーラシア大陸走破をめざして自転車で越えてきた若き福島である。
その後、シェルパ斉藤としてのデビュー作でもある東海自然歩道を歩いたときに撮影担当で同行してもらったりして、長いつきあいが続いている。

現在発売中のBE-PAL10月号の表紙を撮ったのも福島であり、れっきとしたプロのカメラマンなのだが、福島は横須賀の自宅から自転車に乗って3日間かけてやってきた。
他のメンバーは野田会に参加するために(野田会は週末ではなく、月曜日の夜に開催している)スケジュールをやりくりしているのに、3日もかけるなんて、さすがは自由人の福島である。

やがてふたりの料理人が到着した。
最初に到着したのは蜂須賀さんだ。

パークレンジャーであり、ネイチャー関連の執筆も撮影もこなす蜂須賀さんはキノコ名人としても知られる。
キノコを使った料理をいくつも用意してくれるそうで、すぐに準備にとりかかった。
タマゴダケやムラサキヤマドリダケ、ムレオオイチョウダケなど、蜂須賀さんが採ってきたキノコがキッチンテーブルに次々と並べられる。
蜂須賀さんは昨年の野田会に仕事の都合で参加できなかったため、その雪辱に燃えているのだ。

やや遅れて長野修平さんも到着。

アウトドアのイベントでハンドメイドのワークショップを開催している長野さんのスタイルは、どれもフォトジェニックかつシステマチックだ。
自然木のキッチン台や調味料ボックスを手際よくデッキに並べて、キッチンスタジオをつくりあげていく。
キノコ料理の蜂須賀さんに対して、長野さんは肉料理を担当。
お金では買えない、一夜限りの豪華な料理ショーが幕を開ける。

そして主役の野田さんも到着。

野田さんがどんな人物か、このサイトを見ている人々にはあらためて説明する必要もないだろう。
ひとことで表現するなら、野性と知性を兼ね備えた一流のアウトドアズマンである。
多くの人々が野田さんに感化されたように、わが家も野田さんから多大なる影響を受けた。
なんせ、僕と妻が知り合って結ばれたのも、野田さんがきっかけなのだから。

そのあたりの事情は省くとして、僕は野田さんに認められる男になることを目標にアウトドアを旅して執筆してきたつもりでいる。
だからいまでも野田さんと接するときは、いい意味で緊張感を持っている。
襟を正す気にさせる人生の大先輩だし、年老いてもかっこいい、憧れの男なのである。

野田さんをそんなふうに思っているのは、僕だけではないだろう。
野田会に集まるメンバーのほとんどがそう思っているはずだ。
だから、蜂須賀さんも長野さんも張り切って料理の腕を振るうし、忙しいなか、みんながスケジュールをやりくりして八ヶ岳山麓のわが家まではるばる足を運んでくれるのである。

日が傾くにつれて、BE-PAL関係者が続々とやってきた。
サラリーマン転覆隊の本田亮隊長、元BE-PAL編集長の加藤直人さん、『つるの剛士の地球はどこでも遊園地』を連載している松浦裕子、『いきものNEW門』の奥山英治、『フィールドナイフ列伝』と『ルーラルで行こう』を連載しているかくまつとむ、BE-PAL編集長の大澤竜二、BE-PAL副編集長の沢木拓也、同じくBE-PAL副編集長の住川亮、BE-PALのイベントを仕切る森雅浩さん、山岳ライターの高橋庄太郎、山系イラストレーターの鈴木みき、ビックコミックスピリッツ編集長の村山広など、など……。

野田さんを愛するすばらしき仲間が集まり、蜂須賀さん、長野さんの両巨匠によるアウトドア料理の宴が幕を開けた。

(画像クリックで拡大します)

 
今回集まったメンバーと僕は20年以上BE-PALに関わり、BE-PALをつくり続けてきた。
チームBE-PALともいえる間柄だ。
みんなで切磋琢磨して高め合ってきた、かけがいのない仲間だ。
誰も自分を誇示したりはしない。
気兼ねなく、本音で語り合い、笑い合える。
そしてその中心に野田さんがいる。
僕だけではない。みんなが野田さんを敬愛している姿が微笑ましい。
野田さんがいるから、チームBE-PALはひとつにまとまれるのだ。

そんな思いとは関係なしに、野田さんの愛犬アレックスは、焚き火に夢中。
子犬の頃からそうだったけど、焚き火が大好きで、火の粉が上がるたびにジャンプして火の粉をパクリと口に入れる。
火の粉が上がらないと、僕たちに「ワン、ワン(火の粉を上げて)」とせがむ焚き火犬なのである。

焚き火を囲んで語らうみんなの姿を目にして、このような場をつくれてよかったとあらためて思う。
みんなが集まれて、焚き火を囲んで楽しめる場所をつくりたくて、妻と僕は東京を離れて八ヶ岳山麓で家づくりをはじめたのだ。
20年が経って、ほぼ理想的な空間が完成したと、今宵は胸を張りたい。
そして来年の秋も野田さんが来る日を、僕らは心待ちにしている。

 
Photo:シェルパ斉藤
Illustration:きつつき華

*隔月連載。次回の更新は11月下旬です。

 

  • ページの先頭へ

薪ストーブエッセイ・森からの便り 新着案内