シェルパ斉藤の八ヶ岳スタイル

八ヶ岳の手づくりログハウスを舞台におくる火にまつわる旅人的カントリーライフ

草刈りレボリューション

草刈りの季節がやって来た。
わが敷地は借地を含めて約1000坪の広さがあり、
大地が芽吹く4月から枯葉が散る11月までの期間は草刈りが欠かせない。
とくに雨が多くて日照時間も長い梅雨から夏にかけては草木の生長が著しく、
この時期に草刈りをサボると大変な状況になる。

かつて夏休みに家族全員で1ヶ月に及ぶキャンピングカーの旅をしたことがあるが、旅から帰ってくると庭を覆い尽くした雑草の高さは、
当時小学1年生だった長男の背丈を超えていた。
そのときの草刈りは大変しんどくて、
それに懲りてからは2週間に一度のペースで全敷地の草刈りを行なっている。

草刈りで活躍するのは、刈り払い機と呼ばれるエンジン式の機械だ
(八ヶ岳山麓に移住して最初にその名を聞いたときは『仮払い機』だと勘違いした。
なんて、便利な機械があるんだと思った)。

刈り払い機の主流は、混合ガソリンを燃料とする2ストエンジンのモデルだ。
混合ガソリンはホームセンターでも缶入りで売られているが、
専用の軽量容器を使えば、ガソリンとオイルの比率が25対1の適正燃料を安く、
簡単に作ることができる。

うちにはホンダ製の4ストエンジンの刈り払い機もあるが(別の機会に詳しく紹介したい)、メインで使っているのは安価な2ストモデルだ。
チェーンソーと同じ音色の甲高い排気音は、
ひと昔前の2ストのオートバイに似ている。
わが集落では年に数回、地域の道路の草刈りをする奉仕作業があるが、
集団で草刈りをしているときの音は、オートバイの集団走行に聞こえなくもない。

刈り払い機の扱いはそれほどむずかしくはない。
運転スイッチを入れ、チョークを引いてスターター紐を勢いよく引っ張ればいい。
エンジンの扱いを心得ている人なら問題なくかけられるし、
草刈りのコツも何度か経験すれば習得できる。

気をつけたいのは安全面の配慮だ。
作業中は人、とくに子供を近づけてはならない。
エンジンがかかっている間は周囲の音が聞こえにくいし、
回転刃に視点が集中しているから周囲の状況が見えにくいのだ。
また、高速で回転する刃で小石などが飛び跳ねたり、飛び散った草が目に入ったりするので、作業中は防具も欠かせない。
僕は長靴に革手袋、JAで購入したメッシュ地の専用エプロン、そしてフェイスガードといった完全武装スタイルで草刈りに臨んでいる。

草と向き合うシーズンは、薪のオフシーズンでもある。
見方を変えれば、薪を扱うシーズンは草刈りのオフシーズンとなり、
田舎暮らしは草か薪のどちらかと常につきあって生活していることになる。

草刈りと薪割り。
僕の生活に欠かせないふたつの作業は似てなくもないけど、
草刈りは薪割りのように楽しくはない。
薪を割る行為はスポーツに通じる快楽もあるし、
働いたぶんだけ薪が貯まっていくからやりがいも感じるけど、
草刈りは本質が異なる。
やらなくてはならない義務的な仕事なのだ。
雪が積もったらしなくてはならない雪かきの感覚に近い。

できれば、妻にも手伝ってもらいたいところだが、
草刈りはもっぱら僕の仕事だ。
世の女性の大半がそうなのかもしれない。
エンジンをかけたり、エンジンを扱う作業に本能的な抵抗感があるようで、
刈り払い機の使い方を何度教えても
「よくわかんない。それにちょっと怖い」と敬遠してしまう。

草刈りのシーズンは、バックパッキングを中心としたアウトドアの旅を続けている僕にとってはベストシーズンでもあり、立て続けに旅へ出かけてしまうため、
この時期は家に帰ってくるたびに原稿に追われつつも草刈りをする羽目になる。

そんな苛立ちを感じながら、
エンジンを唸らせて千坪の土地の草刈りをするものだから、
たまに失敗して妻が植えた花を勢いで草とともに刈ってしまうこともある。
「どうして雑草と私の植えた花の区別がつかないわけ!」と妻に叱られると
「だったら自分で刈れよ!」と言い返してしまうが、
家をしょっちゅう留守にする自分の方が分が悪く、
僕はひとりで黙々と草刈りを続けることになる。

そんなわが家に救世主がやって来た。
バッテリーを装着して刃を回転させる、
マキタの充電式草刈機だ(刈り払い機ではなく、商品名が草刈機になっていた)。
以前から存在は知っていたが、
近所のホームセンターが展示処分品として格安で販売していたので、即買いした。
充電タイプのメリットはいくつもあるが、
最大のポイントは扱いの簡単さだろう。
燃料を作る必要も、エンジンをかける手間もなく、
電動工具を扱う感覚で作動できる。
1年前に電気自動車のライクT3が来たときに匹敵するレボリューションだ。

エンジンから解放されるとこんなにも楽なのかと、つくづく思った。
エンジンは切ったり、かけたりの作業が面倒だから、
草刈りの作業を始めたらエンジンがかけっぱなしの状態が続く。
でもモーターはその必要がない。
スイッチを押すと刃がすぐに回転する。
そして離すとブレーキがかかって停止する。
安全だし、音が静かで振動も少なく、回転もスムーズだ。

またエンジンタイプは後部に刃を駆動させるエンジンと燃料タンクがあるため、
重心は後ろにあってハンドルを前に押さえつける感覚で運転するが、
充電式は前にモーター、後にバッテリーがあるため、重量バランスがとれている。
全体の重量も軽く(約3kg)、作業が疲れにくい。

さらにモーターならではの特徴に驚いた。
草刈りをしていると刈った草が絡みついて
刃の回転が止まってしまうことがしょっちゅう起きる。
エンジン式の場合はいちいちベルトから機械を外して
手で草を取り除かねばならないのだが、
充電式草刈機は手元のスイッチを切り替えると
モーターが逆回転して絡んだ草を除去してくれるのだ。

利点はまだまだある。
妻の実家は神奈川県の市街地にあって、ほぼ空き家状態のため、
庭の草刈りには苦労していたが、
この充電式草刈機なら燃料漏れを気にすることなく車に積み込んで運べるし、
騒音で近所迷惑になることなく街中でも草刈りができる。

とまあ、エンゼルスに入団した大谷翔平なみの活躍に僕は大いに満足しているが、
最大の貢献は妻に寄り添っている点だ。
エンジンタイプの難点をすべてクリアして、簡単に扱えるものだから、
妻も積極的に草刈りをするようになった。
僕が間違って花を刈ってしまって、言い争いが起きることもない(たぶん‥‥)。
充電式草刈機に今シーズンのMVPを与えたいと思う。

Photo:シェルパ斉藤
Illustration:きつつき華

*隔月連載。次回の更新は7月下旬です。

 

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